日本地理学会発表要旨集
2016年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 304
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要旨
2014年広島土石流災害による被災建物の立地条件
*田中 圭中田 高
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キーワード: 2014年広島土石流, GIS, DSM, UAV
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抄録

1.はじめに
自然災害の多くは,地形が急激に変化する場所に人間が不用意に立ち入ることで生ずる人災である.2014年8月20日未明に広島市北部で発生した土石流災害もこの例に当てはまる.土石流は花崗岩山地の山麓緩斜面に広がる住宅地を襲い,75名の犠牲者(災害関連死も含む)を伴う大災害を引き起こした. 土石流をもたらした集中豪雨やそれに伴う被害の状況については,既に幾つかの詳細な報告がある(土木学会・地盤工学会 2014など).その多くの報告では土石流被災地域の宅地化について言及しているが,新旧の空中写真や衛星画像の比較をもとに1955年以降の都市化の問題を定性的に検討したものが殆どで,戦後の高度経済成長期(1954~1973)に建築された建物に大きな被害が出たと一様に結論づけている. 本発表では,広島市安佐南区阿武山南東麓で発生した被害について,被災建物の分布とその建築年代の関連を定量的に分析し,都市周辺のスプロール現象による住宅地拡大によってもたらされた本災害の特徴について議論する.また,被害が集中した場所に災害の特徴を解明する手がかりがあるとの立場から,今回の土石流災害のなかでも特に被害が甚大で多数の犠牲者(全犠牲者75名中41名)を出した広島市安佐南区八木3丁目を対象とした.
2.手法

本発表では,多時期に撮影された空中写真をSfM-MVS(Structure from Motion – Multi-View Stereo)による簡易測量とGISを用いて,被災地域の宅地化の過程を明らかにし,建築時期別に被災建物の立地条件についての詳細な分析を行った.
3.結果
被害を受けた住宅は高度経済成長期に建築されたものに集中したという一般的な見解は,この期間に建築された建物数の多さから当然であり,間違っているとは言いがたい.しかし,壊滅的な被害を受け,被災後更地化された建物あるいは犠牲者が発生した建物の分析結果からは,高度経済成長期以降にも土石流災害の危険性が極めて高い場所に住宅建築が新たに行われ,大きな被害が発生したことが明らかになった.
4.まとめ
本発表の分析で明らかになったのは,土石流渓流の谷口およびその周辺の流路に位置していた建物が壊滅的な被害が発生し,多くの犠牲者が出たことである.このような場所に位置する住宅等の建築の禁止,既存の建物については移転あるいはコンクリート土台による嵩上げなどの具体的な対策がとられるべきである.
参考文献
土木学会・地盤工学会 2014. 平成26年広島豪雨災害合同緊急調査団・調査報告書

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© 2016 公益社団法人 日本地理学会
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