日本地理学会発表要旨集
2016年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 918
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要旨
「地理的な見方」の形成における日常生活と地域学習の役割
―香川県丸亀市本島の児童・生徒を事例として―
*冨家 遼子
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抄録
本研究では、地理的な見方・考え方を論じる上で、今まで「教育を受ける立場」であった子どもの存在を、「生活者」としての立場からとらえている。日常生活を通じて形成される地理的な見方・考え方を見出し、地域に応じた地域学習を提案することを、研究の目的とする。香川県丸亀市本島において、小学生及び中学生の合計15名の子どもに対して、生活行動及び島内外への説明を想定した島の位置・場所に関するアンケート調査を用いて、調査を行った。
地理的な見方・考え方の指導では、見方と考え方を区別した上で、まず、その出発点として、地理的な見方の形成に焦点が当たる。地理的な見方は、特に「位置」と「場所」という概念から形成される。 位置は、座標系と距離尺度をもとに形成される方位感と、事物の相対的な位置関係によって把握される概念である。また、場所は、地形的・線的目印、その他事物の特徴をとらえることで把握される。
調査地における小学生は、交通機関や景観的な見方など、(A)子どもの日常(遊び空間やコミュニケーション行動といった、子どもたちが自ら生活者として行動する経験にもとづくもの)の経験による、具体的で生活的な見方が形成されていた。身近な地域である本島に対しては、「遊び」の経験から地理的事象をとらえている一方、香川県に対しては「買い物」の経験が大きいものの、位置や場所による地理的な見方は形成されていない。中学生は、(A)に加え、(B)家族や友人(家族や友人に関係する産業や観光業、または、大人の会話から知り得たと推測できるもの)や(C)学校教育(図書館や市民センターといった学校教育や地域学習の教材となったことで、子どもたちが経験し、日常生活の一部として機能するようになったもの)による影響も大きく、個人的・具体的な日常生活の事象よりも、全体的・客観的な地理的事象をとらえる傾向が強い。本島に対しては、(B)によって、香川県に対しては、(A)、特に週末の「買い物」の影響が大きく、小学生よりも知覚環境の拡大がみられる点が、地理的な見方の形成に寄与している。一方で、経験を伴わず、マスメディアや大人の会話等から知り得たと推測される産業・商業の場所の特徴が、「地理的」ではない場所の理解へと作用している。
「生活者」としての立場から形成された地理的な見方は、交通機関、他の地理的事象と位置関係、景観的・方位的な見方の傾向が大きい。その一方で、分布的な見方が弱く、これを地域学習で補完する必要がある。分布とは、「地理的事象が、どのように広がっているか」という面的な見方である。分布は、地理的な見方・考え方の中でも、「関係」「地域性」に並んで重要とされ、その中でも特に基本となる概念である。教員は、子どもの知覚環境を、物理的距離の近さや学区・行政区からではなく、子どもの行動様式に基づいて把握する必要がある。その上で、授業で扱う地理的事象の精選が求められる。地域に多く見られる事象や、生活者としての子どもに近い事象ではなく、知覚環境を広げるような地理的事象を選び、また、分布図の作成とその先の「考える」作業を見据えて、地域学習を開発する必要がある。
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© 2016 公益社団法人 日本地理学会
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