日本地理学会発表要旨集
2016年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P046
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要旨
モンゴル北部の土地利用がセレンガ河の元素動態に及ぼす影響
*ミャンガン オルギルボルド川東 正幸
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抄録

セレンガ河はモンゴル北部の山岳域に源流をもち、バイカル湖まで流れる国際河川であり、バイカル湖に流入する河川の中では最長であり、最大の水量を供給している。その流域には様々な土地利用を有しており、土地利用を介した人間活動はバイカル湖に影響を及ぼすと考えられる。近年、モンゴル国側の流域では急激な工業化、都市化と農業の機械化が進行しており、土地劣化が引き起こす水質への影響が懸念されている。特に、鉱工業のための採鉱活動による重金属汚染について報告されてきた。本研究では北部モンゴルのセレンガ河集水域を流れる河川より採取した水試料についてフィルターを用いて得た画分と底泥中の元素分布を分析し、土地利用との関係を考察した。0.7μmのガラス繊維ろ紙と0.025μmのメンブランフィルターを用いた分画を行い、補足された粒子をそれぞれ、懸濁粒子(Suspended Solids (SS))、コロイド粒子と称し、最小孔径を通過した画分を溶存態として分析試料とした。SS試料は硝酸による酸分解を行って、分析に供した。分析は金属を主体とした元素と各種陰イオンの定量を行った。有機成分も炭素・窒素量として定量した。SSは河川の流量と正の相関関係を示しており、流量が多いほど懸濁粒子が多く、濁ることがわかった。ただし、二本の支流は流量に対して高い懸濁粒子濃度を示しており、農地利用とそこでの機械化が影響していることが考えられた。全体的には、溶存画分では塩基類が主体であり、重金属類はSS中に多く含まれており、鉄およびアルミニウム酸化(水酸化)物に吸着されていると考えられた。露天掘りの金鉱山近くではSS濃度は高くなく、比較的高いコロイド態の鉄濃度によって特徴づけられた。このことはこれまでに報告されている同地域の地下水脈を通じた拡散によるコロイド態鉄の溶出として説明できる。集水域に湿地がある小河川では溶存態の元素濃度が高く、溶存有機物による溶解・輸送過程が考えられた。重金属に着目すると、SS画分の動態が重要であると考えられ、その動態には吸着や沈降の過程が関与していることが予測された。本研究の研究対象領域では、流量に対してSS含量が高かった河川では銅と亜鉛のSSによる吸着保持率の高いことが確認された。このことは土地利用がSSの吸着を通じた重金属の輸送を促進することを示唆しており、同地域では主に農業での機械化によってより多くのSSが供給されたためであることが推察された。また、SS表面の荷電分布の共存イオンによる変化は凝集・沈降を生じると考えられた。すなわち、湿地より溶出する高い塩基濃度は酸化鉄コロイドの凝集を可能にし、下流域で沈降集積される過程が認められた。これらは河川水の特性もさることながら、その上流における土地利用または土地被覆が影響しているものと考えられ、土地利用・被覆の変化は河川中の汚染物質を含めた物質の動態に多大な影響を与えることが推測された。

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