日本地理学会発表要旨集
2016年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 814
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要旨
沈降域の沖積層の特徴
台湾の曽文渓デルタを例に
*高橋 瑛人堀 和明田辺 晋陸 挽中黄 智昭
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抄録

はじめに:近年,サンゴ礁化石や陸棚堆積物を用いたMIS(Marine Isotope Stage)2から1にかけての海水準変動復元がおこなわれているが,14 ka以前の情報は少ない.また,サンゴ礁は生息水深に5 m以上の幅があり,海水準を復元する際の深度方向の精確性に欠ける.こうした不確実性の存在が,MIS2以降の海水準変動の正確な復元を困難にしている.
テクトニックな沈降域では,海水準の上昇に対応する砕屑物の供給に対して常に堆積空間が上方に付加され続けるため,海進期・海退期の堆積システムともに累重的な堆積様式を呈することが知られており,時間間隙の小さい厚い沖積層が形成されている.これらの沖積層に含まれる潮間帯堆積物を用いることで,MIS2以降の海水準変動を高精度に復元できる可能性がある.
しかし,沈降域はテクトニックな変位量の補正の必要性を嫌ってこれまで避けられてきたため,海水準変動に関する研究事例は少ない.沈降域の堆積物試料を過去の海水準の指標として信頼に足りうるものとするためには,これらの地域における沖積層の特徴を明らかにし,基礎事例として蓄積させることが重要である.
方法:台湾西岸の曾文渓デルタ河口部で得られた掘削長250 mの2本のボーリングコア(漁光,台南)について,堆積相の区分,粒度分析,強熱減量測定をおこなった.なお2本のコアから12点の年代値が得られている.台湾は大陸-島弧衝突作用に伴う褶曲衝上断層帯に位置し,台湾西岸の平野部はおおよそ5 mm/yrで沈降している.
結果:曾文渓デルタ河口部の沖積層は,岩相と生物化石層,粒度組成の傾向に基づいて,下位からおおむね蛇行河川堆積物,塩性湿地堆積物,沖浜堆積物,デルタ堆積物,干潟堆積物の5つの堆積相に区分された.蛇行河川堆積物から沖浜堆積物は海進期の,デルタ堆積物と干潟堆積物は海退期の堆積システムにそれぞれ区分される.
蛇行河川堆積物および塩性湿地堆積物は,上方細粒化を示す極細粒砂ー中粒砂層とシルト層からなり,洪水堆積物とチャネル充填堆積物の互層をなしていると考えられる.沖浜堆積物は塊状シルトからなり,静穏な海底が堆積環境として考えられる.デルタ堆積物は極細砂から細砂へ緩やかに上方粗粒化傾向を示し,デルタフロントにあたる堆積物と考えられるが,途中急激にシルトへと粒度を減じる層準がある.干潟堆積物は,主に細粒砂ー中粒砂からなるが,デルタ堆積物と同様に途中にシルト層を挟在する.堆積年代は,蛇行河川堆積物中からそれぞれ25 kaをこえるものが得られている.なお強熱減量はすべての堆積相においておおむね粒度と逆相関を示す.
考察:当地域においては沖積層の層厚が250 mをこえており,現在のデルタフロント末端付近の水深(約30 m)に比して大きな層厚(約60 m)を有するデルタ堆積物が堆積していることや,潮差(約0.6 m)に比して大きな層厚(約20 m)を有する干潟堆積物が堆積していることから,テクトニックな沈降の影響を受けて累重的に地層が形成されてきたことが示される.蛇行河川堆積物中から25 kaをこえる堆積年代が得られていることから,本地域では,海進期の堆積物中に最終氷期最盛期へ向かう海水準低下期の堆積物が保存されていると考えられる.
また,デルタ堆積物や干潟堆積物の砂層中に挟在する泥層は,一時的な水深の増加や,河口の移動といった堆積環境の急激な変化を示すと考えられる.2本のコア中から同様の傾向が確認できるため,局所的な要因によるものとは考えにくく,これが水深の増加によるものであった場合,より広域に影響する地震性の沈降を示す可能性がある.

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