日本地理学会発表要旨集
2016年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: S1102
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要旨
オープンデータ活動とネオ地理学
*西村 雄一郎
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抄録
「ネオ地理学(neo-geography)」(瀬戸2010)が近年日本においても盛んになりつつある.ネオ地理学とは,地理学や地理情報の専門家でない一般の人々が,それぞれの興味関心や日常生活上の状況に応じて,インターネット上の地理情報を閲覧・検索・利用・作成することを指す語である(Turner 2006).2011年に発生した東日本大震災をひとつの契機として,地理情報や地理情報の地図化の重要性が一般の市民に認識されつつある.例えば,災害情報の地図化を行ったsinsai.info (http://www.sinsai.info)では,OpenStreetMapを用いたベースマップとなる被災状況の地図化や,災害情報のチェックや掲載などのモデレーティング活動が,OSMFJ(OpenStreetMap Foundation Japan)や多くのネオ地理学者からなるグローバルなボランティアによって担われた(Seto and Nishimura, 2016).また,OpenStreetMapプロジェクトは,日本ではネオ地理学としての実践を示す主要な活動の一つとなっているが,日本を主な活動場所としている登録ユーザは,2011年4月に大幅に増加し,その後も登録・アクティブユーザ数は継続的に増加している.
オープンデータに関わる政策もネオ地理学的な活動を促している.2013年にG8オープンデータ憲章は合意されたものの,日本政府のオープンデータに向けての行動のペースは遅く,特に地方自治体のオープンデータ開放は限られたものにとどまっている(datainnovation.org, 2015).その一方で,日本においてオープンデータに関する市民のボランタリーの活動は盛んになっている.市民が主体となりオープンデータを活用した地域課題解決に取り組むコミュニティ作りやテクノロジーを利用した活動を支援する非営利団体であるCode for Japanは,Code for Americaをモデルとして2013年に設立され,公認ブリゲイド(ブリゲイドとはCode for Japanが提供する支援プログラムに参加している各地のコミュニティのことを指す)が33,公認準備中のブリゲイドが25を数える(2016年1月現在).またブリゲイドが関与し世界各地で同時開催されるイベントであるインターナショナルオープンデータデイでは,2013年には日本から8都市のみの参加であったが,2014年には35都市,2015年には62都市の参加により行われた.これらのイベントでは,ハッカソン・アイデアソン・データソン(オープンデータを活用して地域の課題解決につなげるプログラム・アイデア・データなどを丸一日作成するイベント)などのさまざまな種類のイベントが開催されたが,これらにおいて地理情報の作成や利用は中心的なトピックのひとつとなっている.
オープンなGISデータやジオコード化されたデータは日本では未だ限られているため,こうした活動では,地域の課題を地理学的に可視化・分析するために,地理情報の作成を含む活動・地理情報の作成と利用の両者を行うためのイベントも多く行われている.オープンソースのGISソフトウェアであるQGISの利活用や開発に関わるイベントとして,2014年7月東京で第1回QGIS hackfest,2015年8月に第2回QGIS hackfestが東京・札幌・大阪の3年で開催されたが,これらのイベントは全てボランタリーにネオ地理学者が企画・開催を行っている.
また,Code for X(Xには各都市名が入る)の活動の主要な目的は,ICTを利用した地域の課題解決であり,地理的なものの見方や分析がその中で重要になってくる.これは,狭い意味のGISの利用・分析にとどまらず,インターネットを利用したさまざまな地理的情報の可視化・共有化も含まれる.日本において,地域のオープンデータ活動で用いられるオープンデータプラットフォーム(図1)では,定量的なデータのみならずさまざまな定性的なデータの作成・共有などが行われており,地域で共有を行うべきであると住民自身が考える地理的な知の多様性を示している.
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© 2016 公益社団法人 日本地理学会
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