日本地理学会発表要旨集
2016年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 515
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要旨
生活困窮世帯における子どもの進路選択
-友人関係に着目して-
*八木 翔吾
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抄録

地理学において子どもの進路選択は、不安定雇用への就業過程の一部としてとらえられ、その地域社会との関係が学校や家族といった制度的側面から検討されてきた。しかし生活困窮世帯の子どもの多くが不安定な職業に就業していくいわゆる「貧困の連鎖」が社会的課題とされるなか、生活者としての子どもをとりまく社会関係を包括的にとらえて支援策を考える必要がある。本研究では教育社会学的な視点を導入し、これまで言及が少ない友人関係がいかに生活困窮世帯の子どもの進路選択に影響するのかを考えるための枠組みを提示することを目的とする。  調査は生活困窮世帯の中学生2名と高校生1名に、小学校時代から現在に至るまでの生活経験、中学卒業後の進路選択と友人関係について、半構造的ンタビュー調査を行った。  対象地域は横浜市郊外である。横浜市において生活困窮世帯はインナーエリアだけでなく、60年代以降に開発が進んだ住宅地に分散している。現在も大規模な公営団地への居住が多いものの、生活困窮世帯の子どもは学校において多様な社会階層の友人関係を選択していると考えられる。つまりウィリス(1977)が対象としたような、均質な階級文化とは。同地域では、「貧困の連鎖」の問題に対し、各区が抱える問題に応じ、生活困窮世帯の子どもへの無料の学習支援などを行っている。  調査の結果、家庭の不和などが要因となって、子どもは低学力に陥っており、家庭環境の影響を強く受けていた。またそれが子どもの高校進学における進路選択を狭める結果となっていた。子どもは友人関係において経済的困窮による排除は経験していなかった。そこでは遊び方による工夫が見られた。友人関係の内容としては、ウィリス(1977)が描く協働で独自の文化を築くような強固な関係でも、貧困の連鎖の研究で多く見られた彼らを排除していくような関係でもなく、一見親密に見えるものの、連帯感の緩い関係であった。連帯感の緩い関係を築くのには、家庭の不和との関連があると考えられた。その関係の中で、友人は子どもの学習意識を高め、成績を伸ばすような効果は、一部においてしか見られなかった。しかしその存在が、子どものストレスを軽減するような効果は見られた。  調査結果から、友人関係は貧困の連鎖に直接影響を与えるようなものではないと考えられた。しかし友人関係は貧困の影響を少なからず受け、また生活困窮世帯という家庭内で不和を抱えやすい環境にいる子どものストレスを軽減しうる存在となる。貧困の連鎖の研究では、その要因を明らかにする研究が多いが、本研究で扱った友人関係など、要因のリスクを軽減するような家庭外の働きを考慮に入れる必要があるといえる。また地方自治体で盛んに行われている学習等支援についても、友人関係では補いきれない学習意欲の促進が求められる。しかし学習意欲がもともと高くない場合には、学習支援が行われている場にすら来られない子どもがいることも考えられる。そういった子どもたちを支援するために、教育支援専門員やスクールソーシャルワーカーなどをあわせた活用が求められるだろう。

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