日本地理学会発表要旨集
2016年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 601
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要旨
公園の配分における環境正義の分析
客観的および認知的な近接性と地理的剥奪指標の関係
*安本 晋也中谷 友樹
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抄録

1.研究の背景

環境正義は「その構成員の社会的属性(貧困レベル、年齢や人種など)に関わらず、すべての地域が等しく環境リスクもしくは環境アメニティへのアクセスを保有している状況のこと」と定義される (Liu 2001)。米国では80年代から、マイノリティや貧困層が集住する地域に迷惑施設や大気汚染が集中し、健康被害が深刻化する事態が頻発した。またこうした地域は公園や緑地などの健康に寄与する環境アメニティが少ないという問題も指摘された。

このような公平でない環境リスクやアメニティの配分は貧困や健康の問題をより深刻化させ、様々な社会的非効率を招く可能性があり、近年では環境正義を環境保全における基準の一つとして考慮することの重要性が問われている。しかしながら環境正義の計量的研究のほとんどは米国もしくは欧州を対象にしたもので、日本の現状はよく分かっていない。Yasumoto et al. (2014)は横浜市を対象に縦断研究を行い、公園の近接性における不正義の発生メカニズムの解明とそれに基づく是正策を提言したが、未だに我が国での研究蓄積は少ない。またより重要な点として日本国内外の過去研究に対し総じて言えることは、環境アメニティへの近接性を客観的な地理的距離で計測したものが多く、各人が認知している主観的な公園のアクセスのしやすさがその貧困レベルに応じてどのように分布しているかは研究されてこなかった。各人の主観的な認知に基づいた近接性指標は、個人の属性やライフスタイル、近隣環境の特徴などの包括的な要因を反映しているため、客観的指標よりも現実の公園へのアクセスのしやすさをより正確に捉えていると言われている。

2. 分析手法

こうした点を踏まえた上で本研究では、大阪府を対象に客観的および認知的な公園への近接性を測り、それらと近隣の地理的剥奪指標との関係を見る環境正義の分析を行った。公園への近接性の客観的指標として、地理情報システム(GIS)を用いて国勢調査における小地域ごとの公園の数や総面積などを計算した。また認知的な公園への近接性指標は、郵送質問紙調査を用いて対象となった世帯に「公園など誰もが利用できる緑地・空き地が十分にあるかどうか」についてのスコアを尋ねた。この郵送質問紙調査は大阪府において層別ランダムサンプリング後に抽出された180箇所の小地域に居住する世帯を対象に行った(N=2,527、 回答率=約40%、 調査年=2010年)。また、地理的剥奪指標は国勢調査より失業率や高齢単独世帯割合などの貧困と関連がある指標を抽出し、重み付け合成を行い作成した。次に、大阪府内のDID地区に属する小地域を地理的剥奪指標に応じて4分位に分けたうえで、各グループにおける客観的・認知的近接性の指標がどう分布しているかを分析した。

3. 分析結果と考察

客観的近接性と地域の剥奪指標、および認知的近接性と剥奪指標とのそれぞれの関係を分析した結果、双方において貧困レベルと近接性指標との間に負の相関、すなわち環境の不正義が見られた。また多変量解析の結果として、認知的近接性は客観的な公園の近接性のみならず、個人の属性や近隣の交通に対する安全性の認知、および近隣に落書きやごみの放置が無いなどの美観の保全の度合いによって予測されることが分かった。これらの結果から公園の配分における不正義の是正には、ただ社会的弱者が集住する地域に公園を設置するのみならず、地域における交通の安全性や美観の保全に努めるなど多面的な配慮が必要になると考えられる。


文献

Liu. F.
2001. Environmental justice analysis: theories, methods, and practice, CRC
Press LLC,the USA

Yasumoto,
S., Jones A., and Shimizu. C. 2014, Longitudinal trends in equity of park accessibility
in Yokohama, Japan: An investigation of the role of causal mechanisms, Environment
and Planning A
, 46: 682–699






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© 2016 公益社団法人 日本地理学会
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