抄録
1.はじめに 北j近畿および中国地方で生じた北丹後地震、鳥取地震、鳥取県西部地震はいずれも活断層として認識できない部分にも地震断層を出現させている。一方この地域にはリニアメントが数多く分布する(活断層研究会1980)が、系統的な変位地形をもつ活断層は少ない(中田今泉編2002)。最近の調査で認定された活断層の特徴をまとめ、その発達史的意味や認定に当たっての留意点について述べる。
2 最近の調査によって認定された活断層 この地域では最近の詳細な地形判読(たとえば田力ほか2012)や綿密な地質調査(たとえば佐川ほか2008)によって新たに数本の活断層が認定されている。さらに筆者のちょうさによって京都府福知山市に段丘堆積物を切る断層露頭を伴う断層が見出された。これらは中田今泉編(2002)では一部しか活断層として認定されていない、ないしまったく認定されていなかったものである。これらの活断層は山地・丘陵に位置しており、段丘面のような良好な変位基準を持つ部分はごくわずかである。また、いずれの活断層も直線状に並ぶ斜面の傾斜変換線(遷緩線)や直線状の谷によって特徴づけられ、部分的に沢や尾根の小規模な屈曲が認められるものの、系統的な変位落ち径が長い区間で連続することはない。
3 構造発達史からみた北近畿と中国地方の活断層の特徴 近畿三角地帯以西の中央構造線北側、すなわち北近畿地方と四国北部から中国地方は、東進するアムールプレートの南東部に位置するとぴう考えがある(小松原2015)。この考えを採用するなら、当地域の活断層はアムールプレートの東進が顕著になった前期更新世末期から中期更新世初頭以降の、せいぜい100万年間しか活動していないことになる。一方山崎断層を除くこの地域の活断層の平均変位速度はおそらく郷村断層と同程度ないしそれ以下である可能性が高い。この平均変位速度と前述の活動期間から、当地域の活断層の総累積変位量はそれぞれ300メートル以下と推定される。この累積変位量は沢や尾根の最大屈曲量と調和的である。また、金田(2006)は平均変位速度が小さな横ずれ断層では削剥作用などによって沢や斜面のずれ変位が打ち消されて地形的に残存しなくなることを報告している。このような外的作用による変位地形の消去が確率論的なばらつきを持つことを考慮するなら、総変位量が小さいことはより変位地形が残る可能性を低くするように作用すると考えられる。こうした構造発達史的背景から、北近畿~中国地方の活断層は元来地形的に認識しにくいものがおぽピノではないだろうか。
4 活断層の存否を明らかにする上での留意点 以上のように北近畿と中国地方(および四国北部と瀬戸内海も)の活断層が地形的に認識しにくく、変位地形の系統性を重視する現行の地形判読手法では見落とされることが多かったことは、構造発達史的観点からみればむしろ当然といってもよい理由があると演者は考える。歴史地震において事前に認識されていなかった活断層が活動したことも、同様に説明できると演者は考える。一方でこうした地域にあっても浅い大地震が発生する危険があることは歴史地震の事例から明らかであり、地震発生危険度評価を適切に行うためには活断層を正確に認定することが重要な意味をもつことは言を俟たない。この地域で活断層を認定するにあたっては他の地域とは異なって特に微小な変位地形や系統性の乏しい変位地形を伴うリニアメントを抽出したうえで綿密な地質調査を行うことが求められる。
文献
活断層研究会 1980 東京大学出版会
金田 2006 月刊地球号外54 79 84
小松原 2015 活断層研究 43 17 34
佐川ほか 2008 応用地質 49 78 93
田力ほか 2012 日本地球惑星科学連合大会予稿集 SSS35P30
中田今泉 2002東京大学出版会