日本地理学会発表要旨集
2017年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 406
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発表要旨
2016年アメリカ大統領選挙にみるアメリカの地理的分断
*樋口 忠成
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抄録

1) はじめに
2016年のアメリカ大統領選挙は共和党のドナルド・トランプ候補が当選したが、これは投票前の世論調査と異なっていただけでなく、当選者の全国の一般投票総数では民主党のヒラリー・クリントン候補を下回る得票しか得られなかったという異例な結果であった。これは大統領が得票総数で選出されるのではなく、各州に割り当てられた選挙人をより多く獲得する候補が勝利するという間接選挙方式から生じた現象である。またこの選挙結果は、アメリカ社会の分断の象徴とその結果として取り上げられた。
この報告の目的は、アメリカ社会の分断が空間的な分断を伴うとすれば、どのような地理的分断が見られるかをこの2016年大統領選挙結果から明らかにすることである。民主党・共和党の得票数・得票率のカウンティ別データを使って、州、カウンテイ、大都市圏・小都市圏と非都市圏、中心市と郊外などの地理的枠組みを使って分析する。
2) 州の分断の進行
  アメリカの大統領選挙では、ほとんどの州で州全体で勝利した候補が州に割り当てられた選挙人を総取りするので、立候補から当選まで基本的に州ごとに選挙戦が戦われる。近年では州の色分けが定着し、民主党が強いブルー(青)ステートと共和党が強いレッド(赤)ステートがほぼ固定化しているが、これまでの大統領選挙結果から分析すると現在の傾向が定着するのが1992年大統領選挙からである。それ以降の選挙結果は相互に高い相関を伴う結果となっており、青と赤の州が固定した結果、選挙ごとに結果が変わる可能性のあるスウィング・ステートと呼ばれる州をどちらの政党が獲得するかに結果が左右される。
3) 地域人口規模による分断
  全米にある3100あまりのカウンティのうち人口100万以上のものは44あるが、選挙結果ではクリントン候補が敗れたのは3つだけで、残りの41で勝利した。一方人口規模の小さいカウンティではトランプ候補が圧勝している(人口1万以下のカウンティの86%で勝利)。すなわち、大都市と農村地域の投票行動はほぼ真逆となっている。
4) 大都市圏の中心市と郊外による分断
  地域人口規模による選挙結果の分断からも類推できるように、大都市圏を単位として得票数を分析すると、大規模な大都市圏ほど民主党が強く(人口250万以上の21の大都市圏ではダラス、ヒューストン、フェニックス、タンパ、セントルイスの5大都市圏のみクリントン候補は僅差で敗れた)、人口50万以下の大都市圏になるとトランプ候補が強くなり、小都市圏ではトランプ氏が圧勝している。またそれぞれの大都市圏の中での得票率は、地域によってはっきりと異なっていいて、地理的分断が見られる。たとえばアトランタ大都市圏での大統領候補の得票率の分布をみると、中心市はクリントン氏が圧勝し、また中心市に近い郊外もクリントン氏が強い一方、郊外の外縁部や超郊外的な地域ではトランプ氏が圧勝している。このように大都市圏では中心からの距離による同心円的な分断が顕著であり、社会の分断は地理的分断と密接に関連することが解明できた。

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