日本地理学会発表要旨集
2017年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 510
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発表要旨
熊本地震における自治体の災害対応に関する研究
熊本県阿蘇郡西原村を事例として
*坪井 塑太郎
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抄録
Ⅰ.問題所在と研究目的
本研究では,熊本地震における被災者の復興感を構成する要素を,「外部要因」としての行政の初動・応急対応と,「内部要因」としての被災者自身の主観的健康感に分けて整理したうえで,これらを一体的に把握・検討することを重視する.分析に当たっては,熊本県西原村において,2016年4月の発災から1年後に当たる2017年4月時点において行政担当者へのヒアリングおよび住民(212名)対象の面接式アンケート調査を実施し,この間における被災者の復興感の形成過程を明らかにすることを目的とする.  

Ⅱ.西原村における被害の概要と避難者状況
西原村は,県央の阿蘇外輪山の西側に位置し,隣接する益城町との境界に阿蘇くまもと空港が立地する.村内を流れる布田川沿いの断層直上に立地していたことから,前震で震度6弱(M 6.5)を,本震で震度7(M 7.3)を記録し,人的被害では死者5名,負傷者56名を,建物被害では,村内住家2,408棟のうち,半数を超える56.5%が半壊以上となるなど甚大な被害が生じた.本震災による主要被災自治体の被害概要と自治体職員ひとり当たりの負担量(応援職員数を除く職員比率)をみると,4月25日時点の避難者数ベースでは,益城町,嘉島町に次いで19.3人の負担量が,また,建物被害数ベースでは,益城町に匹敵する16.4棟と高い負担量が発生していた.西原村では本震翌日の4月17日時点で村内6ヵ所の指定避難所に1,809人の避難者が集中し,震災後の最大避難者数を記録した.また,自主避難所(指定外避難所)が9ヵ所確認されており,最大で村民の約60%に当たる4,000人以上が避難状態にあった.避難者数は,5月初頭の学校再開を契機にやや減少がみられたものの,家屋やライフライン被害率の高さから,避難が長期化したため,発災から約7ヶ月後の2016年11月18日に完全閉鎖されるまで避難所対応を要した.

Ⅲ.西原村災害対策本部と災害対応
西原村では災害対応の即時性や総員体制の士気を考慮し,庁舎1階の産業課に災害対策本部が設置された.これは同課がインフラ情報等の多くを扱う部署である点と,訓練を通して得られた迅速な判断と指示を可能とするための工夫のひとつであり,特に中心位置には本部長(村長),副本部長(副村長)が常駐しそれぞれ7月末,11月まで同席での指揮が取られた.

Ⅳ.災害後の住民の主観的健康感・復興感
被災1年後における住民の主観的健康感調査において,性別では,男性よりも女性の方が健康悪化の表明割合が高く,年齢別では70代以上健康悪化表明が見られた.また,現在居住別では,自宅(修復・新築)居住者に比べ,仮設居住者の健康悪化のポイントが高く,借り上げ仮設住宅居住者よりも応急仮設居住者のほうが高い(健康悪化)結果となった.また,避難期間別においては,避難生活が長期化した属性ほど,健康悪化のポイントが高くなっていることが明らかになった.  

Ⅴ.結論と今後の課題  
西原村の災害対応は,2003年より隔年で実施されてきた住民・行政共同での避難訓練や避難所の自主運営,独自の災害対策本部運営などが特徴として挙げられる.今後においては,行政組織間と地域との連携方策の在り方に関する検証を試み,被災者の早期の復興感の向上に寄与していくことが課題である.
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© 2017 公益社団法人 日本地理学会
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