抄録
本研究は埼玉県秩父に位置する秩父三十四ヶ所巡礼を対象にして、徒歩巡礼に注目した。目的は、巡礼がどのように行われているのか、保たれているのかという実態を把握し、あえて交通手段に頼らず巡礼する人々は自らの行為にどのような意味を見出しているか、歩くための道に関する巡礼地側の対応を考察することである。文献調査に加えて、現地での聞き取り調査、踏査、参与観察を行った。秩父巡礼では巡礼者の団体から個人単位への変化や宿坊の減少が見られた。巡礼者たちはあえて歩くことによって巡礼路上での苦労を経験し、そこに歩く意味を見出し彼らの巡礼経験となっていた。また巡礼路の存在によって維持されてきたともいえるが、巡礼路に関しては巡礼者側の要望と管理する巡礼地側の対応が噛みあわないことがあった。日帰り巡礼が多く宿坊もないことは、巡礼が何度かに分けて行われることを示唆し、歩いた後は一度家に帰り休むという一日限りの巡礼が複数回行われた結果の一巡に変化した。