日本地理学会発表要旨集
2017年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 519
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発表要旨
農山村地域におけるポスト・バブル世代の貢献および女性のロールモデルの構築
北海道の事例等にみる起業活動や農場経営の多角化
*鷹取 泰子佐々木 リディア
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抄録

■研究の背景・目的・方法:少子高齢化の問題は現代の日本社会全体が抱える共通の課題であるが,とりわけ農山村地域の高齢化・後継者不足においてより深刻な状況を呈している.2015年8月には「女性活躍推進法」が成立,同年12月に閣議決定された第4次男女共同参画基本計画でも地域・農山漁村,環境分野における女性の積極的な活用という方向付けが示された.農林水産省でも女性農業者等の育成に関する事業や女性農業経営者の取組みの発信,地域ネットワークの強化を図る等,多岐にわたる施策を展開している.本研究はこうした背景や既存研究の成果をふまえ,ポスト・バブル世代*1が農山村で関わってきた近年の起業活動や農場経営の多角化とその貢献について着目し,とくに女性のロールモデルの構築として取りまとめながら,彼女らが地域で果たしてきた貢献について明らかにする.
■日本の農山村における起業・農場経営等の類型化:今回は「農業の未来をつくる女性活躍経営体100選」(愛称"WAP100"*2)に選ばれた経営体と我々の現地調査の事例について起業・経営の内容で大別し,自然・社会・経済条件,ツーリズム,経緯,ライフスタイル,哲学・思想,ビジョン等の要素を抽出・分析した.その結果,農畜産業分野は「野菜」「土地利用型作物」「果樹」「加工用作物」「酪農」「養豚」「養鶏」「花卉・苗」,その他の分野は「観光・ツーリズム」「販売・流通」「飲食」「加工」に分類された.さらに主要な生産品目または経営活動とそれぞれ従となる生産品目や経営活動,顧客,キーワード,アクセス可能性等の組み合わせのパターンを見出した.
■ポスト・バブル世代女性にみるロールモデルの構築:各分野の代表的な類型化の結果にもとづき,女性のロールモデルとして構築した一部の要点を以下に紹介する.(1)トマト栽培モデル:施設型で初期投資が大きいが品種や農法を選ぶことで,農業経験の少ない人でも起業・経営可能.ブランド化や販路確保・拡大が重要.段階的に加工品製造も視野に.(2)少量多品目栽培モデル:初期投資少なく小規模で開始可能.品目増加や品種・栽培方法の選択が重要.直売所経営や宅配との連携で都市近郊から山村部まで展開可能.(3)米専門モデル:作業受託,直売,野菜生産,加工等との組み合わせや特長ある栽培方法を選択する等の工夫が不可欠.法人化や通年雇用が鍵.(4)加工用作物栽培モデル:加工を前提とする作物(ユズ・梅・芋類など)の生産が基盤でさらに施設経営を組み合わせることで地域の雇用創出も.(5)酪農6次産業化モデル:品種や+αの経営内容次第で様々な可能性が見出され放牧に転換する経営体等も.(6)ツアーガイドモデル:自身の知識・関心を基盤に専門ガイドとしてツアー企画・請負などを事業化.(7)企業就職モデル:企業的な経営が行われる法人等への就職.パート雇用,幹部候補等,人生設計やライフスタイルに合わせ農山村での生活基盤を作りやすい選択の1つ.互いのマッチングが鍵.
■ポストバブル世代の農山村への貢献:まとめにかえて:ポスト・バブル世代による起業や経営の多角化において,地域資源の認識・再評価,ポスト・生産主義的なライフスタイル,適切で持続的な農場・法人経営への意識向上,雇用創出等の効果が農山村にもたらされていることが伺われた.とくに女性の農業者の存在・活躍・経験は既存の起業・経営とは異なった視点から,多様な展開を見せる一因となっていた.当然ながらロールモデルの例は上記にとどまるものではなく,農山村における持続的な生活を目指す若者が,自身の趣向にあったモデルを見出し創出しながら,より円滑な形で農山村へのアクセスが向上していくことが期待される.
■注*1:バブル時代を経験していない世代,具体的には2016年時点で生産人口年齢を迎えた15-45歳を想定 注*2:女性が活躍する先進的な取り組みを拡大する目的で実施されている事業;農業経営(体)における女性の積極的な参画の英訳 「Women's Active Participation in Agricultural Management」より命名された
■謝辞: 本研究を進めるにあたり,JSPS科研費 26580144の一部を使用した.

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