日本地理学会発表要旨集
2017年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 821
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発表要旨
「地ブランド」検討の参照点:「萩しーまーと」
*森 泰規
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抄録

「地ブランドなるもの」
昨今筆者に対して寄せられる「地ブランド」関連の相談においては、多少懸念すべき事案が多い。「ブランド」を創ることで得たい効果は、〈より高く売れる〉(「価格プレミアム」)か、〈リピート購入の対象になる〉(「顧客ロイヤルティ―」)のいずれかを果たすこと。多くの「地ブランド」に関する相談は、いずれかを志向し、構想は誤っていないのだが、運用方針に課題を感じる。    

価格プレミアムが成り立つ顧客構造を創れるか
 こうした相談がある際、筆者が最初に質問するのは、株式会社スミフルジャパンについてである。およそ5本で100円前後(200円/kg)のバナナが流通する今日に、同社の「甘熟王ゴールドプレミアム 」は3パック1単位(710g×3) 1296円(617円/kg)[i]つまり、3倍超の最終価格で事業展開する。それでも納得して費用を払う顧客がいて、「一度食べたら忘れられない」という。ブランド化しようとする作物にはこうした顧客構造が成り立つか。そうでない場合、プレミアム戦略はやはり採り難いだろう。  

リピート重視型成功例 「萩しーまーと」
次に筆者がお話しするのは、地元での消費構成である。地元の人たちが毎日買って飽きないものか、観光客相手の「土産物」を超える定着度合いがあるか、ということである。そこでの好例は知り得る限り「萩しーまーと」である。「ライバルは地元のスーパー」と銘打ち、スーパーの店頭に並ばない珍しい魚を、対面販売で接客する。面白い、毎日行っても飽きないお店造りが、リピーターを呼び年間売上高は約10億円と全国の道の駅でもトップクラスだ[ii]。 多くの地ブランドは、「萩しーまーと」を参照した戦略立案、すなわち地元でのリピーター拡大に注力した方向性を模索するが好ましいのではないだろうかと考える。

備考:「価格プレミアム」と「顧客ロイヤルティ―」
前者についてはBendixenら (2004)[iii]が南アフリカの弱電機器業界で購買決定者における6-14%の価格プレミアムを実証するなど幅広く実証例がある。また、後者はバイヤーによる味・材質などの「機能」と「ブランド力」評価、(来店客の)「リピート購入率」とを対比させると[iv]、ピアソンの積率相関係数(r)、およびその有意差検定値(p)において次のような相関関係が示される。

カテゴリー(掲載日) rp
ぽん酢しょうゆ(20161128) 0.967970 0.000001
機能性ヨーグルト(20161024) 0.887636 0.000280
ウイスキー(20150913) 0.822318 0.002188
焼酎(20161113) 0.796183 0.003963


[i] 同社サイトより http://www.sumifru.co.jp/ 参照 2017/1/4
[ii] 『事業構想』2015年5月号 事業構想大学院大学発行 駅長中澤さかな氏のインタビュー記事を参照
[iii] Bendixen, M.et al. (2004). “Brand equity in the business-to-business market.” Industrial Marketing Management33(5), 371-380.
[iv]日経リサーチ社が定期的に日経MJ 紙上で公開しているスーパーマーケット等の買付担当者にきく「バイヤー調査」を参照して算定。対象社約130-200 社程度。ここで代表的なものを掲げたがほぼ全体に渡る傾向と判断してよい。

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