日本地理学会発表要旨集
2017年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 512
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発表要旨
鹿児島県指宿市における農業法人設立と野菜産地の変容
*岡田 登
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抄録

1.はじめに
農業のグローバル化が進行するなかで、日本では農家の高齢化や離農により経営規模が縮小し、農業後継者も減少し続けていることから、農業法人化を推し進めて産地を強化し、日本農業の構造変化を図ることが求められている。農業法人化は作業の効率化や合理化により経営上や制度上のメリットをもたらしている。これには企業による農業参入を支援することも必要であるが、それだけではなく産地の既存の農家や各種団体に対しても株式会社や農事組合法人等の農業法人化を効果的に支援していかなければならない。本研究では地域農業を維持して農村環境を保全するだけではなく、攻めの農業を目指して産地の強化を図る野菜産地を研究対象として、産地内に存在している農家や企業、各種団体等が既存の産地条件を活用しながら農業法人化するプロセスをたどり、野菜産地がどのように変容しているのかを解明する。
2.農業法人化の過程
2010年の農林業センサスをもとに農業経営体数から販売農家数を除き、野菜生産を行なっている農業法人数を推計すると、関東地方では1,386経営体が存在しており、続いて九州地方では1,159経営体が存在している。九州地方のなかでも鹿児島県で野菜生産の農業法人化が進行しており、とくに指宿市にそれが多い。指宿市では1970年に南薩畑地帯総合土地改良事業が事業化され、栽培作物がサツマイモから野菜へ転換された。2000年以降には野菜生産農家数と栽培面積も減少傾向にあり、キャベツ、レタス、スナップエンドウ、オクラに品目の転換が図られている。2016年に指宿市では19の野菜生産を行なう農業法人が設立している。調査事例とした農業法人では、おもに30~40代の農業者が経営している。彼らの多くは他産業に従事していたが、農業後継者として就農すると、既存の農業経営から脱却し、高収益を目指して農業法人化を進めた。一方、仲買業者が生産部門に参入し、農業法人化している場合もある。このような農業法人は生産農家の減少により、販売量を確保するために、自らが野菜生産を行なっている。農業法人にはキャベツとレタス栽培を主力にしているものと、オクラとスナップエンドウを主力にしているものがある。前者は年間70~50ha作付けしており、後者は数十haの作付である。指宿市では農協出荷と仲買業者への出荷が存在しているが、農業法人は既存の流通形態からスタートし、徐々に仲卸業者、小売店、飲食店に直接販売を行なうようになり、流通経費の削減を行なっている。直接販売には一定の販売量を確保する必要があるため、農業法人が生産した野菜の出荷量が不足している場合には、地元農家や仲買業者から野菜を仕入れて補っている。このように農業法人は農業法人化を行ない、農協に頼らない経営を進めている。
3.おわりに
農業法人の経営方針は一貫して経営規模の拡大と全量販売先の確保、中間手数料の削減、および直接販売である。農業法人はこの経営を実行するために、既存の産地条件から経営をスタートし、遊休農地を活用して経営規模を拡大し、農産物の安定供給システムを確立させ、さらには品質の向上を図ることで買い手の評価を向上させて、直接販売を実現させている。

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© 2017 公益社団法人 日本地理学会
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