日本地理学会発表要旨集
2017年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: S1502
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発表要旨
東アジア・東南アジアにおける気象データのデータレスキューについて
*久保田 尚之松本 淳三上 岳彦財城 真寿美塚原 東吾赤坂 郁美遠藤 伸彦濱田 純一井上 知栄Allan Rob
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抄録

1.      はじめに 近年発生する極端気象が、10年に一度の現象なのか、それとも100年に一度なのか、その違いで地球温暖化や気候変動の議論が大きく変わる。これは過去の気象データの蓄積により明らかにすることができ、世界中で過去の気象データを復元する「データレスキュー」が取り組まれている。東アジアや東南アジアの国々では、独立前の1950年代以前の気象データは、散逸している場合が多い。本研究では、1950年代以前の東アジア(日本を除く)と東南アジアに着目して、旧宗主国によって行われた気象観測データを収集・復元し、100年スケールの気候の長期変化の解明に向けた研究を報告する。 2.  東アジア、東南アジアでの気象観測開始 東アジアや東南アジアの気象台を建設した継続的な気象観測は、1860-1870年代に開始された(図1)。マニラや上海はイエズス会の功績が大きく(Udias 1996)、香港やジャカルタは旧宗主国のイギリスやオランダによるものである。他にもフランス、ポルトガル、スペイン、ドイツ、アメリカ、日本が19世紀後半から20世紀前半にアジアで気象観測を行ってきた。これ以前の1830-1840年代にも、数地点での気象データが新聞や雑誌などに記録が見つかっている(Zaiki 2008, 塚原2013)。 3.  データレスキューの国内外の取り組み これらの気象データは戦争や独立の混乱で世界中に散逸しており、各国を回り収集してきた。気象資料は、紙媒体に記録されており、解析するには、データのデジタル化と品質管理が欠かせない。データレスキューの取り組みは、国際的にはAtmospheric Circulation Reconstructions over the Earth (ACRE)(Allan et al. 2011)がリードしており、東アジアや東南アジア域では、ACRE China, ACRE Southeast Asiaが役割を果たしている (Williamson et al. 2016, Williamson 2016)。国内では科研費基盤S「過去120年間におけるアジアモンスーン変動の解明」(代表松本淳)を中心に、取り組んでいる。復元した気象データは、気候の長期データセット(Compo et al. 2011, Cram et al. 2015)の作成や、長期変化(Villafuerte et al. 2014)、数十年変動(Kubota et al. 2016)の研究に利用されている。 4.  データレスキューの今後の展開 復元対象の気象データは、地上気象データだけに留まらない。上空の風を測定するパイロットバルーン観測が1920年代にアジアでも行われるようになり(Stickler et al. 2014)、日本がアジアで観測した多くの高層気象観測データが見つかっている。また、西部北太平洋域で発生した19世紀後半からの台風経路データが、日本、マニラ、香港、上海の気象局で独自に記録され(Kubota 2012)、台風の長期変化研究に利用されている(Kubota and Chan 2009, 熊澤他2016)。さらに、陸上で気象観測が展開される以前の19世紀前半に、欧米の船舶がアジア周辺に往来し、海上や港で気象観測した航海日誌が多く見つかり、今後の研究対象として注目されている。

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