日本地理学会発表要旨集
2017年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: S0201
会議情報

発表要旨
自然環境の保全と活用に関する国際的制度の諸相
*目代 邦康
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

1. はじめに
1970年代以降,地球環境問題が世界的な課題となるなかで,自然環境の保護・保全を図りつつ経済発展を目指す持続可能な開発(sustainable development)の取り組みが各地で進められるようになった.世界遺産(自然遺産),MABのBR(生物圏保存地域;ユネスコエコパーク),ユネスコ世界ジオパーク,ラムサール条約などの国際的な枠組は,特定の自然環境を保全し,その地域住民によって賢明な利用(ワイズユース)を行うものであり,様々な実践が積み上げられてきた.また,ナショナル・トラストといった制度も,寄附や会費,入場料による金銭的な収入と,土地の取得による環境の保全という枠組みのなかで運用されており,保全と活用の実践的な例といえる.これらの仕組みは,それぞれ,ストロングポイント,ウィークポイントがあり,うまく組み合わせて活用すると,地域の自然環境保全にとっては,有力なツールとなる.
こうした仕組みは,地域の持続可能な開発のためのツールであるが,そのプログラムを実施することにより,他地域との差別化を図ることもできる.そのため,複数のタイトルを保有しようとする地域もある.また,それぞれの地域の自然環境の特色と,プログラムの特徴とを十分検討しないまま,認定や登録を目指す地域も多い.こうした状況が生まれてしまうのは,それぞれのプログラムの共通点や相違点等が,十分分析されておらず,またその情報が共有されていないためと思われる.これらのプログラムや仕組みは,その時々の社会的な情勢や研究の進展に合わせて変化している部分もあり,継続的な分析が必要である.本シンポジウムでは,上述の制度や仕組みの他,MPAなども含めて,それぞれの長所,短所,また実践の実際について検討し,自然環境の保全の方法や,ワイズユースのあり方についての整理を行いたい.
 2. 複数プログラム実施の実例とメリット,デメリット
日本ジオパークにおいては,以下の地域で複数プログラムが実施されている.a) 佐渡ジオパーク:世界農業遺産.b) 阿蘇ユネスコ世界ジオパーク:世界農業遺産.c)南アルプスジオパーク(中央構造線エリア):南アルプスユネスコエコパーク.d) 白山・手取川ジオパーク:白山ユネスコエコパーク.「祖母・傾・大崩」は,ユネスコエコパークの国内推薦が決定しており,ここには,豊後大野ジオパークの範囲が含まれている.
地域の自然資源を評価し,認定を受けるという動きは,日本ジオパークやユネスコエコパークを目指すことを表明している地域が多く存在することから,今後ますます加速していくことが考えられる.各地の自然が評価され,その保全とワイズユースが図られることは良いことであるが,これらのプログラムの実施には一定の規模での予算,人材等が必要であり,それを各地域で長期的に負担していかなければならない.認定や加盟,登録といった非常に地域が「盛り上がる」ので,その時は,負担は是とされるが,「盛り上がり」のない時期には,負担を大きく感じてしまうことはありうる.その活動を持続性に行っていくには,地域のなかでの本質的な理解が必要である.各地域で,本当に理解が進んでいるかは,不明である.
 3. 国際的なプログラムにおける日本の立場
国際的なプログラムにおいて,日本という経済力を持つ国は,発展途上国の実施地域を支援する立場にある.そうした国際協力の動きは,地域興しのセンスの中からは,なかなか生まれてこない.国際的に求められている日本の立場と,実施主体者の意識のずれは,問題であろう.
日本は国立公園,天然記念物制度にはじまり,明治以降,自然環境保全,ワイズユースについての様々な制度を取り入れてきた.そうした経験は豊富なので,他地域(特に欧米)で考え出された保全やワイズユースの制度を日本の風土に適応させることはうまいといえる.しかし,そうした他地域発祥の仕組みでは,例えば自然災害と環境の保全という,日本列島のような自然災害多発地域における自然環境保全のあり方については,十分対応できない.諸制度の比較とともに,日本列島におけるよりよい保全の方法を考える必要があるだろう.

著者関連情報
© 2017 公益社団法人 日本地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top