日本地理学会発表要旨集
2018年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 522
会議情報

発表要旨
DSJRA-55データによる東海~関東南岸域に発生する収束線の統計解析
*渡来 靖鈴木 信康
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

1.はじめに

東海から南関東にかけての太平洋沿岸域では,主として冬の季節風吹走時に収束線が形成され,形成域によって「房総不連続線」や「駿河湾収束線」などと呼ばれる.収束線はしばしば積雲列を伴い,風や天候の急変をもたらす.河村(1966)では,中部日本における約600地点の地上気象観測データをもとに冬の地上風系を調べ,地上風の流線は主として4種類に型分けされることを示した.また,それぞれの型において太平洋岸での収束線の形成域が異なることが示された.しかし,データが陸上に限られているため主に海上である収束線の形成域が不正確である可能性があることや,調査期間が5年間で気候学的特徴を示すには不十分であることなどの問題点が考えられる.そこで本研究では,高分解能な長期データを用いて寒候期に東海~関東南岸域で形成される収束線の出現域の特徴や出現頻度について調査した.

2.データおよび解析手法

 本研究では,JRA-55領域ダウンスケーリング(DSJRA-55)データを用いた(Kayaba et al. 2016).DSJRA-55とは,JRA-55(気象庁55年長期再解析)データを初期値として,気象庁現業メソ数値予報モデル(MSM)により水平分解能5 km格子にダウンスケーリングされたデータであり,日本周辺のメソスケール現象の気候特性を把握するために有用である.ただし,DSJRA-55データは計算時のスピンアップの影響等により,MSMの6~12時間予報程度の誤差を含む.解析期間は1992/93年から2011/12年の寒候期(10~3月)20年間とした.

 収束線の出現頻度を調べるにあたり,DSJRA-55の地上10 m風速データを用いて次の発散値Dを求め,D<-1.0×10-4 s-1 を強い収束域と定義して調査した.また,850 hPa等圧面高度における地衡風は,輪島,館野,八丈島における850 hPaジオポテンシャル高度のゾンデ観測値から平面近似法によって水平勾配を求めることで算出した.

3.結果
 強い収束の月平均出現頻度を調べると,12~3月にかけて遠州灘~房総半島の沖合で5%を超える出現頻度の領域が広がり,出現頻度の高い領域が外洋に向かって南東方向に延びており,収束線が頻出していることが示唆される.特に,伊豆半島付近から南東方向に高頻出の中心軸が延びており,1,2月には約10%に達している.上空850 hPa面での地衡風向別の出現頻度を見ると,西北西~北西風のときには房総半島南部から東南東に延びる領域で高く,北北西風では伊豆半島から南東に延びる領域で高く,北風では駿河湾から南に伸びる領域で高いというように,上空の地衡風向により収束線の出現域が変化する傾向が示された.地衡風向別の地上風流線合成図をもとに確認すると,河村(1966)のⅠ型は西北西風の場合,Ⅱ型は北西風,Ⅲ型は北北西風,Ⅳ型は北風におよそ相当しており,各型の出現頻度は河村(1966)に比べて,Ⅰ,Ⅱ型が多くⅢ,Ⅳ型が少ない傾向が見られた.収束域の出現頻度は,上空の地衡風向が北西風の場合が最も多かった(全体の約2.8%).地衡風向が北風の際には高い割合で駿河湾から延びる収束線が形成されるが,北風事例が少ないため,北風時の収束域出現頻度は全体の約0.3%であった.

著者関連情報
© 2018 公益社団法人 日本地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top