日本地理学会発表要旨集
2018年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 333
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発表要旨
ESDを推進するプロジェクト学習に関する授業実践
スマートグロースを活用した「アーバンデザインプロジェクト」
*中村 秀司クラコビッチ ステファン
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抄録
次期高等学校学習指導要領により必修化される「地理総合」では,ESDの視点から「持続可能な社会づくりを目指し,環境条件と人間の営みとの関わりに着目して現代の地理的な諸課題を考察する」ことが科目の特徴の一つと位置づけられている。持続可能な社会づくりに向け,地球的,地域的課題を意欲的に追究しようとする態度を養う学習内容を構想する力が現場地理教員に求められるとともに,新たに教員免許を得る者にとっても,その資質が求められる。本報告は,アメリカ合衆国で実践されたPBL(プロジェクト学習)を基にして,日米共同で構想した授業実践を考察することにより,ESD推進に関する効果的な学習方法を模索しようとするものである。
 アメリカ合衆国で環境科学を専門科目とする教員と連携した授業実践を進めている。原型とする授業は,ノースカロライナ州公立高校におけるAP(Advanced Placement)クラス対象の環境科学のPBLである。本PBLは,「The birth of a city」と「Urban Design Project」の二つのパーツから構成されており,前者は,シミュレーションによる地図化を主な活動とし,都市の発生と成長について学ぶものである。後者は,スマートグロース原則を学んだ後に,身近な地域を題材として自然環境の特徴や開発規制を設定し,ゾーニングを用いつつ開発規制を具現化する地図を作成し,プレゼンテーションを行う内容である。持続可能な都市設計の提案資料を作成させた後,鳥取市都市計画マスタープランと比較・考察させる学習を追加し,客観的な視点から身近な地域の持続可能な社会づくりについて考えさせた。生徒の到達度に関する評価は,作成された地図,提案資料,事前事後アンケート等により測定し,実施授業に対する評価は,生徒アンケート,成果物,生徒の到達度から測定した。
 生徒の成果物を評価した結果,専門的領域の知識を使いこなす活動を通して,専門的領域を一定程度理解したとみなすことができる。スマートグロース原則と鳥取市都市計画マスタープランの理解と比較分析の考察により,地域的課題と解決方法を見出す活動に結びついている。事前事後アンケートの変化をみると,関心,意欲,態度,解決方法,解決主体のいずれの項目も,優位に変容したことを示しており,特に解決方法の理解度に関する値の上昇は顕著であった。2017年の結果と概ね類似するが,差異の大きい値は,解決主体の「私」に関する項目であり,21%(11→32)上昇したのに対し,本実践では36%(18→54)上昇していた。主体的な学習活動を要する本PBLが,主体的な社会参画意欲を刺激した可能性がある。
 今後は,高校「地理総合」での実践に活用するとともに,教員養成機関への援用も考えられるところである。ESDを進める上で重要な社会参画の態度を養うため,体験型のPBLは有力な手段であるとみられる。以上から,地理的課題の探究を目的とする,PBLのプログラムや体験を伴う学習等を組み込んだ実践は,今後一層の活用が期待される。また,複数の教員によって協働して開発を進めることの有用性を示している。
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© 2018 公益社団法人 日本地理学会
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