日本地理学会発表要旨集
2018年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: S402
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発表要旨
地方都市の中心市街地における未利用不動産の実態
全国553自治体に対する調査から
*箸本 健二
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抄録

調査目的と課題設定

中心市街地における未利用不動産の増加は,主に中心市街地における事業用不動産の供給過多と,個人商店の住居化とが輻輳する形で引き起こされる都市問題であり,地方都市における都市再生の阻害要因となっている.その一方で,地方都市中心市街地の未利用不動産を定量的に把握できる公的資料は存在しない.そこで本シンポジウムのメンバーは,中心市街地における未利用不動産の現状と各自治体の政策的対応を把握するため,全国846市町(東京都区部,政令指定都市を除く1995年時点で人口2万人以上の都市,あるいはその合併市町)を対象とするアンケート調査を2014年に実施した.主な調査内容は,中心市街地における低利用不動産の概況と自治体の対応,ダウンサイジング政策の導入状況,まちづくり会社の有無と機能であり,最終的に553自治体(65.3%)から有効回答を得た.なお,本調査結果の一部は,日本地理学会2015年春季大会および経済地理学会金沢地方大会で報告している.

地方都市における未利用不動産の増加

中心市街地を代表する,事業用不動産,個人商店,公共施設という3タイプの不動産に関して,未利用不動産化の進行状況を10年前(2004年)との比較で質問した結果,「増加している」「やや増加している」と回答した自治体の比率は,個人商店(空き店舗)で80.8%,事業用不動産(大規模商業施設,オフィスビル,ホテル,病院等)で47.3%,公共施設(公的セクタが所有し,利活用が進んでいない施設)で22.1%に達した.一方で「(未利用不動産が)もともと存在しない」と回答した自治体の構成比は,事業用不動産で4.3%,公共施設でも14.6%に過ぎず,多くの自治体が中心市街地に未利用不動産を抱え,その増加に直面している現状が把握できる.またこの結果を人口規模別に見ると,人口規模が小さな自治体ほど個人商店(空き店舗)と公共施設に関して増加傾向を回答する比率が高まる.

滞る政策的対応

これに対して,地方自治体の多くが有効な対応策を採れてはいない.まず,民間の未利用不動産(空きビル・空き店舗)の利活用に向けた経済的支援に関しては,「特に支援していない」と回答した自治体が最も多く(37.7%),次いで「家賃補助や家賃減免」が36.8%で続いている.逆に,経済的負担や事業リスクが大きい「自治体による建物・底地の買い上げ」は1.3%に留まり,予算規模の限界から自治体が独自で取り得る対応には限界があることを示唆している.その一方で,中心市街地のダウンサイジングを政策目標に掲げた自治体は極めて少ない.中心市街地のダウンサイジングを「実施した」あるいは「具体的な計画を策定中」とする自治体は全体の6.1%にすぎず,80%近い自治体が「検討したことはない」と回答するなど,撤退戦略を政策目標とすることの難しさを示唆している.補助金を含む公的資金の調達が厳しい状況下において,事業の遂行に不可欠となるのがREITなど不動産投資主体による民間ベースの資金調達チャネルである.しかし,不動産投資主体による不動産取引を支援する部署・相談窓口を持つ自治体は1.3%に過ぎず,87.7%の自治体は民間ベースでの資金調達を支援する手段や情報収集を講じていない.

結論と展望

以上の結果は,日本の地方都市において,オフィスや小売商業を中心とする旧来型の経済活動が縮退し,事業用不動産や空き店舗の増加が未利用不動産を増加させる現状を示している.こうした状況の下で,経済拡大期の典型的な「活性化」手法であった再開発事業や公共事業を導入可能な中心市街地は事業採算性の点でおのずと限定される.地方都市がその持続を図るためには,無秩序な郊外開発に歯止めをかける一方で,中心市街地の未利用不動産を再利用する資金調達手段,中期的な採算性を確保できる事業計画,そして都市計画を含めた地方自治体の支援スキームが重要となる.

【参考文献】

箸本健二,2016.地方都市における中心市街地空洞化と低利用不動産問題,経済地理学年報62-2, 121-129.

追記.本研究は,科研費基盤B(課題番号25284170, 代表者:箸本健二)の成果の一部である.

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