主催: 公益社団法人 日本地理学会
近年,日本では急速な少子高齢化や都市への人口移動に伴い,中山間地域や離島など,いわゆる僻地において居住者が極めて少ない地域が出現している.特に周辺に他の居住者が存在しない孤立した戸建住宅(以下,本稿では孤立住宅と呼ぶ)の出現は,僻地におけるインフラの維持管理の費用対効果の大幅な低下,近隣住民が存在せず共助力を享受出来ないという災害発生時のリスク,将来的に維持管理が放棄される特定空き家になる可能性など,地域を維持管理していく上での懸案事項となりうる.そのため孤立住宅の空間的分布の実態を継続的に把握し続けることは,特に国,地方自治体にとっては急務といえる.
地理学分野における僻地における住宅の実態把握は,古くは坂口(1975)による山間地における廃村研究がある.また近年でも作野(2013)の中山間地域における限界集落の実態把握の例がある.ただし既存研究の多くは特定の地域,集落を対象としたものであり,全国的な孤立住宅の実態把握には至っていない.
一方,岡橋(1986)による既存統計を用いた全国の山村の類型化や,金木(2003)による全国の地形図を用いた集落の分布変遷の把握といった全国を対象とした例も見られるが,何れも集計単位は市区町村や集落といった比較的マクロなものであり,住宅単位で孤立住宅の分布把握に取り組んだ例は皆無である.そこで本稿では住宅地図から整備した建物分布に関するマイクロジオデータを用いて,日本全国の孤立住宅の空間的分布の把握を試みた.
本稿ではまず2014年の日本全国の住宅地図から,各建物の属性値を抽出し,建物重心座標を与えた建物マイクロジオデータ(全国約1億棟)を整備し,その中から明らかに居住者が分布しているとみられる表札付きの戸建住宅である約2,550万棟を分析対象として抽出した.続いて全ての表札付き戸建住宅からその最近隣の表札付き戸建住宅までのユークリッド距離を計算した.そしてこの値が徒歩圏である500m(永田ほか 2013)を超える表札付き戸建住宅を孤立住宅と定義し,その条件に合致する表札付き戸建住宅を抽出した.すなわち本稿における孤立住宅とは,徒歩圏に他の居住者が1人も存在しない住宅ということになる.
孤立住宅を抽出した結果,日本全国には8,686棟の孤立住宅が存在することが明らかになった.表1に地域別の結果を示す.特に北海道地方,東北地方,中国地方で孤立住宅率が高かった.なお最近隣の表札付き戸建住宅までの距離が最も遠かった孤立住宅は福井県大野市の山間部に分布しており,その距離は約10.54kmであった.またこの結果にマイクロ人口統計(Akiyama et al. 2013)をを組み合わせて,孤立住宅とそれ以外の住宅の高齢化率(65歳以上人口の割合)と,単身世帯率を分析した結果を表2に示す.孤立住宅では居住者の約3分の1が65歳以上の高齢者であり,前述した災害発生時のリスクや将来特定空き家になる可能性が高くなるものと考えられる.一方,単身世帯率は同程度であった.これは都市部に多く分布する若年単身世帯が非孤立住宅に数多く含まれているためであり,今後は単身高齢者に絞った集計・分析も必要だろう.
今後は表札付き戸建住宅以外に定常的に居住者が存在する可能性が高い住居兼事業所や宿泊施設の適切な抽出手法の検討や,将来推計人口を用いた将来の孤立住宅の分布推計手法の検討を進めるとともに,本稿手法の信頼性を検証するための現地調査の実施も検討したい.