日本地理学会発表要旨集
2018年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 838
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発表要旨
アマゾン川上流, 密林の都イキトスとベレン市場の食肉鮮魚
*高木 仁池谷 和信
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抄録

【はじめに】
 南米アマゾン川流域の一次生産について、狩猟やペッカリーの毛皮の交易, 家畜食肉生産などに関する研究が蓄積されていくなか(Arima et al, 2011, Hoelle 2015, Ikeya 2012), 漁業生産についてはかつて中部支流のマデイラ川と本流との合流点(イタコアティアラ, Itacoatiara)において研究が進められてきたことが文献調査でわかってきた(Goulding 1979, 1981, Junk 1970, Nigel 1981, 図1).
 ナイジェルによれば, 開発の進むマデイラ支流域やその合流点は, 南ブラジル市場へのアクセスも良く, ブラジルの巨大な淡水魚市場の調査には絶好の場所であったという(Nigel 1981: 2-3). また, 20世紀中葉までには支流マデイラの上流まで漁業開発が特に進み, 1). 急流箇所での鯰漁や, 2). 季節性のある回遊魚の漁(パクー), 3). 氾濫原や浸水した森におけるピラルクの釣りなどに大きな特徴があったとゴールディングは述べる(Goulding 1981: 26-58).
 本発表では漁業生産について研究蓄積の少ないアマゾン川上流域の密林都市イキトスとベレン市場について報告し、そこでの淡水魚流通についての研究結果を提示する. 特に一月初旬(乾季)の食肉鮮魚市場の現状や, そこで流通する種類や, 旬物についての調査結果の報告をおこない, 更なる研究の可能性について考えていく.

【結果】
 本調査では特にイキトス市ベレン市場で淡水魚29種とカメや鰐の切り身や食肉の流通についての一次資料を得ることができた.
 巨大なベレン市場は上部と下部に分かれており, 特に上部に良品が集まる. 魚に関しては, 上部市場にも生のピラルクやパクーは少なく(乾燥塩蔵ピラルクや巨大ナマズの切り身は少数散見されたが), 流通する物の多くは25cm~40cmほどの中型魚が占めていた.この時期の店先で目立ったのは, 現地でボキチーコ(Boki-Chiko), パロメハ(Palomeha), カラマチャ(Karamacha)と呼ばれる魚種で, 鮮やかな色の卵を携えていた. 下部市場ではそのうちの小さな物や市場価値の低い小ピラニアなどがまとめて安く売られていて, 市場内での差別化も進んでいた.

【考察】
 ナイジェルによれば, 1970年代に大都市マナウスでは7年間で操業する商業漁船がおよそ6倍にも膨れ上がったという(Nigel 1981: 121, 140→800艘). 現在の巨大なイキトス港を散見する限り, アマゾン上流域の人文地理や水域での一次生産, 栄養源や資源利用の諸相について理解するためには, これまでの巨大鯰漁やパクーのような伝統的な季節魚, 氾濫原や浸水した森でのピラルクの釣りといった特徴的なものだけでの現状把握は難しいだろうという結論を得た.

【参考文献(一部抜粋)】Goulding, M. (1981) Man and Fisheries on an Amazonian Frontier. Dr W. Junk Publishers. Ikeya, K. (2012) Peccary hunting among local people in the Peruvian Amazon. Kobayashi S. and K. Ishimaru eds. The proceeding of “Incentive of Local community for REDD and Semi- Domistication of Non- timber Forest Producsts”: 105-114. Nigel, S. (1981) Man, Fishes, and the Amazon. Colombia Uni Press.

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