日本地理学会発表要旨集
2018年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P322
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発表要旨
長野県上伊那地域における奉納煙火の現代的拡がり
*坂本 優紀渡辺 隼矢山下 亜紀郎
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抄録

1.研究背景と目的
 長野県は,2013年の打揚煙火製造額が全国2位,製造業者数では1位と,煙火生産の盛んな地域である.その中でも特に,長野市を中心とする北信地方と飯田市を中心とする南信地方に,その利用の偏りがみられる.今回対象とする南信地方は,1712年に奉納煙火があったことが記録されており,長野県内において最も古くから煙火を扱ってきた地域といえる.

当地域の煙火の特徴としてあげられるのが,三国(さんごく)と呼ばれる筒系吹き出し煙火である.三国は,赤松の大木を刳り抜いたものや,竹筒,あるいは紙管の中に数種類の火薬を詰めた煙火で,長さは大きいものでおよそ200cm,重さは約250kg(火薬の総量は24kg)になる.現在でも,北は宮田村から南は阿南町まで幅広い範囲において神社の祭りで奉納されている.

 古くから奉納煙火として使用されてきた三国であるが,近年では,三国を地域のイベントに取り入れる事例もある.

 そこで本発表では,長野県南信地方北部の上伊那地域における三国の分布とその利用形態に着目し,三国の拡がりと利用形態の変遷を明らかにすることを目的とする.



2.対象地域

対象地域である長野県上伊那地域は,長野県南信地方の北部に位置し,伊那市を中心に,駒ヶ根市と上伊那郡の6町村によって構成される.

当該地域は,古くは南流する天竜川と,木曽駒ケ岳から東流する太田切川によって地域内の交流が分断され,方言や文化などに差異がみられることで知られており,三国においても同様の傾向がみてとれる.



3.結果と考察

2016年に打揚げられた上伊那地域の三国は,14件である.煙火は,江戸時代に愛知県三河地方から伝わったとされており,その分布をみると南側に偏っていることがわかる.

利用形態では,多くの打揚げが祭り時の奉納煙火であるものの,箕輪町での打揚げのみが,イベント時のパフォーマンス目的となっている.

また,宮田村の三国に関しては,1962年から商工会主体で奉納を始めた記録が残っており,他の地域の奉納煙火とは異なる経緯が明らかとなった.

以上の結果をまとめると,江戸時代に愛知県より伝わった煙火は,長野県南信地方で三国へと変化し,駒ヶ根市の太田切川を北限として,神社の奉納煙火として氏子たちにより継承されてきた.戦後になると,駒ヶ根市の北側の宮田村の祭礼に三国が取り入れられることとなった.しかし,それは氏子ではなく,商工会が主体となって行われた.さらに,2000年代に入るとより北側の箕輪町でもパフォーマンスの一環として三国が打揚げられることとなった.

上伊那地域においては,三国を氏子主体で奉納煙火として利用する地域から,北側にその打揚げ範囲が拡大していくとともに,その利用形態に関しても,より世俗的なものに変化していることが明らかとなった.

本研究の遂行にあたり,2017年度筑波大学山岳科学センター機能強化推進費(調査研究費),課題「山岳地域に関するツーリズム研究の課題構築」(代表者:呉羽正昭)の一部を使用した.

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