日本地理学会発表要旨集
2018年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P343
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発表要旨
スコットランドにおける共有地創出の取り組み
ハリス・ルイス島における土地改革の展開
*中川 秀一磯田 弦宮地 忠幸
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キーワード: 土地改革法
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抄録

EUからの離脱とともにUKにおける関心事の一つはスコットランドの独立の問題だろう。他方、日本ではあまり報じられていないが(村上佳代2003)、スコットランドでは、Land Reform Act(土地改革法2003以下、LRA)の施行を端緒とし、土地改革が進行している。スコットランドにおける土地問題は、18世紀のジャコバイトの蜂起失敗や、その後のイギリスによる近代化政策とハイランド・クリアランスに端を発している。これらの施策によって、追いやられた農民たちはクロフター(crofter)と呼ばれる小作制度によって土地を耕作する権利を確保してきたが、結果として60%の土地を0.002%の所有者が所有するという偏った土地所有構造が生み出された。

 こうした土地所有構造は1970年代から‛Who Owns Scotland?’(John McEwen1977など)という問いかけに象徴される政治問題とされてきた。1990年代には、土地所有者の多くがもはやイギリス人ではなく、中東やアジア、アメリカ在住の不在地主となっていることが明らかにされ(A.D. Wightman and J.Hunter1997)、土地問題とナショナルな問題との結びつきが強まった。1997年UK国政選挙において土地改革を公約とする労働党政権が誕生すると、スコットランド議会が創設され(1999年)、土地法に権限を持つようになった。こうして新たなLRAが施行されたのである。

したがって、LRAは、おもにクロフターの展開するハイランド地方に関するものであった。その論点は、コミュニティが土地を所有する政治的正当性やプロセスであり、そのための財源、正当な土地管理のあり方であった。LRA以前に、3つのCommunity Land Ownership(以下、CLO)が存在していたが(Mac Askill1999)、LRAによって急速に住民の地域コミュニティによる土地取得は50以上に増加している。

 もともとの土地利用の多くは、外来客向けの狩猟地や釣り場であり、また単なる小作地であった。地域コミュニティ所有となってからは、事業用地として利用され、小作料は、かつての不在地主ではなく、地域コミュニティに支払われる。これらの収益は、地域の改善のために用いられるようになった(F.Rennie2015)。

 クロフターはスコットランド北西部で広く展開したため、LRAによるCLOの展開もこの地域に多くみられるが、LRAは、必ずしもクロフターを前提としない条項も含んでいるため、ハイランド南東部の都市周辺で展開する例もみられる(宮地・中川2018)。

以上の概況を踏まえ、2016年9月(中川・宮地)及び2017年9月(中川・磯田)に行った調査に基づいて報告する。特にOuter Hebrides島嶼地域における現地調査に基づくCLOの実態分析を中心とする。

土地に対する個別排他的な権限は、地域住民のアクセスが阻まれ、資源活用が妨げられ、地域環境の悪化を招くなどの地域問題の要因となっている。このことは、土地資源の過少利用問題とも関連し、国土周辺地域の存続問題にもつながっている。スコットランドにおける共有地創出の動向は、日本及び先進国諸国におけるこれらの問題に対する含意は少なくないと考えられる。

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