日本地理学会発表要旨集
2019年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: S101
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発表要旨
ジオパークと観光地理学
*有馬 貴之河本 大地目代 邦康
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抄録

Ⅰ ジオツーリズムと人文・社会科学

日本のジオパークに対する、人文・社会科学的な研究の多くは、教育やジオガイド、商品開発等に関する実践報告である。ジオツーリズムにおいても主にツアーやガイドの現状、地域活性化について議論はされてきたが、多くは実践報告を越えての理論構築には至っていない。

ジオパークの活動においては、地質遺産の保護と、教育と、持続可能なジオツーリズムが、3つの柱とされている。ジオツーリズムでは、地形・地質を主な対象とし、それによる経済的収入が地域の自然環境の保全活動に役立てられ、地域の持続可能な開発を可能とすることが目指されている。ジオツーリズムは、単に地形や石を観光対象としたものではない。そこには社会的なコンテクストが存在しており、エコツーリズムと同様の思想をもっている。

近年、国内外でエコツーリズムについての観光学的研究は、盛んに行われているが、上述の通り、日本においてはジオツーリズムの研究の蓄積や議論はまだ不十分である。これは人文地理学者や観光研究者をはじめとする人文・社会科学の研究者に、ジオパークが研究対象として魅力的に映っていないためであると考えられる。

今後、ジオパークの活動を深化させていくためには、その活動の客観的な評価が必要となる。そのためにも、ジオパークおよびジオツーリズムが、観光研究の対象としてどのように位置づけられるのか、現在のジオパーク活動の状況を整理した上で、議論しておくことは必要であろう。また、観光研究においても、日本国内で44もの地域が日本ジオパークに、うち9地域がユネスコ世界ジオパークになり、ジオツーリズムを推進させると標榜し活動している実態を、無視することはできない。

Ⅱ 観光地理学研究者と実務を担う研究者

前章で述べた問題意識から、本シンポジウムは、日本地理学会ジオパーク対応委員会と、観光地域研究グループの共同企画として立案された。シンポジウムにおいては、特に、ジオツーリズムを研究対象としやすい観光研究、特に観光地理学の視点からジオパークを捉えることと、ジオパークで実際に活動に携わっている人が観光地理学、観光研究に何を期待するのかという点の双方に主眼を置いた。

磯野氏は、これまでの自身の研究から、ジオパークと観光地理学の関係性を報告する。次に平井氏が、大学や研究と地域のつながりについて実践例等から報告する。そして、フンク氏が欧米の観光地理学の動向を報告する。

あわせて、ジオパークの活動を実際に担う研究者が、自らの地域の実態と、観光研究、および観光地理学に対する期待とを報告する。

Ⅲ ジオパークと観光地理学の今後

ジオパークにおいて、外部の研究者と活動を担う実践者とが、互いに良好な関係を築き、それぞれがジオパーク活動の発展に貢献していくことは可能だろうか。外部からの研究が地域に、地域が外部の研究に、「役に立つ」ことは可能だろうか。現代の地域活動と地域をその対象として扱う研究活動の間を、観光地理学は取り持つことができるのだろうか。それらの可能性を、ジオパークという舞台を使って議論したい。

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