日本地理学会発表要旨集
2019年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P045
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発表要旨
沖縄県北部の伊是名島から海底段丘に連続する断層地形
*後藤 秀昭
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抄録

1.はじめに  今世紀に入ってマルチビーム測深調査が本格的に進み,海底の高解像度な地形データが収集されつつある。地質構造を手がかりにしながら,海底地形を解釈することで,これまでとは全く異なる断層分布やプレート境界像が描かれるようになった(Nakata et al., 2012など)。

 沿岸域の変動地形については,陸上地形と海底地形がそれぞれ別の分野で研究され,統合的に検討した研究は少なかった。分野の違いだけでなく,海陸を統合して俯瞰する詳細な地形資料に乏しいことによると考えられてきた(後藤,2014)が,データの収集や地図表現の工夫などによって,陸上に分布する活断層の海底への延長や陸上に認められる変動地形を合理的に説明できる海底の活構造が明らかにされつつあり(Goto, 2016;Goto et al., 2018;後藤,2018),沿岸部の変動地形研究は新展開を迎えていると考えている。沿岸陸域には人口が集中しており,地震や津波の防災にとっても重要な研究であるといえる。

 本研究では,沖縄島の北端から西北西約30kmの伊是名島とその周辺を対象に,沿岸部の陸上と海底の地形の情報を作成・収集し,統合した数値標高モデルを作成し,1枚の画像で海陸を判読できる地形アナグリフや地図を作成した。これを変動地形学的な手法で判読したところ,西北西—東南東方向に延びる活断層が陸上から海底に連続して延びることが新たに解った。地形の特徴から正断層と考えられ,沖縄島の北の島棚を横切る活断層と同様の走向,変位様式である。

 伊是名島は東西約4km,南北約4kmの小規模な島であり,変動地形はこれまで報告されていなかった。孤立した小規模な島が分布する南西諸島などでは,最終氷期の地形が観察できる沿岸海底を含めて地形発達を検討することで広域的で連続的な変動地形が確認できるようになる可能性があることが示されたと考える。

2.作成方法と概要  陸上地形については,国土地理院のカラー空中写真をSfM-MVS技術を用いたソフトウェア(Agisoft社PhotoScan Professional 1.2.6)に取り込み,数値表層モデル(DSM)を生成して分析に用いた。空中写真は最も古いカラー写真である1977年撮影の約8,000分の1のもの(COK-77-1)を1200dpiでスキャンした27枚の画像を用いた。地上基準点(GCP)としては1972年作成の5千分の1縮尺の国土基本図に記されている独立標高点を用いた。撮影後の人工改変が極めて大きいことから,当時の地表が記録されている地図を用いた。これにより,約3m間隔と高解像度の伊是名島のDSMが得られた。現地においてSpectra社のPrecision ProMark120を用いたGNSSのスタティック法による測位を行い,地形モデルの検証を行った。

 一方,海底地形の情報は,1)海上保安庁の取得したマルチビーム測深データ(安原,2013),2)JAMSTECのデータ探索システム「Darwin」から収集したマルチビーム測深データ,3)(財)日本水路協会発行のM7020の等深線データ,4)海上保安庁の500m間隔のデータ(J-EGG500)を用いた。これらをそれぞれDEMに加工し(上記1からは約1.44秒(約44m)間隔,2および3からは約2秒(約65m)間隔),解像度の高いものから順に重ねあわせた。

3.伊是名島周辺の海底段丘と活断層  伊是名島とその北の伊平屋島の周りの海底には,120m以浅の地形が広がっており,最終氷期には最大幅20km,長さ40km程度の単一の陸地が広がっていたと考えられる。この付近の海底地形を細かく観察すると2段の平坦面が認められ,海底段丘と考えられる。伊是名島周辺ではそれぞれ,水深80m程度と50m程度である。

 伊是名島の東には,これらの段丘地形を西南西方向に横切り,北側を低下させる約4kmの低崖が2条,認められる。また,この南の屋那覇島を横切る西南西走向の低崖が約20km断続的に延びており,低崖の北西部の海底段丘は南西落ち,南東部は北東落ちが明瞭である。段丘崖の横ずれは不明瞭で,低崖下の段丘面の変形が顕著である。これらの地形的特徴から正断層による変位地形と考えられる。

4.伊是名島の地形と活断層  伊是名島は,中央と北部に,北西—南東に延びる標高100m程度の低山が2列,細長く延び,その周りに3段の段丘面が分布する。いずれの段丘も薄い砂礫層からなる。

 伊是名島の東の海底に認められる低断層崖のうち,南の断層の西延長は伊是名島中央の山地の北東山麓に連続する。山麓に広がる中位の段丘面には北東落ちの低断層崖が認められる。一方,北部の山地の北東には,中位面を変位させる北東落ちの断層崖が認められ,海底段丘を変位させる北側の断層に連続するようにみえる。

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