主催: 公益社団法人 日本地理学会
会議名: 2020年度日本地理学会秋季学術大会
開催日: 2020/10/10 - 2020/11/22
1.はじめに
夏季を中心として山地の斜面より冷風を吹き出す風穴は,蚕種・食物などの貯蔵庫や体験小屋などの見学スポット,寒冷地に生息する生物の隔離分布地になっている。風穴の気温は,周辺の気温などの条件に左右されるため,地球温暖化に伴って風穴気温の上昇が生じると考えられるが,これは風穴利用や,周辺に生息する生物へ悪影響を及ぼす。そこで,風穴の機能の維持や生物の保全を行う上で,まずは適切な影響予測が重要となる。
そのためには,幅広い気候条件下において風穴の観測を行い,周辺気候と風穴気温の関係を明らかにすることが有効であると考えられる。筆者は,四国地方において風穴の比較研究を進めているが,今年度,新潟県津南町において風穴観測を行う機会があったため,2020年6月20日より長期観測を開始している。本地域は豪雪地帯であり,比較的温暖な四国地方の結果と併せて考察することで,より幅広い気候条件での考察を行うことができると考えている。
本発表では,長期観測結果の一部のほかに,対象風穴が苗場山麓ジオパークの見学スポットとなっていることから,風穴の暑熱ストレス緩和効果の評価結果の報告も行う。
2.現地調査
観測は,ジオパークのジオサイトに指定されている2風穴(山伏山,800.4m;見倉,767.9m)と,全国農村景観百選に選ばれている石垣田に隣接した結東風穴(609.9m)において行った。いずれの風穴も冷風を体験できるように整備されている。長期測定項目は冷風穴内部気温(Tc)および,冷気が及ばない地点の気温(To)である(RTR-502;2020年6月20〜21日測定開始)。なお,Tcは風穴内部の最も気温が低い部分にセンサを挿入した。夏季の集中観測としては,結東風穴にて風速(AM-4214SDJ),山伏山・結東風穴において,風穴内外の気温・湿度・黒球温度(いずれもTC-310)を測定した。
3.調査結果
Tcは6月21日17:00時点では,山伏山で0.2℃,見倉で3.3℃,結東で2.4℃を観測した。なお,山伏山風穴の石垣内には雪が残っていた。その後温度は上昇し,7月19日17:00の時点で,山伏山で0.6℃,見倉で4.2℃,結東で3.3℃を観測した。山伏山での温度上昇は0.4℃であるのに対し,他の2風穴は0.9℃の上昇がみられた。
風速は,外気温の変動に連動しており,6月20日〜21日の結果では,気温が低下する夜間では0.4ms-1前後であるのに対し,気温が上昇する日中は0.5ms-1であった。