日本地理学会発表要旨集
2021年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: S203
会議情報

発表要旨
現課程の大学入試における地理科目の現状と課題
*佐藤 裕治宮路 秀作
著者情報
キーワード: 大学入試, 記述式問題, 地理
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

高等学校における履修科目と大学の受験科目は,本来は別のものとみるべきであるが,大学を志したときに,その科目が受験科目にあるかどうかは,高校生にとっては重要である。大学受験科目として「地理」をみたとき,センター試験・大学入学共通テストにおいて,選択できるかどうかは,ほぼ他科目と同等に扱われているが,国公立大学の二次試験,私立大学の個別試験において,地理歴史・公民の他科目に比べ,地理が選択できる大学・学部は限られており,地理を選択する受験生は志望する大学への進学については極めて不利な状況にある。

入試科目に地理を加えることは,コストのかかることであり,問題作成,採点の負担も増えることから,大学にとっては容易に決断できない状況にあることは理解できる。しかし,新課程においては,地理歴史科の科目として,地理,日本史,世界史は履修上は同等の扱いとなるなかで,入試における受験機会の格差が依然として残るとするならば,受験生にとっては極めて理不尽のことであり,改善への真剣な取り組みを望む。

地理を入試科目に加えることに大学がなかなか踏み切れない理由は,コストの面以外では,問題作成が煩わしいという意識が強いことがあると思われる。そもそも,入試に関わったことのない教員にとっては,入試問題がどのような形式とテーマで出題されているかということの知識が乏しく,地理を出題している大学でも他大学の入試問題をみる機会は少ないと思われる。

入試問題は,解答の形式から選択肢から正解を選ぶマーク式(選択式),地名,用語などを記入する記述式(短答式),文章で解答する論述式,地形断面図や模式図など記入する描図式などがあるが,選択式以外を記述式とすることが多い。私立大学では選択式で構成されることが多いが,国公立大学ではほとんどで記述式が取り入れられている。論述問題の数,1題当たりの解答字数は30字程度から400字程度まで,大学によってかなり違いがみられる,採点基準も一様ではないと思われるが,画一である必要はない。

問題のテーマ,設問内容をみると,地誌的な知識が問われる問題も多いが,SDGs,GIS,防災など問題を通じて地理に関わる課題を考えさせる意欲的な問題も多く,一頃話題になった「悪問」は少ない。自然環境と人間生活にまたがり,様々な資料を使って理解する地理という教科は,新しい学力観としての思考力・判断力・表現力を試す上で優れた特性を持つ。また,入試問題を通じて地理が扱う様々なテーマへの関心を高め,理解を深める効果もあると考えられ,入試科目に地理を加える意義は大きいと考える。

著者関連情報
© 2021 公益社団法人 日本地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top