日本地理学会発表要旨集
2021年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 374
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発表要旨
基金を活用した国立公園の資源管理と制度に関する研究
日光国立公園奥日光地域と富士山の事例から
*山本 清龍
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抄録

1.背景と目的

 わが国の国立公園は地域制であり,農林漁業など地域の生業,生活を許容しつつ公園資源の保護と有効活用のための仕組みを創造してきた。しかし,制度設立から80年が経過し,周遊型から滞在・ふれあい型への利用志向の変化の中でオーバーツーリズム,資源劣化などの問題が生じ,静から動への管理手法の移行が求められている。また,地域との連携,協働も議論され始めている(環境省,2007・2014)が,地域が自由度の高い財源を確保することは課題の一つである。2002年の自然公園法改正により利用調整地区の指定が可能となり,地区ごとに利用者数や滞在日数などの基準を定め手数料の徴収が可能となった。すでに制度適用事例として大台ヶ原,知床があるものの,同様の事例が急増し,財源をダイナミックに活用していこうとする情勢にはない。そこで本研究では,国立公園の環境保全を目的とする基金の導入可能性を検討すること,富士山等の国内の事例をとりあげて基金の制度について論じ考察すること,の2点を目的とした。

2.方法

(1)研究対象地

 日光国立公園奥日光地域を選定した。同国立公園は1934年に指定された国内最初期の国立公園の一つであり奥日光地域はその一部である。同地域は火山や,その火山活動によって形成された湖沼,湿原,瀑布が見どころとなり,近年は多数の来訪者による自然資源の劣化,シカやイノシシ等による食害,湖沼の水質の劣化,外来植物の侵入などが問題化している。また,来訪者を受け入れる地域の側では公園管理の財源不足,管理を担う人材不足の問題があり,訪問者が地域へ貢献することが求められている。

(2)調査方法

 公園利用者の基金構想に関わる意識を把握することを意図して,2020年の緑葉期の7/26,8/2,紅葉期の10/18,11/1の日曜日の計4日,有料の華厳第一,同第二,無料の歌ヶ浜,赤沼,三本松の駐車場と有料低公害バスが発着する赤沼バス停の計6地点において,郵送回収式アンケート調査を実施した。

(3)調査票の構成とシナリオ

 調査票にはまず,年齢,性別等の基本属性項目に加え,旅行目的,グループの人数と構成などの旅行特性項目を設けた。また,奥日光地域における訪問の目的と場所,滞在時間等の行動特性項目,駐車場や低公害バスの利用意識項目,環境保全基金構想に対する意識項目を設けた。とくに,環境保全基金構想については,前述の奥日光地域の問題を紹介した上で「奥日光地域の自然生態系をまもり,公園の適正利用を促進するために「環境保全基金」が創設され,低公害バスの乗車料金に環境保全協力金が上乗せされ,他の駐車場の料金にも同様に上乗せされることになったとします。集められたお金は環境の保全,快適で安全な利用の推進,計画の策定と環境教育等にあてられ,現在よりも,すばらしい自然と文化の体験を得ることができるようになります。しかし,低公害バスを利用するたびに環境保全協力金を支払うため経済的負担が増えます。」とシナリオを提示し,基金に対する賛否,支払意思額,期待する基金の使途を把握する質問を設けた。

3.結果と考察

 調査の結果,配布数3,583,協力依頼時の拒否率11%,有効回答数991,回収率28%となった。まず,回答者の基本属性は50代が33%で最も多く50-60代で59%と過半数を占めた。また,性別では男性が54%でやや多く,関東居住者が91%だった。次に,旅行特性をみると,公園訪問目的は93%が観光,夫婦や家族での訪問が75%,マイカーとレンタカーの利用者が97%だった。奥日光地域における行動特性は,自然風景を見るが83%で最も多く,訪問場所は中禅寺湖(59%),戦場ヶ原(43%),華厳ノ滝(42%)が最上位に位置し,滞在時間は2-5時間が45%で最も多かった。環境保全基金に対する賛否は賛成89%,反対9%,無回答2%となり,大半が賛成していた。また,支払額が上昇すると支払意思の割合が低下し500円と1,000円の間で支払者と非支払者の割合が逆転していた。さらに,基金賛成者901人が期待する使途は,湿原等の自然風景保全回復が74%で最も多く,トイレの整備・維持・管理(71%),ゴミ・屎尿等の処理(56%)が続いた。車利用が多い奥日光地域の旅行特性を考慮すると,駐車場を活用した環境保全基金の導入には可能性があり,実際の国立公園利用者の多くが賛同していた。一方,制度の観点からみると駐車場上乗せ型の徴収方法は富士山で実施されている富士山保全協力金制度よりも強制力があるものの,駐車場利用者は汚染者,受益者の一部であることから,他の徴収方法との組み合わせを検討することも必要である。なお,本研究は栃木県委託研究として実施し,一部,環境研究総合推進費(4-1906,研究代表者:山本清龍)からの支援を受けた。

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