日本地理学会発表要旨集
2021年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 263
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発表要旨
広島市でスポーツイベントを開催することの意義
*和田 崇
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抄録

1.研究目的

 本研究は,世界最初の被爆都市であり,国際平和文化都市をめざす広島市を舞台にスポーツイベントを開催することが,「スポーツと平和」の観点からみて,どのような意義があるのか検討することを目的とする。

2.「スポーツと平和」をめぐる論点

 オリンピックの創始者であるクーベルタンは,スポーツによる友好的な国際交流がなされ,相互理解が促されることにより築き上げられる世界平和の実現をその理念として掲げた(黒須 2015)。その思想は世紀を超えて受け継がれ,1993年の「スポーツとオリンピック理念の国際年」,さらに2003年の「マグリンゲン宣言」以降,スポーツの平和への貢献が再評価,強化されている。

 平和はスポーツをおこなうための前提条件でもあり,スポーツを通じて得られるものでもある。すなわち,スポーツは平和でなければおこなうことができないし,スポーツを通じて相互の信頼と友好が深まることで平和の創造に貢献する。また,スポーツによる平和への貢献は,紛争や戦争を予防したり,阻止したりする「消極的平和」と,相互の理解や交流,援助などを促進して平和の土台を築く「積極的平和」の2つがある(内海 2016;森川ほか 2010)。

 しかし,こうした理念はスポーツをおこなえば自動的に達成されるわけではない。諸国間の覇権争いや暴力,社会的弱者の抑圧などを回避し,スポーツを通じて友好と平和の感情や意識を高め,共有しようとする立場に立ち(思想をもち),その実現に向けて関係者が努力することが必要となる(森川ほか 2010)。クーベルタンに始まる国際オリンピック委員会の実践や国連の呼びかけは国際機関としての努力であるし,平和の象徴としての役割を演じてきた競技者もそれへの貢献を果たしてきたといえよう。これらに加えてその役割を果たすことが期待されるのがスポーツ政策を推進したり,スポーツイベントを開催したりする国や都市であり,彼らこそスポーツを通じた平和の実現という立場に立ち,それを実現するための施策を戦略的に推進することが期待される。

3.広島市における「スポーツと平和」

 広島市は戦後,平和都市の実現に向け,平和記念公園と原爆ドームに隣接する都心エリアにスポーツ施設の建設を計画するなど,他都市に先駆けてスポーツを平和実現および戦後復興の象徴・手段と位置づけ,活用してきた。1951年広島国体や,1957年開場の旧広島市民球場を本拠地とした広島東洋カープなどはその代表例である。さらに,1994年には「世界平和への願いを込めて友好の場にアジアの心を結び,力強く21 世紀を拓く若人たちのスポーツの祭典」を理念とする広島アジア競技大会を開催したほか, 2010年には「核兵器廃絶と世界平和のシンボル」としての2020年オリンピック招致を表明するなど,スポーツを手段とした世界平和と都市建設を戦略的に展開してきた。

 「ヒロシマオリンピック」が実現することはなかったが,広島アジア競技大会が遺した競技施設と国際大会の運営ノウハウ,各国競技組織等との人的ネットワークを活用する形で,いくつかの競技で国際大会が今日まで継続的に開催されている。それらの大会はいずれも平和祈念が開催目的に掲げられ,選手等による原爆慰霊碑や原爆資料館の見学などの平和学習を公式行事とするものもある。これに対して,広島市や広島県はスポーツ振興および平和発信の意義を認めて大会開催経費の一部を補助したり,平和学習活動に協力したりしている。

 こうした取組みは,被爆地ヒロシマの国際的な知名度と場所の力をもつ広島市だからこそ意味をもち,広島市が積極的に推進すべきスポーツ・平和都市戦略ということができる。

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