日本地理学会発表要旨集
2021年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P049
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発表要旨
種苗類の輸入規制緩和後における主要産地の構造変動
ユリの球根と切花を事例に
*両角 政彦
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抄録

経済のグローバル化の進展にともなう社会経済変化の一側面として,農産物貿易の自由化をめぐる国内市場の開放と国内農業の保護とが議論されてきた。国内農業を保護する立場からは,国民消費者への安定的で安心安全な農産物供給と国内産地への影響が懸念されてきた。しかし,すべての輸入農産物が国内産地へ同様の影響を及ぼすとは限らないため,農産物ごとに実態を分析することが求められる。とくに産地への影響とその対応のプロセスについては,輸入規制の緩和措置がとられた直後の短期的な変化が注目されてきたが,中長期的な変化の状況も継続してとらえていく必要がある。

本研究では,知的資産になる種苗類の輸入規制緩和後における産地の国際的連関と相互依存関係の継続性を踏まえて,1990年のユリ球根の実質的な輸入自由化後におけるおよそ30年間の市場構造の変化と国内産地の構造変動を明らかにした。球根切花の特徴として,球根生産を基盤に切花生産が成立する相互依存の生産関係があるため,球根産地の変動と輸入ユリ球根の導入から切花生産の拡大,維持,縮小の実態,これら産地の市場対応の地域差に着目する。ユリ球根の輸入規制緩和が当該産業に与えた影響を時系列に沿って産地間の市場競争の側面から分析し,産業のダイナミックな地域変動の一端をとらえた。

ユリ球根の輸入規制の緩和措置は,およそ30年を経過する過程で,国内外の球根流通業者の事業戦略を通じて,国内ユリ産業の国際的なネットワーク化を促進し,国内市場には市場規模の急拡大とその後の減退を,産地には新品種の開発から生産販売過程に至るまでのダイナミックな転換をもたらしてきた。知的資産になる種苗類に対する輸入規制の緩和措置は,初期段階で国内市場を急拡大させる一方で,新品種の開発に関わる知的財産権を保有する種苗供給地を最も顕著に再編する可能性が示された。製品生産(切花)に不可欠となる生産資材(球根)の外部依存を常態化し,国内産地を製品生産地へ転換を促す産地の平準化ももたらすと考えられる。産地の転換と市場対応には時間差と地域差があり,これらは各産地のおかれた存立条件に左右されてきたととらえることができる。

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