主催: 公益社団法人 日本地理学会
会議名: 2022年度日本地理学会秋季学術大会
開催日: 2022/09/23 - 2022/09/25
1.はじめに
本発表では2021年3月の日本地理学会における発表「沈堕滝の後退による大野川中流域における段丘発達」での質疑を受けて,追加の現地調査を実施した結果を報告する.
大分県大野川に位置する沈堕滝は阿蘇4火砕流堆積物溶結部の分布限界付近に形成され,過去9万年間に現在の位置までの32 kmを移動してきた(高波,2021).段丘の形成年代に基づけば,沈堕滝の後退速度は犬飼・岩戸間を後退した5.4万年から3万年前までの間に大きく,その前後の区間(期間)では比較的小さかった.この後退速度の増減に関しては,阿蘇4の溶結程度の差異による岩石制約の影響と,気候変動に代表される環境変化の関与の2つが考えられる.大野川流域で阿蘇4溶結部の力学特性を検討した例は,沈堕滝北側の駐車場法面を計測対象とした森山・横田(2006)に限られる.そこで本研究は大野川河谷に沿う阿蘇4強溶結部の分布を明らかにし,溶結程度の差異による岩石制約が沈堕滝の後退速度を左右しうるか考察した.
2.調査の概要
沈堕滝よりも下流の大野川河谷にある阿蘇4溶結部の露頭において,シュミットロックハンマーKS型の打撃による反発値を得た.各露頭では互いに1 m以上離れた3点を打撃点に選んだ.打撃点は表面が乾燥していて周囲6 cm以内に亀裂のない点とした.各点を水平方向に25回程度連続で打撃して,極端に低い値を除いた20回の反発値を採用した.3点を平均した値をその露頭での結果とみなした.打撃点の標高をハンドレベルによる簡易水準測量と地理院地図上の標高値から求め,大野川の河床縦断面に投影した.
3.シュミットロックハンマーによる測定結果
反発値の平均は60~78の範囲にあり,火砕流堆積物の下部で相対的に高い傾向がみられた(下図).火砕流の給源から離れた柴山や犬飼においても沈堕滝付近と同等の値が得られた.
4.強溶結部の分布
沈堕滝よりも下流側の阿蘇4溶結部は,少なくとも竹中中学校東側にある道路の法面(河口から約19 km)まで露出していた.柱状節理をなす強溶結部は竹中駅対岸の台地(河口から約22 km)まで認められた.最も下流側の竹中付近が弱溶結であるのを除けば,上流・下流でみた溶結程度の差異は小さいといえる.
5.沈堕滝の後退における岩石制約
溶結程度の強弱と後退速度の大小は犬飼・岩戸間とそれ以外の間で対応していない.急速に沈堕滝が後退したと思われる犬飼・岩戸間でも反発値が70を超える地点は多くあり,弱溶結部の存在が滝の後退を促進したとは考えにくい.沈堕滝の後退速度は,阿蘇4火砕流の溶結程度による岩石制約よりも外的な要因に左右されたと考えられる.