主催: 公益社団法人 日本地理学会
会議名: 2022年度日本地理学会春季学術大会
開催日: 2022/03/26 - 2022/03/28
表層崩壊発生の予測は,土石流などの土砂災害予測においても重要であり,同時に山地の地形発達を理解する上でも重要な課題である.本研究では,土砂災害発生前後のLiDAR 数値標高モデル(LiDAR DEM)を利用できる広島県広島市安佐南区・安佐北区および山口県防府市の複数の表層崩壊跡地を対象として,炭質物試料の14C年代測定と崩壊前後のLiDAR DEMの差分解析を組み合わせて,崩壊前の谷頭部における埋積速度を推定した.さらに,得られた値と中世以降の人間活動の関係について検討した. 広島県広島市安佐南区・安佐北区の2014年豪雨に伴う崩壊跡地5か所(A1~A5),山口県防府市剣川流域の2009年豪雨に伴う崩壊跡地2か所(B1, B2)を調査対象とした.崩壊地A1とA2はコナラやシイなどの樹林になっており,集水域内に明確な土地利用の痕跡はみられない.崩壊地A3の尾根部には16世紀頃に使用されたとみられる城郭跡(中城)があり,斜面にはアカマツやシダ類が分布する.崩壊地A4・A5の尾根部には13~16世紀頃使用されたとみられる城郭(高松城)の一部遺構があり,植生はアカマツ・コナラ群落である.崩壊地B1・B2には城郭跡は見られないが,周辺にウラジロやコシダなどのシダ類のマット群落が広く分布する.また,防府地域には鎌倉時代から土地利用が活発となり,明治時代まで,はげ山が広がっていたことが文献で指摘されている.各調査地の崩壊跡地には滑落崖,ガリー・リルなどがみられる.崩壊地内の滑落崖やガリー・リルなどの断面に含まれる炭質物試料を採取して,その14C年代を分析した.同時に崩壊前の地表面からの深さを推定するため,採取地点の崩壊前後のLiDAR DEMの差分値を参照し,炭質物試料の崩壊前の地表面からの深さを推定した.年代値を崩壊前の推定面からの深さで除することにより,埋積速度を推定した.炭質物試料は各崩壊地で2~4か所採取した.なお,以下で示す埋積速度は,LiDAR DEMに含まれる誤差を含む値の範囲として記載した.広島市の崩壊地A1の埋積速度は0–1.3 mm/年,A2では0.5–2.7 mm/年であった.崩壊地A2はA1より急傾斜であり,堆積物の粒径も調査地域の中で最も大きかったことから,自然的条件であっても土砂生産が活発であったと考えられる.人為的影響を受けた可能性のある崩壊地A3(0.7–2.9 mm/年),A4(0.9–3.5 mm/年),A5(0.7–1.9 mm/年)の値は,崩壊地A1の値より大きく,A2と同程度の値であった.山口県防府市の崩壊地B1の埋積速度は1.3–6.7mm/年,B2では0.9–6.9 mm/年であり,いずれも広島市の崩壊地より埋積速度が大きかった.防府市の崩壊地周辺には明確な城郭跡などは見られないものの,近年まで周辺がはげ山となっていたとすれば,尾根で生産された土砂が谷頭凹地付近で蓄えられていた可能性がある.また,中世以降過去の土地利用による人為的な土砂供給が,自然状態の崩壊跡地の土層回復よりもすばやい土層形成を促進し,斜面の不安定化を促進した可能性がある.