日本地理学会発表要旨集
2022年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 416
会議情報

2014年人口・住宅センサスからみたヤンゴンの居住分化
*日野 正輝TIN MOE LWINRANDANI Fatwa
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

1. 研究目的 ミャンマーでは、2014年に31年ぶりに国勢調査が実施された。調査項目は41事項に及ぶ。調査結果は、国、州・管区、県に加えてタウンシップ単位に集計されて提供されている。本研究は、当該データを用いてヤンゴンの居住分化について検討したものである。東南アジアの都市化は、ジャカルタやバンコクをモデルにして、1990年代以降それまでの過剰都市化からFDIに牽引された新中間層の増大を特徴とする都市化へと大きく変貌したことが説かれてきた。その大都市圏の空間形態は拡大大都市圏と概念化されている。ミャンマーも1988年の軍事クーデターにより、それまでの閉鎖的社会主義体制から市場経済化と積極的な外資導入の方向に転換した。そのことからすると、ミャンマーの最大都市ヤンゴンがジャカルタやバンコクで起こった変容を辿るのかどうかは興味深い。 2. 対象地域と資料 ヤンゴン大都市圏をここでは便宜的にヤンゴン管区(Yangon Region)、10,170㎢のうち島嶼部を除いた全域とみなし、対象地域とする。同地域は4県(District)、44群区(Township)からなる。ヤンゴン市(ヤンゴン市開発委員会の行政地域)は33タウンシップの範囲からなる。分析に利用したデータはタウンシップ単位で集計公表されたデータである。 3. 分析結果 ①ヤンゴン都心部は人口密度1平方キロメートル当たり3万人を超す高密度居住地区となっている。5~8階建てのアパートが狭い通りに沿って密集する景観を特徴とする。住民の多くはサービス業従事者およびホワイトカラーからなる。 ②都心を取り巻くインナーエリアでは、アパート・コンドミニアムが都心部と同様に多数を占めるが、戸建て住宅が増える。当地区の住民の多くは都心部以上に高学歴のホワイトカラーが多い。 ③独立後早くに開発が進んだアウターエリアでは、アパート・コンドミニアムの比率が大幅に低下し、木造住宅が多数を占める。住民特性はブルーカラーが多数を占め、高卒以上の住民比率が低下する。 ④アウターエリアの外側に、1990年代になって開発された市街地が広がる。当地域では、木造住宅が多数を占めるが、竹材を用いた住宅(Bamboo Housing)も多くなる。工業団地開発を反映して製造業就業者比率が相対的に高い。 ④周辺農村部になると、人口密度は急激に低下し、住宅の郊外化が市域を越えて大きく進展していないことを物語る。ただし、経済特区として大規模な工業開発が進む地区および国道1号、2号線沿いの地区では工業化の進展により、製造業従業者比率の増大が認められる。それ以外の地区では、農業労働者の比率が依然として高く、木造住宅とともに竹材住宅が多数を占める。 ⑤36変数に対して主成分分析を施し、主要2成分を抽出してタウンシップのクラスター分析を行った結果、44タウンシップは上記した地域分化に対応した6グループに分類された。 4. 結び  ヤンゴンの2014年時点での都市化の様相は、依然として中心部集住の傾向が強い。その理由として、郊外でのインフラ整備が進んでいないことが理由として挙げられる。都市内での住民の移動手段は主にバスに依存しており、通勤時間のことを考慮すると、都心部から遠く離れた場所に居住することは難しい。さらに、ヤンゴン市域外では、電気・水道の普及も遅れている。自動車の保有世帯率もヤンゴン管区全体では8%である。これらのことが人口の郊外移動を押しとどめる要因と考えられる。 本研究は,科研費基盤研究(C)(一般)「ヤンゴン郊外地域における住宅供給と居住者特性」(代表者:日野正輝)の成果である。

著者関連情報
© 2022 公益社団法人 日本地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top