日本地理学会発表要旨集
2022年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 444
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短距離交通体系の日韓比較に関する予備的報告
*柴田 卓巳
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抄録

Ⅰ 初めに

日本の植民地支配に伴い,戦前の朝鮮半島には,日本と類似した鉄道による交通体系が形成されていた.すなわち,駅間距離が比較的短かったため,鉄道は中・長距離輸送のみならず,短距離(通勤・通学による日常的な移動が行われる距離で,概ね30km以内を想定)輸送をも担うことが可能であった.戦後,日本では鉄道が短距離輸送も中・長距離輸送も担い続けた.特に,モータリゼーションの進行と共にローカル線の主要な利用目的が高校生の通学になり(青木1983a, b),また新幹線の開業や貨物輸送の縮小により幹線のダイヤに余裕が生じてからは普通列車が増発されたというように,短距離輸送が鉄道の重要な輸送分野となってきた.一方で韓国では,鉄道を中・長距離輸送に特化させると共に,短距離輸送を路線バスの輸送分野として位置付け,両者の輸送分担を明確化した.モータリゼーション以前は類似した交通体系を有していた日本と韓国が,各国の事情に合わせて交通体系を改編し,現在では大きく異なる交通体系を有するに至った.この両国の交通体系の形成過程を比較し,それぞれの特徴を明らかにすることで,異なる交通体系から生じる各々の利点や問題点を提示できると考える.以上の問題意識に基づき,文献調査を行った.

Ⅱ 戦後の短距離交通体系

日本も韓国も,1970年頃までは都市圏外においても鉄道が重要な交通機関であった.その後,韓国では赤字の削減のため,概ね1日平均利用者数300人を基準として小規模駅の休廃止が行われると共に,1980年代には鉄道の中・長距離輸送体系への特化が明確に打ち出された.列車種別についても,「普通」相当の列車は全廃され,「急行」相当の種別が最下級となっている.短距離輸送については路線バスが担うこととなり,交通機関の特性に合わせた合理的な交通体系になったといえる.一方で,日本でも鉄道の中・長距離輸送への特化が検討されたものの実現せず,鉄道と路線バスの輸送分担がなされないまま,現在に至っている.

Ⅲ まとめ

 鉄道の輸送分野として,日本では,都市間の中・長距離輸送と,通学を主とする短距離輸送の両者が残った.一方の韓国では,都市間の中・長距離輸送しか残らなかった(都市鉄道を除く).こうした差異が生じた要因としては,モータリゼーション進行後の鉄道事業の赤字に対する施策として,鉄道の中・長距離輸送への特化が実施できたか否かが大きかったが,学区制度の違いも一要因として考えられる.

 今後の論点としては,以下の諸点が挙げられる.1点目に,日本では鉄道と路線バスが並行している区間が多く見られるが,こうした区間において,鉄道を中・長距離輸送に特化させ,短距離輸送は路線バスに担わせるといった輸送分担を行うことは適当なのか.また可能なのか.2点目に,日本では鉄道の輸送分野として短距離輸送が残ったため,大都市圏のみならず地方都市圏においても,鉄道の影響を受けた都市域の形成に繫がっているのではないか.3点目に,日本では同一の鉄道施設が短距離輸送にも中・長距離輸送にも利用されており,有効活用がなされているといえるのではないか.

文献

青木栄一 1983a. 教育問題としてのローカル線. 地理28(11): 39-49.

青木栄一1983b. 国鉄ローカル線と教育問題. 運輸と経済43(12): 62-70.

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