1.研究背景と研究目的
我が国の高齢化は一段と進んでおり, 2021年9月には3,640万人,高齢化率が29.1%に達した。また,全国に立地する小売食料品店の数も減少傾向にあり,特に従業員数が1~2人の小規模店舗において顕著である。このような状況下で,2000年代後半から高齢者を中心に食料品の買い物に不便や不安を感じる人々の存在に注目が集まるようになった。しかし最近では,高齢者の健康寿命が延びたことで自転車や自家用車を使い,食料品店まで買い物に行く高齢者が増加している。本研究では,群馬県桐生市の中心市街地を対象に,フードデザート(以下,FDs)が発生している可能性のある地域を取り上げ,移動手段に着目して高齢者の買い物行動の実態を明らかにすることを目的とする。
2.研究方法
研究目的を達成するため,以下の手順で分析を進めた。第一に,GIS(地理情報システム)を援用し,桐生市中心市街地においてFDs地域を抽出した。第二に,このFDsと推測された地域に居住する高齢者の買い物行動の実態を把握するためにアンケート調査を実施し,その調査結果を移動手段別に分析した。最後に,移動手段別に明らかにした高齢者の買い物行動の特性を,自家用車の利用状況を中心に検討した。
3.研究結果
アンケート調査の結果,高齢者のみが居住する18 世帯のうち,およそ半数が自家用車を利用し,郊外に立地するスーパーマーケットに買い物に向かっていることが明らかになった。また,自家用車を利用せず買い物先まで向かう高齢者は,自転車および徒歩で中心市街地内の個人商店に向かっていることが明らかになった。さらに,自家用車を利用して買い物先まで向かう高齢者のみ世帯のなかでも,高齢者本人が自分で向かうケー
スと,ほかの人の運転で向かうケースの 2 つに分けられた。また,食料品の買い物で困っていることについては,「車が運転できなくなったら心配」や「足が不自由になり,いつも一緒に買い物に行っていた親戚と買い物に行けなくなってしまった」などといった自身の加齢に伴う身体的な問題や不安をあげる回答が目立った。
4.考察
これまでのFDs地域における高齢者の食料品の買い物を扱った研究では,近隣に買い物施設が立地する地区においては,買い物の利便性を高く評価する傾向があるなど地域的な特徴について議論されることが多かった。しかし本研究では,同じ高齢者であっても,個々の事情により買い物行動に差異があり,FDsは個人個人によってとらえ方が異なる存在であることが示唆された。