日本地理学会発表要旨集
2023年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P013
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「現代世界の課題」学習の授業提案―モデル学習を活用して―
*青島 光太郎
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抄録

はじめに 高等学校で本年度より開始した必修科目「地理総合」は社会的事象の地理的な見方・考え方を働かせ,課題を追究したり解決したりする活動を通して,グローバル化する国際社会に主体的に生きる平和で民主的な国家及び社会の有為な形成者に必要な公民としての資質・能力の育成を目指す.しかし,教育現場からの声として地理的事象の記述・説明や表面的な背景の考察までは行えても,その先の議論にまで授業が到達できていないという指摘がある(泉 2014など).「シングル・ストーリー」的展開では,生徒の誤った解釈やステレオタイプを増幅させるリスクが高い.したがって対話的,主体的で深い学びを促す学習を展開することが求められている.

 筆者は「現代世界の諸課題」のうち都市問題を単元に,①須原(1998)や服部(1993)が検討した,モデル学習による地理認識枠組みを育成する授業構成を意識しつつ,②都市問題が生じる要因の理解に加えて具体的な解決案を立て,その案を実行した場合に生じうる限界に至るまで議論した.本稿では,筑波大学教職課程の教育実習における授業での生徒の反応を報告し,サブカルチャーの地理教育価値や授業原理としてのモデル的アプローチを提案する.  

結果と考察  一般的に学力水準が高い生徒であっても都市問題や貧困について必ずしも正しく理解できているとは限らない.事例説明から踏み込んだ授業展開は,先入観や固定観念を覆し生徒の学習理解や思考力に変革をもたらしうる.本実習は,宮下公園の事例では,路上生活者の立場や持続的な都市計画のあり方を通じて生徒に多元的に捉える視点や客観的に整理する重要性を伝えることができた.貧困や排除へのフォーカスは日本での事例が少ないことや,道徳・倫理的観点が懸念されるためか,教育現場においては深入りを回避している印象を受けるが,歌舞伎町,釜ヶ崎,非行少年,オタクといったいわゆる「サブカルチャー」な領域こそ表面的な講義では捉えられない本質的な学びがあり,教材化の余地および価値があるのではないだろうか. また,様々なモデルを授業に組み込むことで,生徒の地理的見方・考え方が高まっただけでなく,地理への興味関心を高まったように実感している.感染症の流行などによって都市が大きな転換期を迎えている現在こそ,地理学や都市計画の礎となっている20世紀の理論を再考する意義があると考える.

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