はじめに
テレコネクションとは,ある離れた地域同士の気候偏差が互いに相関を持ち変動する現象である.日本の冬季気温の年々変動に寄与するテレコネクションパターンとしては,北極振動(AO),PNAパターン,WPパターン,EUパターン,SAJパターン(Ueda et al. 2015;Kuramochi and Ueda 2023)が挙げられる.また,熱帯域のエルニーニョ–南方振動(ENSO)や熱帯インド洋(TIO)の海面水温(SST)の年々変動も日本の冬季気温変動に寄与する(Xie et al. 2016).このように日本の冬季気温変動の要因となるテレコネクションパターンやSST偏差は数多く指摘され,日本の気候に与える影響が個別に調査されてきた.また,気候影響の程度は日本国内でも地域によって異なることが指摘されている(Xie et al. 1999).そこで本研究は,日本国内の地上気温の年々変動に着目して地域区分を行ったうえで,各地域の冬季気温の年々変動に対するテレコネクションパターンおよびSST偏差の影響を,統計的手法を用いて包括的に明らかにする.
使用データと手法
地上気温データは802地点の気象庁アメダス観測データ,大気データはJRA-55(Kobayashi et al. 2015),NOAA-OLR,SSTデータはCOBE-SST(Ishii et al. 2005)を用いた.解析期間はアメダスデータおよびJRA-55,COBE-SSTは1980/81年から2022/23年,OLRデータは1980/81年から2021/22年であり,いずれも冬季(12月,1月,2月)を対象とする.本研究では,日本の冬季平均気温の年々変動に対して自己組織化マップ(SOM,Kohonen 1982)を用いて地域区分した.その後,各地域の気温変動の要因について背景の大気循環場やSST偏差に着目し,統計解析を行った.
結果と考察
SOMを用いて区分した結果,日本は南北方向に分かれる5つの地域に区分された(図1).各地域の気温変動とテレコネクション指数との相関係数を図2に示す.図2より気温変動に寄与するテレコネクションパターンは地域ごとに異なることがわかる.EUパターンは南の地域ほど強い相関があり,SAJパターンはすべての地域で有意な相関がある.一方でSST偏差指数は大気のテレコネクションパターンと比べると相関が小さい.しかしながら,各月の各地域の気温変動とSSTの回帰係数を計算すると,12月はすべての地域でエルニーニョ–南方振動(ENSO)の遠隔影響を受け,2月はB・C・D・E地域でインド洋と太平洋の海盆間相互作用による遠隔影響を受けることが明らかになった.すなわち,熱帯の海盆間相互作用が対流活動偏差をもたらし,SAJパターンを励起することが日本の冬季気温偏差に関連すると考えられる.