1.はじめに 中国の農村部では、1978年からの改革開放政策の導入に伴い、農地・農産物・農民、そして農村空間全体は都市化や工業化との関わりの中で大きく変容してきた。この研究は、高度経済成長期において重要な役割を果たした農民工を事例に、彼らはどのようにして農業従事者から、「離土不離郷」を経由して、中国全土の都市部に進出したか、そしてその空間的変容と地域性などを明らかにすることとする。
2.高度経済成長期初期の農民工 本研究は主に農業センサスの調査結果を用いて分析した。第1図は省別農業従事者と農外従事者の分布を表したものである。1996年末に主に農業に従事している農民は河南省の3837万人をはじめ、四川省、山東省、安徽省、湖北省、河北省と江蘇省いずれも2000万人を抱える農民の多い地域である。また第1図によれば、1996年頃から、東南沿海地域において、農業労働をやめ、主に農業以外の産業に従事する農民(いわゆる農民工)は増え始めた。江蘇省の1583万人をはじめ、浙江省、広東省、山東省、四川省と河南省等の農民工は1000万人に達した。 一方、主に農業以外の産業に従事する農民工の就労先を詳細にみると、出身地の郷・県・省そして省外へ出身の郷鎮に留まり他産業に従事する農民工の多い地域は改革開放前にも農村工業(郷鎮企業)が発達していた地域であり。石炭等の鉱工業が多い地域である(第2図)。更も当時の「離土不離郷」政策や1990年度初期に「糧票」制度が廃止されたばかりとも関係していると考えられる。この時期、四川省や湖南省等から省外へ出かける農民工が多い。
3.考察 改革開放初期から、農民工が従事する産業は、農業サービス業、工業、建築業、交通輸送業、卸売り、小売り、飲食業等、多岐にわたっていた。中国国家統計局によれば、2023年の農民工の数は29753万人であった。そのうち、出身地で働く農民工は12095万人で、外出した農民工は17658万人であった。農民の空間的移動に関する分析は中国における農村空間の変容の解明に寄与するものである。
謝辞 本研究はJSPS科研費23H00029の助成を受けたものである。