日本地理学会発表要旨集
2024年日本地理学会春季学術大会
セッションID: P028
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生保内だしの吹走による健康影響について
*松本 貴子山口 隆子
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抄録

Ⅰ はじめに

 生保内だしとは、秋田県仙北市生保内地区に吹き降りる東寄りの局地風である。生保内だしが吹走する地域には、「熱無く頭痛がすれば翌日東風」(「田沢湖町史」編纂委員会,1966)という天気俚諺が存在しており、だし風の吹走が地域住民の体調に影響を及ぼしていることが推測される。

 本研究では、医療従事者や地域住民にヒアリング調査とアンケート調査を行い、生保内だしと体調不良に関する話題の認知度や有症状者の地域分布を考察する。また、生保内だし吹走時における生保内地区の気象変化を捉える。

Ⅱ 研究方法

 仙北市の医療従事者5名(医師3名、保健師2名)ならびに、仙北市民66名(生保内地区46名、生保内以外の地区20名)にヒアリング調査を、仙北市職員388名にアンケート調査を行った。主な質問項目は以下2点である。

①生保内だしの吹走に伴い、体調不良が生じるという話を知っているか、もしくは、聞いたことがあるか。

②実際に体調に変化を感じた経験はあるか。

 また、生保内だし吹走時の変化を捉えることを目的に、生保内地区で気圧観測を行った。

Ⅲ 結果及び考察

 1 医療従事者へのヒアリング

 生保内だしの吹走に伴う不調に関する話を聞いたことがある者(以下、認知者)は、保健師2名のみであった。生保内地区で生まれ育った1名は、生保内だしの吹走に伴う頭痛などを日常的に体験していたという。医療従事者からの認知度が低い理由として、市販の痛み止めで自己対処している有症状者が多く、発症する不調の程度が通院を必要とするものではないことが考えられる。

 2 地域住民へのヒアリング

 認知者の割合は、生保内地区で46%、他地区で35%であり、このうち、有症状者は生保内地区で29%、他地区で14%であった。生保内地区での有症状者のうち、半数が生保内地区で生まれ育った者であり、半数が他地区から移転した後に発症した者であった。他地区の有症状においても、生保内地区に転勤後、発症したとのことである。以上のことから、有症状は生保内地区で生まれ育った者とそうでない者の双方に存在していることが考えられる。

 3 仙北市職員へのアンケート

 認知者、有症状者ともに、出身地、居住地、現在の勤務地のいずれかに生保内地区を含む者が有意に多かった(認知者:p<0.01、有症状者:p<0.05)。

 4 生保内だし吹走時の気圧変化

 生保内だしの吹走日であった2023年5月7日の気圧変化を調べたところ、生保内だしの吹走開始1時間前から吹走開始にかけて、1hPa程度の気圧低下が見られた。これは、佐藤ら(2021)が天気痛症状の悪化に相関性を示すことを指摘した微気圧変動よりも大きい値であり、人々の体調に影響を与えている可能性が考えられる。

Ⅳ まとめ

 認知者・有症状者ともに生保内地区に居住・勤務経験のある者が多いことから、生保内だしの吹走域と重なるごく局所的な空間でだし風の吹走に伴う健康影響が発生していることが推察された。また、生保内だしの吹走時に発生しているわずかな気圧変化が人々の健康に影響を与えている可能性が示唆された。

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