日本地理学会発表要旨集
2025年日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 416
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中山間地において発生した孤立集落および道路寸断箇所の特徴
*岩佐 佳哉
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抄録

1.はじめに 平成16年新潟県中越地震以降,内閣府(2005)をはじめとして,国や都道府県によって孤立集落の発生可能性調査が行われている.一連の調査では,集落の孤立の有無を判断する根拠として土砂災害警戒区域・特別警戒区域と土砂災害危険箇所といったハザード情報を用いている.工学の分野では,道路寸断リスクの量的な検討(吉田ほか 2007など)や想定される災害に対する孤立への対応に関する研究(奥村・五艘 2014など)が蓄積されている.地理学では,救援物資の輸送や救援活動拠点の配置の観点から道路の寸断や道路網の脆弱性が扱われている(荒木ほか 2016; 荒木 2022).一方で,平成16年新潟県中越地震以降に生じた多数の孤立集落について,寸断箇所の地理的条件に対する検討はほとんどなされていない.

 本発表では,中山間地域で多数の孤立集落が生じた,平成16年新潟県中越地震,広島県における平成30年7月豪雨災害,熊本県における令和2年7月豪雨災害,石川県における2024年能登半島地震を対象として,孤立集落の特徴と道路寸断箇所の地理的条件を明らかにする.

2.研究方法 各県が公開している災害対策本部会議や被害報告に基づいて,孤立集落の位置や継続期間を把握した.また,国の機関や自治体が作成する災害の記録誌や状況説明資料に基づき,集落に最も近い道路寸断箇所を特定し,寸断箇所のハザード情報や傾斜量との関係を検討した.

3.孤立集落の特徴 孤立集落は,平成16年新潟県中越地震で59件,平成30年7月豪雨で21件,令和2年7月豪雨で177件,令和6年能登半島地震で46件発生した(図1).孤立集落の8割が解消されるまでの期間をみると,平成30年7月豪雨と令和2年7月豪雨では5日程度である一方で,平成16年新潟県中越地震や令和6年能登半島地震では10日以上を要した.地震災害では道路寸断の要因となる斜面崩壊や地すべりが豪雨災害と比較して大規模であるためと考えられる.

4.道路寸断箇所の特徴 道路寸断箇所がハザード情報と重なる割合は32~69%であり,ハザード情報がなくても道路寸断が発生している.ハザード情報は居住地が対象であるため当然ではあるが,国や県が行う孤立集落の発生可能性調査ではハザード情報が用いられており,孤立集落の発生可能性を過小評価している可能性がある.実際に,道路寸断箇所の上方の傾斜量を集計すると,ハザード情報がない箇所であっても傾斜30度以上の斜面が多く存在する.ハザード情報だけでなく,地形条件の情報も加味した孤立集落の発生可能性評価が必要と考えられる.

文献:内閣府(2005)中山間地等の集落散在地域における孤立集落発生の可能性に関する状況調査.吉田ほか(2007)農業農村工学会誌 75.奥村・五艘(2014)土木学会論文集F4 70.荒木ほか(2016)E-journal GEO 11.荒木(2022)E-journal GEO 17.

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