日本地理学会発表要旨集
2026年日本地理学会春季学術大会
セッションID: 517
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2000年代以降の東京大都市圏郊外における私鉄資本による都市開発の戦略性
―海老名駅周辺地区を事例として―
*高杉 航大
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抄録

Ⅰ. はじめに

 都市地理学では,大都市圏郊外の形成と変容に関する研究が蓄積されてきた.その中で,都市開発の主体として,私鉄資本に注目した研究が進められてきた(小原2006a).既存研究では,主に高度経済成長期やバブル崩壊前後の私鉄資本による郊外の都市開発の戦略性が注目されてきた(小原2006b).一方で,バブル崩壊後の郊外の動向については居住者属性に関する研究が多く,都市開発の主体の開発戦略を扱った研究が不足している.

 本研究では,2000年代以降に私鉄資本による都市開発が進展してきた神奈川県海老名市海老名駅周辺地区(めぐみ町・扇町)を対象として,私鉄資本による都市開発事業の戦略性を明らかにすることを目的とする.

Ⅱ. 研究方法

 本研究では,私鉄資本による不動産事業の展開と土地所有の変化について分析する.研究手法として,有価証券報告書,各社社史,聞き取り調査,土地台帳などを用いた.

 また,エリアマネジメント組織と地権者への聞き取り調査の結果から,所有主体の交代や所有形態の変容を分析する.聞き取り調査は2025年9月〜2025年12月に実施した.

Ⅲ. 私鉄資本による海老名駅周辺地区開発の展開

 海老名駅周辺では,2000年代以降,小田急グループが中心となって都市開発が進められてきた.2000年代以降,小田急電鉄は事業が多角化したことで鉄道以外の兼業でも安定した収益を上げている.しかし,新型コロナウイルス感染症が蔓延した2020年では運輸業が赤字となり,兼業が会社を支えていた.特に近年は不動産業に特化しており,2019年にめぐみ町に高層マンションを建設し,2022年にViNA GARDENS OFFICEやViNA GARDENS PERCHなどオフィスや商業施設が開業している.

 めぐみ町・扇町の土地所有の変化を分析すると,めぐみ町では,主に小田急が鉄道用地を,海老名市が公共施設としての使用目的で土地を交換させている.また,一部の土地では,小田急が新規で土地を取得し,その土地を国へ寄付して,海老名市へ譲与するという流れがあることがわかった.扇町では,土地区画整理が行われた2016年あたりに法人が売買している土地があることや地権者による相続や贈与が多いのが特徴的であった.

 高度経済成長期にめぐみ町で売買移転が多く,2000年以降は法人間売買が増加している.個人の所有区画が減少し,法人が増加してきたことにより,土地所有構造が個人中心から法人中心へと変化してきたといえる.また,土地所有については,めぐみ町は小田急が,扇町は地元地権者が大半を占めていることがわかった.扇町ではエリアマネジメントが組織されており,地元地権者,小田急グループ,相模鉄道などが協力関係を築いている.

 1990年代以前の私鉄資本による都市開発の戦略性を分析した小原(2006a)では,阪急電鉄や阪急不動産による将来的な開発を見越した土地取得が行われており,海老名駅周辺でも小田急グループによる類似の傾向がみられた.しかし,2000年代以降の海老名駅周辺では,私鉄資本だけではなく地元の地権者も積極的に都市開発に参画している.このように,2000年代以降の大都市圏郊外では,ステークホルダー間の分担による都市開発が進展している.

 当日の発表では,以上の結果をもとに2000年代以降の東京大都市圏郊外における私鉄資本による都市開発の戦略性を考察する.

引用文献

⼩原丈明 2006a. 土地所有からみた大阪駅周辺地区の形成と変化.人文地理 58(5): 504-520.

⼩原丈明 2006b. 私鉄系デベロッパーによる不動産事業の展開―阪急電鉄グループの事例―.経済地理学年報 52: 174-192.

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