アジア経済
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書評
書評:Phillip Y. Lipscy, Renegotiating the World Order: Institutional Change in International Relations
Cambridge: Cambridge University Press, 2017, xv + 325pp.
浜中 慎太郎
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2019 年 60 巻 2 号 p. 106-110

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Phillip Y. LipscyによるRenegotiating the World Orderは,変動する国際秩序に対する理解を深めるために有益な専門書である。本書の着想は,国際機関の変化はそれを取り巻く環境,とくに外部オプションの存否に影響を受けるのではないかというものである。外部オプションとは,当該国際機関と同じような目標を達成するために創設された,代替的な機関・手段のことであり,一国が設立する機関も含む。その着想から導かれた新理論(novel theory)に基づく著者の主張を一言でまとめるなら,競争的環境にない国際機関は変化せず硬直化するというものである。そして,彼はその主張の妥当性を実際のデータを用いて検証した。

本書は,国際機関はなぜ創設され,再交渉され,場合によっては衰退するのかという理論的問題へのヒントを与えてくれる。そして,どのようにすれば国際機関は活性化できるのか,既存の国際機関は台頭する中国をどのように扱えばよいのか等,政策的課題を検討する際にも役立つ視点を本書は提供してくれる。

 本書の構成と内容

イントロダクション(第1章)の後,第2章で著者は,経済学の産業組織論をベースとした「制度変化の理論」(Theory of Institutional Change)という新理論を提示する。これが本書の核となる。その理論とは,外部オプションが多数存在する政策分野(Policy Area)における国際機関は基本的には柔軟に変化するが,変革に失敗すると最悪の場合は廃止の危機にさらされるというものである。これを逆にいうと,外部オプションが存在しない政策分野における国際機関のみ,変化に抵抗し硬直的であり続けることが可能ということになる。つまり,国際機関のメンバー国が当該機関に対して変化を迫る際の交渉力は,外部オプションの数に依存するという考え方である。

この理論の観点から,第3章および第4章では政策分野間比較を行う。外部オプションのある分野とない分野では,後者の政策分野に属する機関の変化の方が遅いはずだという仮説を立て,世界銀行(世銀)が属する開発援助分野と国際通貨基金(IMF)が属する国際収支分野を比較する。まず第3章は,(1)開発援助分野の方が国際収支分野よりも外部オプションが多い政策分野であり,(2)世銀の方がIMFよりも迅速に変化したと論じる。しかし,この2点がそれぞれ事実であっても,必ずしも(1)から(2)への因果関係を証明していることにはならない。このため著者は,外部オプション以外の変数で世銀の変化の速さを説明するものが存在するかについても検討し,その可能性を否定したうえで,やはり世銀の変化の速さを説明するのは外部オプションによるものだとする。

続く第4章は,IMFおよび世銀における日本の投票権の変化に注目し,新理論の妥当性を同様の観点から検証する。そこでは,(1)日本の投票権やプレゼンスの増大は世銀においてより迅速であること,(2)IMFよりも世銀において,日本は外部オプションをちらつかせながら影響力の増大を図るという政策を積極的に行ってきたことが示される。

第5章では,開発援助および貿易という同一政策分野におけるさまざまな国際機関のパフォーマンスを比較することで新理論を検証する。仮に新理論が正しいならば,同一政策分野で活動する機関のうち,硬直的なものは衰退し,柔軟な機関の勢力が増大するはずだという仮説である。なぜなら硬直的な機関では,資金貢献が意思決定に反映されないので,メンバー国が資金貢献(の増加)を控えるからである。著者はまず,一国一票制の硬直的な機関に比して,資金貢献に応じて投票権が決定されるような柔軟な機関の「数」が増加したことを示す。さらに,硬直的な機関に比して,柔軟な機関の「支払い額」(disbursement)が増加したことを示し,仮説は支持されたとする。また,21の自由貿易協定(FTA)を比較し,そのうち3つのFTA(注1)が活動を停止したことをつきとめる。そしてそれらのFTAの意思決定は一国一票あるいはコンセンサス制であったため柔軟でなかったことを示し,仮説は支持されたとする(pp.141,142)。

第6章では,特定政策分野における外部オプションの変遷とその政策分野に存在する国際機関の柔軟性の変遷を比較する。外部オプションが増加すればその分野に存在する国際機関は柔軟性を増して変化するはずだという仮説を立て,国際電気通信衛星機構(INTELSAT)が分析される。INTELSATは設立当初,競合する国際機関や民間組織が不在であった。つまり外部オプションがなく,衛星打ち上げで圧倒的な立場を有する米国が半分以上の投票権を有する硬直的な機関であった。その後,通信衛星にかかわる地域機構の創設が相次ぎ,各国にとって外部オプションが増え,同時にINTELSATにおける米国の投票権のシェアが落ちた。本章ではこれら両方が観察されたことから,外部オプションの増加が組織に変化を迫り,それは実現したという因果関係を想定している。INTELSATは政治的な理由から,一国一票の総会をその後創設したが,民間機関の活用という外部オプションをちらつかせた先進国の意向で,組織は民営化という形で終焉を迎えた。こうした変遷は,柔軟性を欠く機関は衰退するという理論的予測に合致していると著者は主張する。

第7章は,極めて短いものであるが,ドメイン名やIPアドレスといったインターネットにかかわる分野において活動する民間非営利団体であるInternet Corporation for Assigned Names and Numbers(ICANN)を扱う。著者は1998年に設立されたICANNにおいて米国が圧倒的な立場を維持し続けているのは,他のメンバー国が外部オプションを持ち合わせておらず,脱退の脅しの真実味がないからだと論じる。

第8章は,国際連盟と国際連合を比較し,国際連盟崩壊の要因を探る。ここでの主張は,国際連盟が崩壊に至ったのは,その硬直性と外部オプションの多さが理由である,というものだ。国際連盟は少数国からの多大な資金貢献に依存していたものの一国一票を採用し,極めて硬直的な組織であったと著者は考える。同時に,安全保障の安定化装置としては,伝統的に同盟構築等多くの外部オプションが存在してきたとする。国際連合は国際連盟の失敗を教訓とし,相対的に柔軟な組織となった。さらに,たとえば脱退条項をなくすことによって,外部オプションとの競合にさらされないように制度設計された。国際連盟を脱退した国が安定化装置として同盟を選択したことにかんがみて,やはり外部オプションとの競争にさらされ劣勢となってしまったことが国際連盟崩壊の一因であったのではないかとの結論を導く。

第9章はやや異なる視点から,新理論が誤っている可能性がないか検討する。いわゆる「偽薬テスト」の手法であり,仮説どおりの結果が得られてはならない特殊なケースの分析を行う。効かないはずの偽薬の投与によって,新薬同様の望ましい結果がもたらされると,そのような結果は新薬(新理論)が想定したメカニズムでなく,何か他の要素(欠落変数,omitted variables)によってもたらされている可能性がある。したがって,偽薬の投与により新薬の投与によって期待される効果が観察されてはならない

本章が注目するのは,国際機関が台湾に代わって中国を受け入れるという変化の速さである。1970年代以降,中国は国際機関において台湾にとって代わろうとしたが,これは中国にとって外部オプションをちらつかせた交渉のできない特殊ケースといえる。なぜならばこの交渉において中国は,「自分たちのいうことを聞いてもらえないなら参加しないぞ」という脅しを使えないからである。したがって,外部オプションが多数存在する分野において,国際機関が迅速に中国を受け入れるということは観察されてはならない。著者は,台湾がメンバーシップを維持した国際機関(迅速に変化しなかった国際機関)を7つ見つけ出し,そのうち少なくとも3つ(注2)が外部オプションの存在する分野における機関であるとした。このことは,偽薬実験において新薬同様の効果がもたらされることはなかったことを意味している。

 論評

本書全体を貫くリサーチ・デザインは非常によく考え抜かれている。仮に理論が正しければ何が観察されるべきかという観点から,理論の予測を現実のデータと照らし合わせるという意味で極めてシンプルなアプローチをとる。そして,本書が方法論を吟味し,さまざまな比較によって新理論の妥当性を検証している点は積極的に評価されるべきであり,このことが本書の一貫性と議論の説得性を高めている。どういった研究目的のために何と何を比較するのかが,それぞれの章で極めて明快に説明されていることが本書の特徴だ。具体的には,異なる政策分野間の比較,特定政策分野における国際機関間の比較,特定の国際機関の時系列比較によって,異なる角度から理論の妥当性の検証に取り組んでいる。

しかしながら,著者の野心的な研究の試みには極めて困難な作業がともなったように見受けられる。具体的には,著者自身が困難だと認めている「政策分野」の定義に関する作業である(p.33)。この政策分野の定義が決定的に重要である理由は,それが「外部オプション」や政策分野の「競合度合い」(Propensity for Competition, p.33)など本書の説明変数と密接にかかわるからである。

ここで話の本質をわかりやすくするため,あえてスポーツを題材としてこの問題を考えてみよう。たとえば,サッカーと野球の関係を考えたとき,仮に国際野球連盟の変化が遅ければその独占的立場に理由を求め,変化が速ければサッカーとの競争に理由を求めるような作業は避けなければならない。こうしたご都合主義をとれば,国際野球連盟が変化してもしなくても,理論が正しいことの理由に使われてしまう。そのような非科学的な後知恵の説明を回避するには,国際サッカー連盟と国際野球連盟は競合しているのかどうかという説明変数の把握を極めて客観的に行う必要がある。つまり,考察対象分野がスポーツなのか,球技なのか,大きいボールを使った球技なのか,サッカーなのかは決定的に重要な問題である。政策分野の定義が十二分に明確でないと,「外部オプションのある政策分野では国際機関にディシプリンが効く」という基本的主張がそもそも反証可能性のある命題でなくなってしまう。

評者には,問題の本質は「政策分野」の定義ではなく,機関の競合をどのように評価するかということであるように見受けられる。具体的に評者の問題意識を述べると,開発援助という政策分野が先にあって世銀とアジア開発銀行(ADB)がそこで競合しているのではなく,両機関の競合という実態が先に存在するのではないか。言い換えるならば,世銀やADBにディシプリンが効く根源的な理由は,両機関が同一の政策分野に属するということではなく,両者が競合しているという事実によるのではないか。機関間の競合度合いを計測することは政策分野を定義することと同様に困難であるが,グローバル機関とそれを模して創設された地域機関のあいだに競合状態が存在することに異論の余地はなかろう。実際,表1が示すように,多くのグローバル国際機関に対応して,地域版国際機関がアジアに設立されてきた。したがって,仮に評者であれば,よくわからない開発援助という政策分野を持ち出し,恣意的にそこに属する機関を列挙して競合度合いが高い分野であると言い切ることはしない。定義が困難な「政策分野」という概念の導入を避けつつ,競合の実態をとらえることに注目した仮説,「グローバル機関の変化のスピードは,その競合相手である地域版の存在に左右される」を検証する。

表1  グローバル機関のアジア版

(出所)筆者作成。

評者が一読して最も説得的だと感じたのは,定量化を行わずにケース分析のみを行った第8章(国際連盟崩壊の要因の分析)である。国際連盟と国際連合の比較においては政策分野の違いを考慮する必要がないと感じる人が多いであろう(注3)。同盟という外部オプションが国際連盟の崩壊につながった点も事実であるし,その反省から,各国が脱退して同盟に走るという外部オプションを国際連合が極小化していることも事実である。著者は2ケースのみによる定性比較分析の弱点を認識し,戦前・戦後の国際規範の違い等,十分に検証できなかった要素についても追加的に考察した。その結果,仮に国際連盟がいま存在すれば,もう少し機能した可能性が高いと,バランスのとれた議論をしている。

一方,いくつかの章については,方法論に議論の余地があるように見受けられる。3点挙げたい。第1に,世銀とIMFの比較は,新理論を定量的に検証しているわけではない。開発援助分野において外部オプションが多く,世銀がより変化が迅速だとしても,両者間に因果関係があるとは言い切れない。著者が定量的に行っているのは世銀の変化がIMFに比して迅速であること(被説明変数)の計測であり,外部オプションの多さ(説明変数)については定性的に判断している(p.72)。定量分析にこだわるのであれば,外部オプションについても定量的に計測し,外部オプションから組織変化への因果関係を定量的に抽出できれば,より説得的であった。

第2に,第5章では投票権シェアを採用する機関と一国一票を採用する機関を比較しているが,前者グループに属する機関(たとえばADB)の支払額の増加が後者グループに属する機関(たとえば国連アジア太平洋委員会: ESCAP)のそれよりも急速であることから,柔軟な機関の勢力が増したとしているが,これは,さらなる吟味が必要であろう。数年に一度の増資を繰り返したADB支払額がESCAPのそれよりも多かったことは事実である。しかし,それは外部オプションの存在ゆえに柔軟性を有するADBに資金が集中したというよりは,単に国際金融機関が増資を繰り返すという性質を有しているからにすぎないからである。

また,同じく第5章の計21のFTA比較については,活動を停止した3つのFTAの投票形態が硬直的であったということから,硬直的機関は衰退するという理論が支持されたとする点にも疑問が残る。計21のFTAサンプルのうちEuropean Community TreatyとEurasian Economic Community(EAEC)以外の19のFTAの意思決定は硬直的である点に留意が必要である(p.141)。つまり,そもそものサンプルのうち90パーセント以上は非柔軟的なので,衰退した3つのFTAのすべてが硬直的だからといって仮説が支持されたとはいえない。

 本書から得られる研究課題

Lipscyの新理論からは,本書以上に面白い予想を導き出すことが可能である。ただしこれらは本書が不十分であるというよりも,本書が将来の研究課題を提示してくれたという方がよりフェアだろう。重要な研究課題を2点挙げたい。

第1に,ADBの役割である。世銀の競合相手はアジアであればADBである。そう考えてよければ,1966年のADBの創設後に(あるいはADBの巨大化にともない)ADB加盟国の外部オプションは劇的に変化したはずである。なぜならメンバーは「世銀投票権が改革されなければ,世銀から資金を撤退しADBに資金を移す」と脅せるからである。実際,米国,世銀はADBを競合相手とみなし,その創設に好意的ではなかった[Hamanaka 2016]。

仮に著者の理論が正しければ,ADB設立を境にADB加盟国の世銀における投票権シェアが増加したはずである。これが最も素直な新理論の検証方法であると評者は考える。著者はIMFの活動する政策分野がより明確になり世銀との分業が確立されたのが1970年代以降であるとの理由から,当該期間のみを考察対象としているが(p.67),やはり世銀の最大のライバルであるADBの登場が世銀の変化に及ぼした影響を評価せずに,新理論の妥当性を議論することはできないのではないか。ADBとの競争にさらされた結果,世銀にどのような変化がもたらされたのかについては今後に残された重要な研究課題となろう。

第2に,世銀の比較対象としてIMFが最適なのかという問題である。世銀とIMF投票権の差異は些細なものであるし,本書の図からも(p.95),日本の世銀投票権はIMF投票権よりも若干高いものの,ほぼ同一の動きをしている。現時点の両機関の投票権上位10カ国もほぼ同じである(表2)。より面白いと評者が考えるのは,世銀と国際金融公社(IFC)の比較である。両者は世銀グループ機関であるにもかかわらず,投票権はまったく異なる。中国のIFCでの投票権はIMF,世銀と比較して明らかに低い。

表2  IMF,世銀,IFCの投票権上位10カ国

(出所)IMF,世銀,IFCのHPより筆者作成。かっこ内の数値は投票権シェア(%)。

この状況を著者の理論で説明しようとするなら,「IFCには競合相手が少ないため硬直的な組織運営が可能で,中国の投票権引き上げの挑戦が失敗している」ということになりそうであるが,はたしてそうであろうか。IFCの方がより多くの外部オプションと競合しているように見受けられる。中国はIMF・世銀の投票権増加には熱心でも,IFCではそれほどでないように評者には映る。これは国際機関への貢献・投票権が外部オプションのメカニズムよりももっと生臭い国際政治の影響を受けているからである。したがって,世銀とIFCの比較も今後の重要な研究課題となろう。

世銀副総裁を務めた経済学者のスティグリッツは,IMFはいつも途上国に自由競争を唱えるものの,その原則を自らには当てはめず,競合機関(日本提唱のアジア通貨基金のこと)の設立に反対し,硬直的な機関でありつづけていると批判した[Stiglitz 2002]。著者は産業組織論を応用した新理論というが,議論自体はスティグリッツを含む多くの政策経験者(とくにアジアの財務当局者)がうすうす感じていることである。しかしながら,多くの人がうすうす感じていることを実証的に示すことは容易な作業ではない。だからこそ本書は重要な研究書であるといえるのである。国際機関には規律が欠けているのではないかと感じる学者,政策経験者には,本書を一読し,本書がそのような直感の検証に成功しているのか,思いをめぐらせることを薦めたい。

また,本書はもともとハーバード大学の博士論文として執筆されたものであるので,アメリカにおける博士論文について関心を有する日本の大学生・大学院生にも一読を薦めたい。

(注1)  African Common Market, Arab Common Market, Gulf Cooperation Councilの3つ。

(注2)  ADB, Afro-Asian Rural Development Organization, International Cotton Advisoryの3つ。

(注3)  しかしながらLipscyは,両者は異なる政策分野に存在するとする。国際連盟は安全保障確保(security guarantees)分野,国際連合(安全保障理事会)は共同正当化(collective legitimization)分野の機関とする。p.33参照。

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© 2019 日本貿易振興機構アジア経済研究所
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