アジア経済
Online ISSN : 2434-0537
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論文
中国共産党員資格と賃金プレミアム――メタ分析――
馬 欣欣岩﨑 一郎
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2019 年 60 巻 3 号 p. 2-38

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《要約》

共産党一党独裁制を維持する中国では,共産党員資格が,その保持者に賃金プレミアムをもたらすと論じられている。しかし,党員資格の賃金効果は,経済理論的に決して明確ではなく,その上,実証研究の成果も,肯定説と否定説が混在している。本稿は,先行研究のエビデンスの統合を介して,党員資格が賃金水準に及ぼす真の効果の特定を試みる。既存研究30点から抽出した332推定結果のメタ統合は,低位の水準ながらも,正の党員資格賃金効果の存在を示した。この結果は,公表バイアス及び真の効果の有無に関する検証結果によっても支持された。さらに文献間異質性のメタ回帰分析は,調査対象企業の所有形態,サーベイデータの種別,賃金変数の補足範囲や定義,推定期間及び推定量や制御変数の選択が,既存研究の実証成果に体系的な差異を生み出している可能性を強く示唆した。

Abstract

Because China maintains its system of one-party control by the Chinese Communist Party, it is argued that the Communist Party (CP) membership may result in a wage premium to party members. However, the impact of CP membership is not clear based on economic theories and hypotheses, and the evidence from empirical studies is also mixed, as it shows both positive and negative results. In this paper, we aim to perform a meta-analysis to examine the impact of CP membership on wage levels and investigate empirical evidence using 332 estimates extracted from 30 extant studies. The results of the meta-synthesis suggest that even though the effect size of CP membership is small, it is clear that CP membership positively affects wage levels. Testing for publication selection bias indicates that the collected estimates contain genuine empirical evidence. Moreover, the meta-regression analysis of literature heterogeneity shows that empirical evidence reported in previous studies is strongly and systematically determined by a series of study conditions such as the type of target ownership , the nature of the survey data, the wage percentiles used, the type of wage variables included, the estimation periods, and the utilization of various control variables.

 はじめに

Ⅰ 中国における共産党員資格

Ⅱ 文献調査及びメタ分析の方法と手順

Ⅲ メタ分析対象文献の概要

Ⅳ メタ統合

Ⅴ メタ回帰分析

Ⅵ 公表バイアスの検証

 おわりに

補論A 研究水準の評価方法について

補論B メタ分析方法の詳細について

はじめに

中国は,経済体制の市場経済化を大幅に推し進めながらも,政治体制面では,事実上の共産党一党独裁制を強固に維持している。周知の通り,中東欧・旧ソ連圏の旧社会主義諸国は,経済と政治の両面で,比較的短い期間に抜本的な体制転換を実行し,この結果,社会主義時代を牛耳っていた共産党組織の国内企業への影響力は,もはや問題にならないほど大幅に縮小した。一方,漸進主義的改革路線を歩む中国では,鄧小平時代から数えて40年余りが経過した今日でも,共産党は,企業内党組織(いわゆる「基層党組織」)を媒介して,非国有部門を含む国内企業の経営活動に強い発言力を奮っている。中東欧・旧ソ連諸国との対比における中国のこのような特異性は,同国の経済研究においてもたいへんユニークな分析視点を生み出している。それは,労働経済学の分野も決して例外ではない。本稿は,中国共産党組織への所属が,非党員との比較において,党員資格保持者の労働賃金にもたらすプレミアム効果を,先行研究の実証成果を駆使したメタ分析を介して実証的に検証することにより,かかる中国ならではの経済問題に真正面から取り組む。なお,中国経済にかかわる問題の解明を課題としたメタ分析として,Tian and Yu[2012]Tingvall and Ljungwall[2012]Wang et al.[2013]Ljungwall and Tingvall[2013; 2015],Churchill and Mishra[2018]等が発表されているが,党員資格と賃金水準との関係を検証した研究は皆無である(注1)。さらに,管見の限り,本研究は,本邦では初の中国経済に関するメタ分析の試みである。そこで,筆者らは,紙幅が許す限り,メタ分析の方法論を詳らかに解説するとともに,国際的にも広く通用しているメタ分析の実践例を提示するよう心がけることとする。

以上に加えて,本稿は,次のような研究意義も有している。党員資格の賃金効果は,中国における極めて特異な経済現象であり,従って,欧米を中心とした先進諸国の賃金水準決定要因に関する経済理論及び実証分析では,決して取り上げられることはなかった。新古典派経済学によれば,賃金水準は,労働市場の需給バランスや労働者の限界生産力に代表される市場メカニズムによって決定付けられる。この考え方に立脚して,Becker[1964]Mincer[1974]は「人的資本理論」を提唱したが,いまや学校教育や職場訓練等によって形成される人的資本が,賃金水準の重大な決定要因であることは,多くの先行研究によって繰り返し実証されている。このことは,中国に即してもまた然りである(注2)。他方,Piore[1970]の「内部労働市場理論」では,賃金水準は,企業内部の制度・組織とも密接に関連することが強調されており,また「効率賃金仮説」では,企業従業員の離職防止や労働インセンティブという観点からの賃金の役割に大きな注意が向けられている[Stiglitz 1974; 1985; Salop 1979; Shapiro and Stiglitz 1984; Solow 1989]。さらに,制度派経済学者の間では,利益集団が形成する「暗黙な規則」が,賃金水準に関する意思決定プロセスに対して,多大な影響を及ぼしていることを示唆する諸事実をめぐって,特別な問題関心が醸成されている(注3)

しかしながら,現代中国における労働賃金の決定メカニズムは,上述した一連の経済理論では捉えきれない側面を内包している。時代を遡ると,社会主義計画経済期(1949~1977年)の中国では,農工業の「社会主義改造」を経て,計画経済に適合的なミクロ経営メカニズムを確立することが,集権的社会主義の柱の1つと見なされた[加藤・梶谷 2018]。この目標に向けて,中国では,1956年までに民営企業や外資系企業が消滅し,企業の所有制形態は公有制に統一された。さらに,中国政府は,賃金制度にも抜本的な変更をもたらした。事実,毛沢東政権は,1951年と1956年の2度にわたって賃金制度改革を行い,国有部門に職務等級賃金制度を導入した。この結果,国有部門における賃金水準,昇給の時期や幅,昇給者数等は,全て政府によって決定されることとなったのである[Meng 2000; 山本 2000; 丸川 2002; 馬 2011; Ma 2018b]。この時期,共産党員は,国家(政府)の代表者として,あらゆる国内企業の経営を実効的に支配していたから,その賃金決定プロセスへの影響力も著しいものがあったのは,殊更強調するまでもないだろう。

1978年以降,鄧小平政権下で体制移行プロセスが展開するに伴い,中国政府は,国有企業改革の一環として,統一管理賃金制度の規制緩和に着手し,その効果として,賃金決定メカニズムにおける市場原理の役割が暫時強化された[馬 2014; Ma 2018b]。ただし,林・蔡・李[1996]中兼[1999]が正しく指摘しているように,中国では,市場経済化も,企業制度改革も,極めて不徹底な状態にあるため,政府は,独占的公共部門やその他国有部門を中心に,国内企業の経営活動に依然として深く関与しており,この結果,極めて強力な政治利益集団である共産党組織も,民営企業や外資系企業をも含む中国企業の賃金決定プロセスに対して,一定の影響力を保持している。後に紹介する通り,近年発表された多数の中国賃金研究が,党員資格の賃金プレミアム効果に注意を払っているのは,労働市場への共産党の影響がいかほどなのかを実証的に検証する必要があるとの研究者の問題意識を反映しているからに他ならない。この問題の解明は,中国経済論のみならず,労働経済学や移行経済論に対しても,一定の学術的寄与をもたらすことは,疑問の余地がない。

にもかかわらず,現在のところ,移行期中国における党員資格の賃金効果に関して,経済理論と実証研究のいずれも,一定の結論に達しているとは言い難い状況にある。経済理論面の問題は,次の通りである。後述の通り,党員資格獲得に向けた個人の努力は,当該人物の組織力,集団統制力,仕事意欲,並びに,社会性等の非認知能力を高める効果を持つと考えられる(人的資本効果仮説)。その上,公式の党員資格は,第三者による党員と非党員の識別を極めて容易化する(シグナリング効果仮説)。さらに,非党員と比べて,党員は,党組織力や他の党員との人脈を活用して,より多くの経済的便益を誘引できるとも考えられている。すなわち,中国における党員資格は,一種の政治的・社会的資本効果をも孕んでいるのである(政治・社会資本効果仮説)。これらの諸仮説に立脚すると,党員資格は,賃金水準に対して,正の効果を及ぼすとの予想が成り立つ[Bian 19941997; McLaughlin 2017]。その一方,市場経済化の深化や政治・経済の分離に伴い,マルクス主義へのイデオロギー的偏向や共産党への過度な組織的忠誠心に代表される党員に特異な諸能力は,企業経営にとってはむしろ有害な要因となり得る(市場化仮説)。また,党組織及び党員の腐敗や不正が暴露され,それらに対する社会的な批判や集団心理的反感が高まると,党員資格の保持は,むしろ否定的なシグナリング効果を発揮する可能性も否定はできない(風評仮説)。

最後に取り上げた風評仮説については,若干の背景説明が必要であろう。中国では,漸進主義的経済改革の進展に伴って,資源配分に排他的な権限(あるいは特権)を持つ党員の腐敗・不正行為が一気に顕在化した。この問題は,同国の経済発展に対して否定的に作用するばかりではなく,そこから生まれる国民の不満や不信感が,共産党組織の国家統治にも大きな悪影響をもたらし得る。習近平政権が発足した2012年以降,党員の腐敗・不正による負の風評を撲滅すべく,中国全土で腐敗撲滅キャンペーン(注4)が展開されているのは,そのような危惧に対する党指導部の強い懸念の現れである。以後5年間にわたる党員への厳しい取り締まりの結果,贈収賄や権限濫用を含む規律違反を理由に,全共産党員の約2パーセントに当たるおよそ153万7000人が何らかの処分を受け,その内の約5万8000人が司法機関へ送致されたという経緯(注5)や,2017年1月,共産党中央規律検査委員会が,その総会において,汚職摘発に当たる規律検査機関それ自身の腐敗を防ぐための監督規則を採択した上,反腐敗闘争の制度化に向けた「国家監察法」の制定や「国家監察委員会」の設立準備を,自らの任務に課した事実は,習近平政権及び党上層部の本気度を如実に表している。

以上の経緯は,多くの中国研究者をして,国民経済活動における風評被害の実質的な効果の検証へと駆り立てており,この観点から,すでに多くの注目すべき研究成果が生まれている。例えば,腐敗の経済効果に関して,谷・曲・王[2016]は,2007~2013年の省レベルデータを用いた実証分析の結果に基づいて,腐敗行為は,公共総支出,公的教育支出及びコミュニティー関連事業に,負の影響を与えるとの結論を導いている。Liu, Luo and Tian[2016]は,腐敗幹部が逮捕された後,この事件に関与していた企業は,M&A市場で競争力を喪失したと報告している。また,Liu, Shu and Wei[2017]は,いわゆる「薄熙来事件」(注6)は,国内企業の顕著な株価下落をもたらしたが,とりわけ,この風評被害は,「政治的に過敏」な企業ほど大きいと指摘している。さらに,Kim, Li and Tarzia[2018]は,近年暴かれた一連の腐敗問題により,上場企業は,総じて 300億米ドル相当の企業価値を失ったと試算し,同様に Fu[2018]も,社員が腐敗に関連して刑事訴追されると,当該容疑者が所属する企業の株価が大きく棄損することを実証している。一方,腐敗撲滅キャンペーンの効果に注目した楊・蔡[2016]は,同政策の推進は,地域住民1人当たりの公共投資に対して,有意に正に影響することを見出している。また,鐘・陸・袁[2016]Xu and Yano[2017]も,腐敗撲滅対策は,企業業績の向上や研究開発投資の増加につながる効果を発揮するとの実証結果を示している。

これら一連の先行研究が示唆する通り,党員の腐敗・不正行為の露呈によって引き起こされた風評は,中国の実体経済や企業経営に対して,実質的にも大きな悪影響をもたらしており,党員個人のレベルでも,同様の効果が生じる可能性は,決して否定できない。すなわち,他の条件を一定とすれば,党員資格は,賃金水準と負に相関し得るのである。従って,党員資格がもたらす賃金水準への効果について,経済理論上,断定的な判断はなし得ないと言えよう。

経済理論的な議論に優るとも劣らないほど,実証研究にも,肯定説と否定説が入り混じっている,実際,党員資格の賃金効果に注目した草分け的研究であるGustafsson and Li[2000]から,最新研究の1つであるMcLaughlin[2017]に至るまで,党員資格に正の賃金効果を見出した一連の研究が存在する一方で,Li[2003]Wang, Milner and Scheffel[2018]等,党員資格に統計的に有意な効果を認めない研究も少なくない。その上,上述の市場化仮説や風評仮説を裏打ちするかのように,党員資格と賃金水準は負の相関関係にあると報告するXing[2014]Ma[2018a]のような研究も少なからず発表されている。後に詳しく報告するが,先行研究が報告する実証結果の約1割が,党員資格の賃金効果は負であると評価しており,否定説は,メタ分析的にも決して取るに足らない見解ではないのである。この観点から,分析手法によっては,党員資格の賃金効果は,過大に評価される恐れがあると論じるLi et al.[2007]McLaughlin[2017]の主張は注目に値する。なぜなら,研究方法それ自体が,実証結果に及ぼす影響を吟味する必要が,ここに指摘されているからである。

メタ分析は,既存研究の中に正真正銘の実証的証拠(genuine empirical evidence)が存在するならば,いわゆる「公表バイアス」(publication selection bias)が,惹起しているとしても,エビデンスの統合・解析を通じて,党員資格がその保持者にもたらす賃金プレミアムの真の値(即ち,「効果サイズ」)を特定することが可能である(注7)。本稿は,先行研究 30点から抽出した全 332推定結果のメタ統合及び公表バイアスの検証を介して,かかる研究目標が,現時点において達成可能であるのか,また可能であるとすれば,現代中国における党員資格賃金効果の真の値とはいかなるものであるのかを特定する。さらに,本稿では,Li et al.[2007]McLaughlin[2017]の問題提起に対応して,どのような研究条件が,実証結果に強く影響するのかを,文献間異質性のメタ回帰分析によって仔細に検証する。

本稿の構成は,以下の通りである。次節では,中国における共産党員資格の背景要因を考察する。続く第Ⅱ節では,文献調査とメタ分析の方法と手順を解説し,第Ⅲ節で,メタ分析対象文献の概要を説明する。第Ⅳ節では,抽出推定結果のメタ統合を,次の第Ⅴ節では,文献間異質性のメタ回帰分析をそれぞれ行い,第Ⅵ節で,公表バイアスの検証を試みる。そして,最終節で,分析結果の要約と筆者らの結論を述べる。

Ⅰ 中国における共産党員資格

中国では,なぜ共産党員資格が,学術的経済研究の対象となるほど,賃金水準に影響を及ぼし得ると考えられるのか。本節では,その制度的・実態的背景要因を把握するために,(1)同国における共産党組織の現状,(2)党員資格の条件と選抜プロセス,並びに,(3)企業内党組織のあり方,を順次検討する。

1. 中国共産党組織の現状

1949年以降,中国において,共産党は,唯一の指導的・支配的政党である(注8)。中国憲法は,「中国は共産党が指導する」と規定しており,「中国」という国家組織の指導者として共産党が存在しているといえる。同党の内部には,ピラミッド型の6階建て組織構造が構築されている。それは,地位の高い順から,(1)最高指導者である党総書記,(2)7名の政治局中央委員,(3)25名の政治局委員,(4)中央委員・候補者,(5)約2000名の党大会代表,(6)およそ9000万人の党員及び基層党組織で形成されている。なお,「中国共産党規約」(中国語で「中国共産党章程」,以下「党規約」と略称)(注9)は,その第29条で,基層党組織に関して,「企業,農村,政府機関,学校,研究所,社区,社会組織,人民解放軍連隊その他の基層単位で,党員が3人以上である場合には,いずれも基層党組織を設立しなければならない。基層党組織は,業務の必要及び党員の人数に応じて,上部レベルの党組織の承認を得て,党の基層委員会,総支部委員会,支部委員会をそれぞれ設立する」と明記している。さらに,党規約第31条によれば,この基層党組織こそが,企業を含む社会の末端組織において「共産党の全ての業務及び闘争力」を実現するためのいわば「党細胞」として機能している。

中国新華社通信(正式名称「新華通訊社」)(注10)によると,2016年末の時点で,党員は8944万7000人,基層党組織は451.8万個を数える。言い換えれば,中国国民100人中約7人が,共産党員資格を保持していることになる。2013年以降,共産党は,入党者数に制限を設けたため,新たに党に加わる市民の数は,2013年以前より少なくはなっているが,それでも,2013~2016年の平均年間党員増加率は,1.2パーセントを記録している。これら共産党員の圧倒的大多数の受け皿である基層党組織は,あらゆる国有部門で設立されており,また非国有部門の多くにも存在している。実際,2016年時点で,非国有部門には,総計4.6万個の基層党組織が活動しており,非国有企業全体に占める基層党組織設置企業の割合も,67.9パーセントに達している。外資系企業もその例外ではなく,実にその約7割が,企業内に基層党組織を抱えている。さらに,基層党組織を持つ割合は,農村地域では91.8パーセント,都市社区でも90.7パーセントと極めて高い。このように,現在中国では,国有部門・非国有部門,農村地域・都市社区の区別を問わず,あらゆる就業部門及び生活地区において,基層党組織が一定の存在感を放っているのである。

先述の通り,国民のおよそ7パーセントのみを占める共産党員は,その個人属性に照らして,中国社会のエリート層を形成している可能性が高い。実際,新華社通信が発表した2016年データによれば,党員の45.9パーセントに相当する4103.1万人が,短大卒以上の学歴を有している。また,党員全体の14.8パーセントに当たる1314.1万人が,政府機関,企業及び民間非企業部門において,専門技術者として働いている。加えて,基層党組織の指導者である党書記は,農村では54.8万人にのぼり,この内,「該当地域の経済発展に貢献したリーダー」と評価される者の割合は,全体の47.2パーセントを占める。他方,都市社区で活動する党書記5.4万人の内,短大卒以上の学歴を持つ者の割合は,56.7パーセントである。すなわち,党員のかなりの部分が,高学歴のテクノクラートであり,農村・都市社区という地域の区別を問わず,中国社会の中で指導的な役割を果たしているのである。

2. 党員資格の条件と選抜プロセス

次に,党員資格を得るための諸条件と選抜プロセスを解説する。党規約第1章第1条には,党員になるための条件として,次の5点が列挙されている。それは,(1)中国国籍を持つ年齢が18歳以上の生産労働者(ブルーカラー),農民,ホワイトカラー及びその他の革命活動者,(2)党の綱領及び規約を承認する者,(3)基層党組織に参加し,積極的に活動を行う者,(4)党の決議を執行する者及び(5)定期的に党員会費を納付する者,である。これら5つの条件は,中国国民の大多数に当てはまるものであるから,党員資格保有者が,全国民の7パーセントに絞られる事実は,むしろ正式党員資格の獲得を最終段階とする厳しい選抜プロセスに,その理由を求めることができる。

入党の是非を問う党組織の審査は,次の11段階を経る。すなわち,(1)党に入党希望を申し入れる。(2)党組織より1年以上の特別教育を受ける。この間,「入党積極活動者」(入党積極分子)としての審査票が作成される。(3)入党願書を作成・提出する。この際,正式党員2名の推薦が求められる。(4)入党願書と審査票に基づいて,基層党組織(党支部)が人物考査を行い,同党組織会議での決議を経て,その結果が党委員会に報告される。(5)党委員会責任者が,「入党積極活動者」との面談を行う。この段階で許可が下りると,該当人物のステータスは,「入党積極活動者」から「予備党員」に格上げされる。(6)入党宣告を行う。(7)予備党員として活動する。予備党員期間は,通常1年以上である。(8)予備党員期間中,基層党組織は,該当人物を監査し,その上で,正式党員としての受け入れに関する意見書を作成し,党委員会に提出する。(9)意見書に基づいて,党委員会が審査を行う。仮に党委員会が,正式党員条件を満たさないと判断する場合,該当人物の予備党員期間が延期される。(10)審査通過者は,正式党員願書を提出する。願書は,基層党組織の承認後,党委員会に提出され,審査が行われる。(11)正式な党員条件を満たすと認められる場合,正式党員となるための諸手続きを行った上で,党員資格が付与される。一方,その条件を満たさないと判断される場合,予備党員資格は剥奪される。なお,形式上,予備党員資格剥奪者は,再チャレンジが可能であるが,事実上,そのような者達が,正式な党員資格を得る可能性は,限りなく低い。

一般社会人の場合,以上に述べた11段階の審査過程を経て,党員資格を獲得するためには,通常4年以上の長期にわたって,公私ともに,様々な努力を重ねる必要がある[胡・周 1998; 李・張 2003]。従って,脱落者も決して少なくはない。中国国民にとって,正式入党は,実に「狭き門」なのである。党員資格保有者の多くがエリート層に属している理由は,この厳しい選抜プロセスにあるといっても過言ではないだろう。

3. 企業内党組織のあり方

本節の最後に,企業内党組織のあり方を短く述べておこう。中国企業は,国有部門・非国有部門の違いにかかわらず,企業内党組織に対する義務として,党の組織的活動にとって必要な諸条件(例えば,当該活動に要する時間,活動場所及び経費等)を保障し,然るべき支援を提供することが求められている。事実,中国会社法第19条には,「共産党規定に基づいて,会社には,中国共産党組織が設立され,党の活動が行われる。会社は,党組織が活動を行うための必要な条件を提供しなければならない」と明記されているのである。さらに,「企業党組織の活動経費問題に関する中国共産党中央組織部・財政部通知」によると,企業内党組織の活動経費は,「党内会議を開催し,党内の宣伝教育活動及び組織活動を行い,党員及び入党を希望する積極活動者を養成し,有能な党員及び有能な党支部活動の奨励を行う等の費用を含む」ものであり,その財源としては,通常の党費に加えて,企業の管理費も不足を補う際のリソースと見なされている。

企業は,企業内党組織から「管理・監督・指導」を受ける。国有部門では,共産党及び企業内党組織は,計画経済時代と同様に,企業経営を事実上支配しているが,党規定第32条3項によると,非国有部門においても,企業内党組織は,「党の方針政策を貫徹し,企業が国の法律法規を遵守することを指導・監督し,労働組合及び中国共産主義青年団等の民衆組織を指導し,労働者を団結し,その権益を維持・保護し,企業の健全な発展を促進する」と規定されている。言い換えれば,中国では,経済体制の市場化が進む一方,企業経営というミクロレベルにおいて,企業内党組織による政治統制システムが,依然強固に維持されているのである。これら企業レベルの党組織活動を遂行するのは,正式党員資格を有する企業従業員に他ならず,その意味で,党員資格は,国有部門はおろか,外資系企業を含む非国有部門においても,特別の地位を顕示するシグナルとなっている。

以上,中国共産党員資格をめぐる制度的・実態的背景要因に関する本節の考察結果は,党員資格の賃金効果に関連して先述した人的資本効果や政治・社会資本効果が,シグナリング効果とも相乗して,強く発現される可能性の高さを示唆している。中国経済研究者の多くが,正の党員資格賃金効果を予想する所以である。しかし,本稿冒頭部分で述べた一連の論拠に基づいて,市場化仮説や風評仮説が予測する通り,党員資格が賃金水準と負に相関する可能性も排除はできない。この論争に一定の決着をつけるべく,次節からは,先行研究の実証結果を広範に網羅した筆者ら独自のメタ分析を試みる。

Ⅱ 文献調査及びメタ分析の方法と手順

本節では,中国における共産党員資格の賃金プレミアム効果を,メタ分析の手法で検証すべく,この目的に適した先行研究の探索・選択手続き,並びに,筆者らが採用するメタ分析の方法と手順を,順次解説する。

中国を対象とした賃金決定要因に関する実証研究は数多ある。一方,党員資格の賃金効果に分析の焦点を絞った研究は,Li et al.[2007], Appleton et al.[2009], McLaughlin[2017]に限られている。むしろ多くの場合,党員資格は,コントロール変数の1つとして用いられているのである。そこで筆者らは,まず,中国における賃金決定要因を実証的に検証した先行研究を広範に収集し,次に,これら収集文献から,本稿のメタ分析に必要な推定結果を抽出するという文献調査方針を採用した。

具体的には,電子学術文献情報データベースであるEconLitやWeb of Science及び有力学術出版社のウエブサイト(注11)を利用して,1990年から2018年上半期の期間に発表された文献を対象に,ChinawageをキーワードとするAND検索を行い,約155点の文献を電子版またはハードコピーで入手した(注12)。次に,筆者らは,これら収集文献の研究内容を逐一精査し,党員資格の賃金への影響に関する推定結果を含有している研究成果の絞り込みを行い,その結果として,合計30点の文献を選択した。これらメタ対象文献の詳細は,次節で詳しく報告する。本研究においては,これら30点の先行研究が報告する推定結果について,相互に実証方法論上の差異が認められるならば,その限りにおいて,一研究から複数の推定結果を抽出した。以下,抽出推定結果の総数を \(K\) で表す(\(k=1,\ldots,K\))。

続いて,本稿が行うメタ分析の方法と手順の概略を述べる。本研究では,メタ分析の対象として,偏相関係数(partial correlation coefficient)と \(t\) 値を用いる(注13)。偏相関係数は,他の条件を一定とした場合の従属変数と,問題となる独立変数の相関度と方向性を表す統計量であり,いま第 \(k\) 推定結果の \(t\) 値と自由度を,それぞれ \(t_k\) 及び \(df_k\) で表せば,次式   

\[{r_k}=\frac{t_k}{\sqrt{t_{k}^{2}+df_k}}\]
によって算出される。偏相関係数 \(r_k\) の標準誤差(\(SE_k\))は,\(\sqrt{(1-r_k^2)/df_k}\)である。

本稿のメタ分析は,3つの段階から成る。その第1段階は,抽出推定結果のメタ統合(meta synthesis)である。偏相関係数は,伝統的な固定効果モデル(fixed-effect model)と変量効果モデル(random-effects model)の両方で統合し,均質性検定(test of homogeneity)の結果に基づいて,いずれかの統合値を参照値として採用するとともに,これら伝統的メタ統合法よりも公表バイアスの影響がより少ない接近法として,Stanley and Doucouliagos[2017]Stanley, Doucouliagos and Ioannidis[2017]が提唱する無制限加重最小二乗平均法(unrestricted weighted least squares weighted average: UWA)及び検定力が0.8を超える推定結果を対象とした「適切な検定力を持つ推定結果の加重平均法」(weighted average of the adequately powered: WAAP)によるメタ統合も試みる。一方,\(t\) 値については,筆者らが独自に判定した研究水準の20段階評価で加重した結合 \(t\) 値 \(\overline{T_w}\) とともに,重みのない結合 \(t\) 値 \(\overline{T_u}\) を報告する。また,有意水準5パーセントを基準とするフェイルセーフ数を,これら結合 \(t\) 値の信頼性を評価するための補足的統計量として報告する。

第2段階は,メタ回帰分析である。ここでは,第 \(k\) 推定結果を従属変数,推定結果に差異をもたらすと考えられる研究上の諸要因をメタ独立変数(meta-independent variable)とする重回帰モデルを推定する。このメタ回帰分析に際して考慮すべき最も重要な点は,「文献間異質性」(literature heterogeneity)の制御である。ただし,メタ分析専門家の間では,いかなる推定量が,この目的にとって最も適切なのかという点に関する明確なコンセンサスはいまのところ存在しない。そこで筆者らは,Stanley and Doucouliagos[2012]の指針に従い,文献間異質性への接近法が相互に異なる合計7種類の推定量を用いてモデルを推定し,メタ回帰係数の統計的頑健性を,徹底的に点検する。

第3段階は,公表バイアスの検証である。「公表バイアス」とは,標準的理論に整合的ないし統計的に有意な研究成果が,標準的理論に不整合ないし統計的に非有意な研究成果よりもより高い頻度で発表されることにより,公表された研究のみに基づく効果量が,真の値から乖離する現象を意味する[田中・井上 2012]。この公表バイアスは,問題となる研究領域において,特定の結論(符号関係)を支持する推定結果が,より高い頻度で公表されるという意味での恣意的操作を意味する「公表バイアスⅠ型」と,統計的に有意な推定結果であればあるほど公表頻度が高いという意味での恣意的操作を指す「公表バイアスⅡ型」とに大別される。メタ分析は,研究対象領域における公表バイアスの有無及びその程度の検証を可能にするとともに,抽出推定結果の中に正真正銘の実証的証拠が存在するならば,真の値の近似値としての「公表バイアス修正効果サイズ」(publication-bias-adjusted effect size)を推定することができる。本稿では,公表バイアスⅠ型の検証に用いる漏斗プロット(funnel plot)や,公表バイアスⅡ型の判定に利用されるガルブレイズ・プロット(Galbraith plot)とともに,公表バイアスの検証を目的として特別に開発されたメタ回帰モデル群の推定をもって,この問題に取り組む。

上述した研究水準20段階評価及びメタ分析の方法論的詳細は,本稿補論A及びBを,それぞれ参照されたい。

Ⅲ メタ分析対象文献の概要

前節に述べた文献探索・選択手続きに従って,筆者らが選定したメタ分析対象文献は,合計30点であり,それらは,表1に一覧されている。前述の通り,筆者らは,1990年代発表文献も調査の対象としたが,同表の通り,党員資格の賃金効果に関する検証結果を報告する先行研究は,2000年代及び2010年代発表文献に限られる。この事実から,党員資格の賃金効果は,比較的新しい問題関心であることが窺われる。

表1  抽出推定結果の文献別及び実証方法論別内訳

(出所)筆者作成。

前節でも述べた通り,党員資格の賃金プレミアムを主題とする先行研究は,Li et al.[2007], Appleton et al.[2009]及びMcLaughlin[2017]に限られており,先駆的研究であるGustafsson and Li[2000]から,最新作のWang, Milner and Scheffel[2018]に至るその他の文献では,党員資格は,賃金関数の一制御変数として用いられているにすぎない。そのため,表1に列挙した文献には,賃金水準との内生性を考慮した党員資格変数の推定結果はほとんど見当たらず,また,他の賃金決定要因との相乗効果の検証を目的とした交差項の推定結果も皆無であった(注14)。さらに,これら先行研究の圧倒的大多数は,現地調査の制約上,横断面データの利用を余儀なくされており,従って,個体間の異質性が制御された賃金資格変数の推定結果は極めて限られていることも,今回の文献探索・選択過程の中で,併せて確認された。

さらに,今次文献探索・選択作業により,中国賃金研究は,その対象地域を,都市部または農村部のいずれかに限定する傾向が極めて強いが,表1の通り,党員資格効果は,その圧倒的大多数が,都市部研究において検証されていることも明らかになった。実際,筆者らが選択した30文献中27文献(90.0パーセント)が都市部研究であり,一方,農村部を対象とした実証研究は,都市部との比較を行ったXing[2014]の1文献に限られるのである。実証分析に用いられたデータ上の制約か,もしくは,都市労働者にとっての党員資格の重要性に,研究者が強い研究関心を払っていることの反映であろう。

メタ分析対象文献の研究対象期間は,30文献全体で,1988~2013年の26年間をカバーしている。実証分析が複数年に跨る研究は,表1の通り,30文献中13点と,全体の43.3パーセントを占めているが,上述の理由から,パネルデータ分析は,Appleton et al.[2009]に限られ,残り29研究は,全てクロスセクション研究である。さらに,同表から,先行研究のほとんどは,家計を調査対象としたサーベイデータを実証分析の基礎としていること,また,賃金変数は,年収から時給まで,幅広いタイプの変数が用いられていることも分かる。

表1右端欄の通り,筆者らは,以上に述べた研究属性によって特徴付けられる30点の文献から,合計332の推定結果を抽出した。1文献当たりの平均抽出推定結果数(中央値)は,11.1(8.0)である。次節以降では,これら332抽出推定結果を用いたメタ分析を試みる。

Ⅳ メタ統合

本節では,メタ分析の第1段階として,前節にその概要を述べた332抽出推定結果のメタ統合を行う。

表2は,抽出推定結果の偏相関係数及び \(t\) 値の記述統計量である。また図1には,これら2変数の度数分布が示されている。同表及び図1(a)の通り,偏相関係数は,0.04を最頻値として,正方向に大きく偏った分布を示している。事実,332推定結果中302の偏相関係数が正の値を示しているから,党員資格の正の賃金プレミアム効果を示唆する実証結果は,抽出推定結果全体の91.0パーセントを占めることになる。経済学研究における偏相関係数の評価に関するDoucouliagos[2011]の見解(注15)に従えば,全332抽出推定結果中157推定値(47.3パーセント)は,党員資格と賃金水準との間になんら実際的な関係(\(|r|<0.048\))を見出しておらず,135推定値(40.1パーセント)が,低位の効果(\(0.048\le|r|<0.112\))を,残る40推定値(12.0パーセント)が,中位または高位な効果(\(0.112\le|r|\))を報告している。従って,表1に掲げた先行研究の大多数は,党員資格に正の賃金効果を認めているものの,その効果サイズは無視し得る程度のものであるか,または軽微であると報告していることになる。

表2  抽出推定結果の偏相関係数及び \(t\) 値の記述統計量(\(K=332\))

(出所)筆者算定。

図1  抽出推定結果の偏相関係数及び \(t\) 値の度数分布(\(K=332\))

(出所)筆者作成。

注 1) Shapiro-Wilk の正規性検定:\(V=32.856,\,z=8.237,\,p=0.000\)

  2) Shapiro-Wilk の正規性検定:\(V=19.062,\,z=6.953,\,p=0.000\)

他方,図1(b)によれば,\(t\) 値は,3.0を最頻値として,偏相関係数と同様に正方向に偏った分布を示している。\(t\) 値の絶対値が1.96以上の推定結果は,全体の65.1パーセント(216推定値)を占める。この結果,偏相関係数が低位以上の党員資格効果を示唆し,なおかつ \(t\) 値が1.96以上の絶対値を記録した実証成果は,全332抽出推定結果中150推定値(45.2パーセント)であることが分かる。言い換えれば,実証成果のおよそ半数弱が,統計的に有意で,なおかつ経済的にも意味のある党員資格効果の検出に成功していると言えるだろう。

表3には,抽出推定結果をメタ統合した結果が示されている。同表には,前節での議論に照応して,全研究の統合結果に加えて,研究対象地域,研究対象期間,調査対象及び賃金タイプの違いに着目した統合結果も併せて報告されている。

表3  抽出推定結果のメタ統合

(出所)筆者推定。メタ統合の方法論的詳細は補論BのB.1節を,\(t\) 値結合に用いた研究水準の評価方法は補論Aを,それぞれ参照のこと。

(注)1) 帰無仮説:統合効果サイズが0。

   2) 帰無仮説:効果サイズが均質。

   3) Stanley and Doucouliagos [2017]及びStanley, Doucouliagos and Ioannidis [2017]が提唱する統合法(英語名 unrestricted weighted least squares average)を指す。

   4) 全抽出推定結果のUWAを真の値と仮定して算出した検定力。

   5) \(\overline{T_u}\):無条件結合,\(\overline{T_w}\):研究水準で加重した結合,\(T_m\):中央値。

   6) 効果の有無を判定する有意水準(ここでは5%水準)に,研究全体の結合確率水準を導くために追加されるべき平均効果サイズ0の研究数を意味する。

   ***:1%水準で有意,**:5%水準で有意,*:10%水準で有意。

同表(a)には,偏相関係数の統合結果が披露されている。固定効果モデルと変量効果モデルを用いた伝統的メタ統合法の結果によると,企業調査を調査対象とした実証成果を除いて,均質性の検定は,帰無仮説を1パーセント水準で棄却している。すなわち,この研究領域における文献間の異質性は大変顕著であり,従って,残る全てのケースにおいて,変量効果モデルの推定値 \(\overline{R_r}\) を,統合効果サイズの参照値に採用すべきであることが分かる。それによると,全研究を対象とした偏相関係数の変量効果モデルによる統合値は0.054であり,かつ統合効果サイズはゼロであるという帰無仮説を1パーセント水準で棄却している。すなわち,表1の先行研究30点は,総体として,効果サイズは微小ながらも,正に有意な党員資格効果の存在を示唆していると言える。

ただし,研究属性で条件付けられた統合結果から,賃金水準に及ぼす党員資格の効果サイズは,研究条件の違いから無視し得ない影響を被ることが,同時に確認される。実際,都市部研究の統合効果サイズは有意に正だが,農村部研究のそれは非有意であり,研究対象地域非特定研究の実証成果は,都市部研究よりもやや低い統合効果サイズを示している。また,研究対象期間別の偏相関係数統合値は,いずれも正に有意だが,効果サイズには相互に顕著な差が見られる。同様にして,調査対象や賃金タイプの相違も,党員資格が賃金水準に及ぼす効果の実証的評価に対して,一定の影響をもたらすことが分かる。

表3(a)には,Stanley and Doucouliagos[2017]Stanley, Doucouliagos and Ioannidis[2017]が提唱する新たなメタ統合法による分析結果も報告されている。方法論的な理由から,UWA統合値は,固定効果モデル推定値と完全に一致しているが,ほとんどのケースにおいて,統合効果サイズの統計的有意性の評価はより厳しい。さらに,検定力0.8以上の推定結果のみを対象としたWAAP統合値は,11ケース中9ケースにおいて,伝統的統合結果よりもより小さい統合効果サイズを示している。これらの結果は,新統合法の開発者であるスタンレー教授らの予想に基本的に一致している。そこで,本稿では,全研究を対象とした統合効果サイズとして,表3の分析結果の中でも最も保守的なWAAP統合値0.050を,以下で行うメタ回帰分析及び公表バイアス検証作業における参照基準に採用する。

なお,表3(b)に報告した \(t\) 値の結合結果とフェイルセーフ数(\(fsN\))も,上述した偏相関係数のメタ統合結果と歩調を合わせた分析結果を示している。さらに,ここでは,無条件に結合した \(t\) 値である \(\overline{T_u}\) と比較して,研究水準で加重した結合 \(t\) 値 \(\overline{T_w}\) は,その値が大幅に低下し,なおかついくつかのケースでは,統計的有意性が10パーセント水準に達しなくなることも確認できる。このことから,先行研究が報告する党員資格賃金効果の検証結果は,研究対象地域等の研究条件のみならず,研究水準の差異によっても大きな影響を受けた可能性が高いとの推察が得られる。これら研究条件及び研究水準が,先行研究の実証成果にもたらした影響の方向性と程度は,次節のメタ回帰分析において,より厳密に検証する。

Ⅴ メタ回帰分析

本節では,メタ分析の第2段階として,研究条件や研究水準に顕在化した文献間の異質性が,先行研究の実証結果に及ぼす影響を,メタ回帰分析の手法で検証する。推定するメタ回帰モデルの従属変数は,偏相関係数または \(t\) 値であり,一方のメタ独立変数には,第Ⅲ節で言及した研究対象地域,研究対象期間,調査対象及び賃金タイプといった一連の属性に加えて,標本性別,標本戸籍住民タイプ,賃金水準パーセンタイル,調査対象企業所有制,サーベイデータの種別,賃金範囲,賃金変数タイプ,推定量,就業者選択バイアス制御の有無,推定結果に強く影響すると考えられる各種制御変数採用の有無,自由度(注16)及び研究水準の差異を捉える変数を採用した。表4には,これらメタ独立変数及びデフォルト・カテゴリとして用いられる諸変数の名称,定義及び記述統計量が一覧されている。

表4  メタ回帰分析に用いる独立変数の変数名,定義及び記述統計量

(出所)筆者算定。

(注)1) メタ回帰分析におけるデフォルト・カテゴリ。

   2) 推定量の違いを問わず,操作変数法または二段階 / 三段階最小二乗法で,従属変数と独立変数の内生性を制御した推定結果に1を与える変数。

   3) 詳細は,本稿補論Aを参照。

表5は,その推定結果である。同表のパネル(a)は,(9)式の左辺に偏相関係数を導入した回帰モデルの推定結果であり,一方のパネル(b)は,\(t\) 値を従属変数に用いた場合の分析結果である。この通り,推定量の違いは,いくつかのメタ独立変数について,符号関係や統計的有意性の観点から,かなり異なる推定結果を生み出している。そこで,本稿では,パネル毎に,全7モデル中4モデル以上で,統計的に有意かつ符号関係が同一なメタ独立変数を,比較的頑健な推定結果と見なすこととする。この基準に立脚すると,党員資格の賃金効果に関する先行研究の実証結果に,体系的な差異を生み出す要因として,次の6点を特に指摘することができる。

表5(a)  文献間異質性のメタ回帰分析 (a)従属変数:偏相関係数

(出所)筆者推定。メタ独立変数の定義及び記述統計量は,表4を参照。メタ回帰分析の方法論的詳細は,補論BのB.2節を参照。

(注)1) OLS:最小二乗法,WLS:加重最小二乗法(かっこ内は推定に用いた分析的重み),RML:制限付き最尤法,GLS:一般最小二乗法,LSDV:最小二乗ダミー推定法。

   2) Breusch-Pagan 検定:\(\chi^2 = 0.00, p = 1.0000\)

   3) Hausman 検定:\(\chi^2= 22.10, p = 0.4540\)

   4) Breusch-Pagan 検定:\(\chi^2 = 0.00, p = 1.0000\)

   5) Hausman 検定:\(\chi^2 = 249.54, p = 0.0000\)

   かっこ内は,Whiteの修正法による分散不均一性の下でも一致性のある標準誤差。***:1%水準で有意,**:5%水準で有意,*:10%水準で有意。OLS,WLS及びパネル変量効果・固定効果推定に際しては,研究ごとに抽出推定結果をクラスター化したクラスター法を採用している。

表5(b)  文献間異質性のメタ回帰分析 (b)従属変数:\(t\) 値

(出所)筆者推定。メタ独立変数の定義及び記述統計量は,表4を参照。メタ回帰分析の方法論的詳細は,補論BのB.2節を参照。

(注)1) OLS:最小二乗法,WLS:加重最小二乗法(かっこ内は推定に用いた分析的重み),RML:制限付き最尤法,GLS:一般最小二乗法,LSDV:最小二乗ダミー推定法。

   2) Breusch-Pagan 検定:\(\chi^2 = 0.00, p = 1.0000\)

   3) Hausman 検定:\(\chi^2= 22.10, p = 0.4540\)

   4) Breusch-Pagan 検定:\(\chi^2 = 0.00, p = 1.0000\)

   5) Hausman 検定:\(\chi^2 = 249.54, p = 0.0000\)

   かっこ内は,Whiteの修正法による分散不均一性の下でも一致性のある標準誤差。***:1%水準で有意,**:5%水準で有意,*:10%水準で有意。OLS,WLS及びパネル変量効果・固定効果推定に際しては,研究ごとに抽出推定結果をクラスター化したクラスター法を採用している。

(1)党員資格賃金プレミアム効果の統計的有意性の評価は,その分析対象を民間企業に限定すると,顕著に低下する傾向がある。事実,表5(b)によれば,企業所有制を区別しない研究との比較において,民間企業研究の実証結果の \(t\) 値は,他の条件を一定として,1.1097から1.4896の範囲で,平均的に低下するのである。その一方,企業所有制を区別しない研究と国有企業研究の \(t\) 値には,統計的に有意な差は認められない。この結果は,賃金水準決定要因としての党員資格の作用が,国有企業と民間企業の間で大きく異なる可能性を示唆しており,たいへん興味深い。

(2)党員資格効果の実証分析にとって,サーベイデータの選択は,効果サイズと統計的有意性の両面において,その結果を大きく左右する要因である。すなわち,中国賃金研究における家計サーベイデータの代表格であるCHIPsを,実証分析の基礎に用いた研究との比較において,CHIPsに次ぐ有力家計サーベイデータであるCGSSを採用した研究は,賃金水準に及ぼす党員資格の効果を,より消極的に評価する傾向が強い反面,企業調査から得られたサーベイデータを用いた研究は,CHIPs採用研究よりも,より積極的な評価を党員資格に与えているのである。

このような分析結果が得られた背景要因として,次の2点を述べておきたい。第1は,CHIPsとCGSSの相違性である。両者は,いずれも全国規模の家計調査であるが,サンプリング方法に差異がある。すなわち,CHIPsは,国家統計局が管理する全国標本から多段無作為抽出法によってサンプルを選定するが,その標本抽出段階は8段階にも及ぶ。一方のCGSSも,無作為抽出法によってサンプルを選び出すが,その抽出段階は3段階に限られる。両者は,調査対象住民の選択面でも大きく相違する。すなわち,CHIPsは,都市住民,農村住民及び出稼ぎ労働者という3種類の住民タイプを全て調査しているが,CGSSは,出稼ぎ労働者を調査対象から除外している。さらに,CHIPsは,年収に関する詳細な調査項目(基本給,ボーナス,手当,実物支給等)を設けているため,月給のみを調査するCGSSよりも,より正確な賃金情報を入手しているとも評されている。

第2に,CHIPsやCGSSに代表される家計調査は,全国代表地域の労働者を対象とする広範な個票調査として組織される場合がほとんどである一方,企業調査の大多数は,1地点あるいは数カ所の地域に所在する企業に勤務している一般従業員の重点調査として実施されている。後者の場合,研究者や専門インタビュアーの訪問調査を受け入れる企業は,大型国有企業である場合が少なくなく,従って,第Ⅰ節で論じた通り,被調査企業における党組織の影響力は,平均的な中国企業よりも相対的に強い可能性が否定できない。調査対象や情報収集方法等に見られる現地調査の違いは,これほどにも大きく,かかる要因が,上述の推定結果に顕在化した可能性は高い。

(3)先行研究で推定された回帰モデルの従属変数として用いられた賃金変数の相違性も,党員資格効果の実証的評価に重大な影響を及ぼす。実際,賃金のタイプに加えて,その範囲や対数変換有無の相違は,党員資格の効果サイズと統計的有意性の双方について非常に大きな差異を,異なる研究間に生み出しているのである。こうした分析結果をもたらした要因として,次の点を指摘することができる。第1に,年収とは異なり,月給,日給,時給の場合,社会保険料の個人負担分が含まれていない可能性は高い。そのため,月給,日給,時給の手取り賃金は,年収のそれよりも上振れする傾向にある。第2に,総収入には,定期報酬(基本給)や特別賞与以外の収入が含まれる。前述の通り,党員の大多数は,高学歴・高技能の正規労働者あるいは管理職者であるから,臨時的な収入(例えば,特別賞与)も少なくない。第3に,推定式の対数変換は,多くの場合,独立変数の説明力(あてはまり)を向上させる。これら3要因が,表5の推定結果と深く関係している可能性は高いと思われる。

(4)推定期間は,党員資格の効果サイズには強く影響しない一方,統計的有意性については,これを大きく左右する。事実,表5(b)から,推定年が1年現在に接近すると,\(t\) 値は,0.0962から0.1566の範囲で有意に低下することが確認される。この結果から,市場経済化の進展に伴い,統計的確からしさという観点から,党員資格の賃金効果が,漸次減衰している可能性が指摘される。

(5)党員資格を賃金水準へ回帰する際の推定量や制御変数の選択も,推定結果に重大な差異をもたらす。この観点から特に強調しておきたいのは,職業,年齢,健康状態,並びに,企業規模といった,賃金水準に多大な影響を及ぼすと考えられている一連の要因の制御の有無は,党員資格の獲得・保持に起因する賃金プレミアムの実証的評価を,大きく左右するという事実である。言い換えると,上記の要因が同時的に制御されていない実証分析では,党員資格効果は,過大または過少に評価される恐れが強いと言える。党員資格の賃金プレミアムを測定するに際しては,一般的に重大だと考えられる労働者や企業レベルの賃金決定要因は,可能な限り同時制御されることが望ましいと判断される。

また,最小二乗法(OLS)を推定量に用いた研究は,他の研究と比較して,党員資格の効果サイズをより低く評価する傾向にあることを示唆する分析結果も,上記に優るとも劣らないほど興味深い。既述の通り,先行研究の大多数は,現地調査上の制約から,横断面データを利用しており,いきおいOLSをもって賃金関数を推定することになる。一般に,OLS推定では,観察不能な個体間異質性の制御は不可能である。仮に,個体間異質性の等閑視が,党員資格の賃金効果に下方バイアスをもたらすとすれば,これは,研究上の重大な問題であろう。他方,独立変数と従属変数の内生性に対処すべく,操作変数法(IV)や第二/第三段階最小二乗法(2SLS/3SLS)を用いた研究が,効果サイズ及び統計的有意性ともに,より消極的な推定結果を提示する傾向にあることを示す分析結果は,大変説得的であろう。

そして,(6)統計理論に合致して,自由度の十分な確保は,統計的有意性の高い実証成果の獲得にとって,たいへん重要な要因である。それは,表5(b)において,自由度の平方根が,7モデル中6モデルで有意に正に推定されていることに明確に表れている。

以上に指摘した文献間に体系的な異質性を生み出す一連の諸要因とは対照的に,研究対象地域,標本性別,標本戸籍住民タイプ,賃金水準への分析的配慮,選択バイアスの制御及び研究水準は,党員資格の効果サイズと統計的有意性のいずれにも頑健な影響を及ぼしていないことが,表5から確認できる。これら非有意なメタ独立変数の推定結果も,中国における党員資格の賃金効果を理解する上で,重要な手掛かりになるだろう(注17)

Ⅵ 公表バイアスの検証

メタ分析の最終段階として,本節では,公表バイアスの有無及び存在する場合のその影響度,並びに,真の効果の有無を検証する。

図2(a)には,公表バイアスⅠ型の判定に用いられる漏斗プロットが描かれている。同図の通り,仮に真の効果を点線で描かれたゼロと仮定するなら,抽出推定結果の正負比率は302対30となるから,正負比率は等しいという帰無仮説は,比率の差の \(z\) 検定により,1パーセントの有意水準で棄却される(\(z=14.928,\,p=0.000\))。故に,この場合は,公表バイアスⅠ型の存在が強く疑われる。しかし,表3で報告したWAAP統合値を真の効果の近似値と仮定する場合,抽出推定結果は,0.05を境に,左右170対162とほぼ均等に二分されるから,両者の比率は等しいという帰無仮説は棄却されない(\(z=-0.439,\,p=0.661\))。従って,党員資格の賃金効果が,メタ統合結果に従って正である場合,この研究領域に公表バイアスⅠ型が生じている可能性は,極めて低いと判定される。

図2  抽出推定結果の漏斗プロット及びガルブレイズ・プロット(\(K=332\))

(出所)筆者作成。漏斗プロットやガルブレイズ・プロットの意味するところは,補論BのB.3節を参照。

(注)1) 図中の実線は,表3に報告した検定力0.8以上の抽出推定結果のUWA(WAAP)である。

   2) 実線は,有意水準5%の両側棄却限界値である±1.96を示している。

続いて,公表バイアスⅡ型の検出に用いる図2(b)のガルブレイズ・プロットに目を向けよう。同図から,有意水準5パーセントの両側棄却限界値である±1.96の範囲内に収まる \(t\) 値が,抽出推定結果全体の95パーセントを占めるということがあり得そうにもないことは,容易に確認できる。実際,そのような条件を満たす \(t\) 値は,332抽出推定結果中116(34.9パーセント)を占めるに止まり,従って,その比率が95パーセントであるという帰無仮説は,強く棄却される(\(z=50.212,\,p=0.000\))。また,WAAP統合値である0.05を真の効果と仮定する場合も,統計量 \(|\)(第 \(k\) 推定結果-真の効果)\(\,/\,SE_k|\))が閾値1.96を上回る推定結果が全体に占める比率は5パーセントであるという帰無仮説も強く棄却される(\(z=22.512,\,p=0.000\))。従って,これらの諸結果によれば,この研究分野に公表バイアスⅡ型が存在する恐れは,極めて高いと判断される。

補論Bで解説した方法と手続きに基づいて,公表バイアス及び真の効果の有無を,この目的のために特別に開発されたメタ回帰モデルの推定をもって分析した結果が,表6に示されている。同表(a)の通り,公表バイアスⅠ型の漏斗非対称性検定(FAT)は,切片(\(\gamma_0\))がゼロであるという帰無仮説を,5モデル中4モデルで棄却していない。同様に,同表(b)においても,公表バイアスⅡ型検定は,やはり5モデル中4モデルで,帰無仮説を受容している。従って,これらメタ回帰分析の結果によれば,この研究領域においては,Ⅰ型とⅡ型いずれの意味においても,公表バイアスの存在は否定される。

表6  公表バイアス及び真の効果の有無に関するメタ回帰分析

(出所)筆者推定。公表バイアス検証方法の方法論的詳細は,補論BのB.3節を参照。

(注)1) OLS:最小二乗法,RML:制限付き最尤法,GLS:一般最小二乗法,LSDV:最小二乗ダミー推定法,ML:最尤法。

   2) Breusch-Pagan検定:\(\chi^2 = 157.98, p = 0.0000\)

   3) Hausman検定:\(\chi^2 = 1.78, p = 0.1821\)

   4) Breusch-Pagan検定:\(\chi^2 = 158.54, p = 0.0000\)

   5) Hausman検定:\(\chi^2 = 3.52, p = 0.0606\)

   かっこ内は,標準誤差。モデル[14]を除き,Whiteの修正法による分散不均一性の下でも一致性のある標準誤差を報告している。***:1%水準で有意,**:5%水準で有意,*:10%水準で有意。

抽出した推定結果の中に,党員資格効果に関する正真正銘の証拠が存在するか否かは,表6(a)の精度=効果検定(PET)及び(c)の標準誤差を用いた精度=効果推定法(PEESE)の分析結果に基づいて判定される。前者の検定結果によると,標準誤差の逆数の係数(\(\gamma_1\))がゼロであるという帰無仮説は,全5モデルで棄却されている。すなわち,党員資格効果に関する正真正銘の実証的証拠は,抽出推定結果の中に確かに存在すると言えるのである。そして,PEESE法の分析結果によれば,全5モデルにおいて,係数(\(\gamma_1\))は,統計的に有意にゼロとは異なる。従って,党員資格効果の真の値は,0.0490から0.0479の範囲にあることが確認される。それは,表3のメタ統合結果との比較において,変量効果モデル推定値 \(\overline{R_r}\),UWA統合値及びWAAP統合値の中では,WAAP統合値に最も近い。この結果は,Stanley, Doucouliagos and Ioannidis[2017]のシミュレーション結果と一致するものである。

以上の通り,本節の公表バイアス検証結果は,この研究分野に公表バイアスが存在する恐れは,Ⅰ型とⅡ型の双方でともに低く,なおかつ,表1に列挙した30点の先行研究は,総体として,党員資格の賃金効果に関する真の値の特定に成功しており,さらにそれは,微小ながらも有意に正であることを実証しているとの判定結果を与えている。

おわりに

中国では,経済体制の市場経済化が目覚ましい進展を見せる一方,共産党一党独裁体制が堅固に守られており,かかる政治体制の下で,党組織は,国内企業に対して,依然として特異かつ強力な影響力を行使している。その個人レベルでの現れの1つが,党員資格がその保有者の労働賃金に及ぼすプレミアム効果である。この党員資格賃金効果は,中国における政治経済体制と労働市場の関係性を理解するための重要な分析視角であり,このため,既述の通り,多数の先行研究がその推定を試みている。しかし,本稿冒頭でも述べた通り,経済理論上の論争がそうであるように,実証研究面でも,中国経済研究者は,この問題について一定の結論には依然達していない。

以上の学術的閉塞状況を打破すべく,本稿において筆者らは,2000年から2018年上半期の間に発表された30文献より抽出した332推定結果に基づいて,党員資格が賃金水準に及ぼす効果の真の値の特定を目的としたメタ分析を行った。その結果得られた重要な事実発見は,次の4点に要約される。すなわち,第1に,第Ⅳ節で行った抽出推定結果のメタ統合分析は,党員資格の正の賃金効果の存在を強く示唆した。この事実発見は,第Ⅵ節の公表バイアスと真の効果の有無に関する検証結果によっても裏付けられた。つまり,抽出推定結果には,党員資格賃金効果に関する正真正銘の実証結果が含まれており,真の効果サイズは,偏相関係数値で0.05に近似するのである。この結果を換言すると,現代中国では,党員資格の人的資本効果,シグナリング効果及び政治・社会資本効果が,市場化効果や風評効果に優越する可能性が高いと言える。ただし,0.05という値の統合効果サイズは,Doucouliagos[2011]の判定基準に従えば,低位の水準に止まるものである。従って,党員資格は,経済的には意味があるものの,党員と非党員との間に社会的にも許容し難いと言えるほどの賃金格差をもたらすものではないと考えられる。

第2に,第Ⅴ節で試みた文献間異質性のメタ回帰分析は,国有企業と民間企業の間には,党員資格賃金効果の実証結果に,統計的有意性という観点から,目覚ましい差異が存在することを示した。すなわち,他の研究条件が等しければ,分析対象を民間企業に限定すると,党員資格効果の計量分析による捕捉可能性が大きく後退するのである。この結果は,市場化仮説を強く支持するものではないものの,党員資格の威力に,国有企業と民間企業の間で非対称性が存在することを示唆しており,たいへん興味深い。

第3に,賃金決定モデルの推定年が,現在に接近すればするほど,先行研究が報告する党員効果の統計的有意性が低下する傾向にあることを示唆するメタ回帰分析の結果も,上記第2点目の議論とのかかわりで,たいへん注目に値する。体制転換の進展は,中国企業社会のあり様に,漸次的ではあるが,しかし確実に変容をもたらしているのかもしれない。

第4に,メタ回帰分析は,研究条件としてのサーベイデータの種別,賃金変数の捕捉範囲や定義,並びに,推定量や制御変数の選択も,上述した分析対象企業の所有形態や推定期間と相俟って,既存研究の実証結果に,体系的な差異を生み出している可能性を強く示唆した。この分析結果は,Li et al.[2007]McLaughlin[2017]が提起した研究条件と党員資格賃金効果との間の密接な関係を裏付けるものとなっており,党員効果の実証的検証方法のさらなる洗練化を求めるものである。

漸進主義的改革路線を堅持する中国では,政治と経済の分離が不十分であるために,国内企業の経営活動が,共産党組織に依然として強く従属している。党員資格賃金効果の真の値が正であるという本稿のメタ分析結果は,その証左の1つである。しかし,推定結果の統計的有意性に見られる国有企業と民間企業の非対称性や時系列的低下傾向は,市場経済化の進展が,経済合理性という観点から問題含みの党・企業間関係を,徐々にではあるが,望ましい姿に導いている可能性を暗示している。この意味で,将来に行われる実証研究の成果が大いに注目される。

補論A  研究水準の評価方法について

本研究がメタ分析に用いる文献の研究水準を評価する方法は,以下の通りである。

雑誌論文については,インターネット公開経済学文献データベースIDEAS(http://ideas.repec.org/)が,2018年2月1日時点に公表していた経済学雑誌ランキングを,研究水準評価の最も基礎的な情報源に用いた。IDEASは,2018年2月当時,2159種類の国際学術誌を対象とする世界で最も包括的な経済学雑誌ランキングである。筆者らは,その総合評価スコアを用いたクラスター分析によって,これら2159雑誌を20クラスターに分割した上で,最上位クラスターに属する雑誌群から,最下位クラスターのそれに対して,順次20から1の評点(重み)を与えた。

なお,IDEASが調査対象としていない学術誌については,Thomson Reuters社のインパクト・ファクターや他の雑誌ランキングを参考に,当該学術誌とほぼ同等の評価が与えられているIDEASランキング掲載雑誌に加えた評点と同じ評点を与えた。

一方,学術図書及び学術図書所収論文については,原則として1の評点を与えるものの,(1)査読制を経たことが明記されている場合,(2)専門家による外部評価を実行している有力学術出版社の刊行図書である場合,(3)研究水準が明らかに高いと判断される場合,のいずれか1つの条件が満たされる際は,評点の中間値である10を一律に与えた。

補論B  メタ分析方法の詳細について

この補論では,本研究で採用したメタ分析方法をより詳しく解説する。

B.1  推定結果のメタ統合

偏相関係数は,以下の方法で統合する。いま,第 \(k\) 推定結果の偏相関係数 \(r_k\) に対応する母数及び標準誤差を各々 \(\theta_k\) 及び \(s_k\) で表す。ここで,各偏相関係数の母数は共通であり(\(\theta_1=\theta_2=\ldots=\theta_k=\theta\)),その差は,専ら偶然誤差として生じると仮定すれば,観測不能な真の母数 \(\theta\) の漸近的有効推定量は,各観測値の分散の逆数を重みとした加重平均となる。すなわち,   

\[\overline{R}=\sum_{k=1}^K w_kr_k / \sum_{k=1}^Kw_k \qquad\qquad\qquad\qquad\qquad\qquad\qquad\qquad\qquad\qquad(1)\]

ただし,\(w_k=1/v_k,\,v_k=s_k^2\) である。統合偏相関係数 \(\overline{R}\) の分散は,\(1 / \sum_{k=1}^K w_k\)となる。

この統合法は,固定効果モデルと呼ばれるものである。以下,固定効果モデルの推定値を,\(\overline{R_f}\) で表す。偏相関係数の統合法として,この固定効果モデルを利用するためには,抽出した推定結果が均質であるという条件が満たされていなければならない。そこで,カイ二乗分布に従う次の統計量で均質性の検定を行う。   

\[Q_r=\sum_{k=1}^K w_r(r_k-\overline{R_f})^2 \sim \chi^2(K-1) \qquad\quad\qquad\qquad\qquad\qquad\qquad\;\;\,(2)\]

統計量 \(Q_r\) が棄却限界を超えれば,帰無仮説は棄却される。その場合は,推定結果間には無視できない異質性が存在することを許容した上で,その偏りは,平均0分散 \(\tau^2\) の確率変数に従うと仮定する変量効果モデルを採用する。いま,推定結果間の偏りを \(\delta_\theta^2\) とすれば,第 \(k\) 偏相関係数の無条件分散は,\(v_k^u=(v_k+\delta_\theta^2)\) で表される。そこで,変量効果モデルは,重み \(w_k\) の代わりに,重み \(w_k^u=1 / v_k^u\) を(2)式に代入して母数 \(\theta\) を推定する(注18)。分散成分にはモーメント法の推定値を用いる。それは,均質性の検定統計量 \(Q_r\) を用いた次式   

\[\widehat{\delta_\theta^2}=\frac{Q_r-(K-1)}{\sum_{k=1}^K w_k^u-(\sum_{k=1}^K w_k^{u^2} / \sum_{k-1}^K w_k^u)} \qquad\qquad\qquad\qquad\qquad\qquad\,(3)\]
で求められる。以下,変量効果モデルの推定値は,\(\overline{R_r}\)で表す。

さらに,本稿では,これら伝統的メタ統合法に加え,公表バイアスの影響がより少ない接近法として,Stanley and Doucouliagos[2017]Stanley, Doucouliagos and Ioannidis[2017]が提唱する無制限加重最小二乗平均法(UWA)による偏相関係数の統合も試みる。この方法は,標準化された効果サイズを,その推定精度に回帰することによって得られる点推定値を,統合効果サイズと見なすものである。より具体的には,定数項を持たない次の(4)式を推定し,その係数 \(\alpha_1\) を,偏回帰係数の統合値として採用する。   

\[t_k=\alpha_1(1 / SE_k)+\varepsilon_k \qquad\qquad\qquad\qquad\qquad\qquad\qquad\qquad\qquad\quad\;\;(4)\]

\(\varepsilon_k\) は残差項である。理論上,(4)式の \(\alpha_1\) は,固定効果モデルの推定値 \(\overline{R_f}\) と完全に一致するが,その標準誤差は,公表バイアスに対してより頑健であると考えられている。さらに,Stanley, Doucouliagos and Ioannidis[2017]は,全抽出推定結果の UWA統合値を,真の効果サイズと仮定した場合に,検定力が0.8を超える推定結果のみを対象とした UWA統合法を,「適切な検定力を持つ推定結果の加重平均法」(weighted average of the adequately powered: WAAP)と名付けた上で,WAAP統合値は,伝統的な変量効果モデルの推定量 \(\overline{R_r}\) よりも,公表バイアスの影響がより軽微であるという意味で,後者を代替するものであると主張している。

\(t\) 値は,次の式を用いて結合(combine)する。   

\[\overline{T_w}=\sum_{k=1}^K \omega_k t_k \big/ \sqrt{\sum_{k=1}^K \omega_k^2} \sim N(0, 1) \qquad\qquad\qquad\qquad\qquad\qquad\qquad\,\,(5)\]

本稿では,(5)式の重み \(\omega_k\) として,補論Aで述べた研究水準の20段階評価(\(1\le \omega_k\le 20\))を用いる。また,研究水準で加重された結合 \(t\) 値 \(\overline{T_w}\) とともに,以下(6)式で得られる重みのない結合 \(t\) 値 \(\overline{T_u}\) も併せて報告し,研究水準と各文献が報告する統計的有意水準との関係を検証する。   

\[\overline{T_u}=\sum_{k=1}^K t_k \big/ \sqrt{K} \sim N(0, 1) \qquad\qquad\qquad\qquad\qquad\qquad\qquad\qquad\quad\;(6)\]

さらに本稿では,有意水準5パーセントを基準とするフェイルセーフ数(fail-safe N:\(fsN\))を次式で求め,上記結合 \(t\) 値の信頼性を評価する補足的統計量として報告する(注19)。   

\[fsN\,(p=0.005)=\left( \frac{\sum_{k=1}^K t_k}{1.645}\right)^2-K \qquad\qquad\qquad\qquad\qquad\qquad\;\;(7)\]

B.2  メタ回帰分析

メタ回帰分析は,推定結果に差異をもたらした要因を,厳密に解析する手法としてたいへん有用であり,以下に示した回帰モデルの推定を目的とする。

  
\[y_k = \beta_0 + \sum_{n=1}^N \beta_nx_{kn}+e_k, \quad\, k=1,\ldots,K \qquad\qquad\qquad\qquad\qquad\;\;(8)\]

ここで,\(y_k\) は第 \(k\) 推定結果,\(x_k\) は推定結果に差異をもたらすと考えられる研究上の諸要因を表すメタ独立変数,\(\beta_n\) は推定すべきメタ回帰係数,\(e_k\) は残差項である。本稿では,偏相関係数及び \(t\) 値を,(8)式の従属変数に用いる。

メタ回帰モデル推定量の選択に際して最も留意すべき点は,研究間の異質性である。特定の文献から複数の推定結果を抽出する本研究の場合,この問題への対処はたいへん重要である。そこで本研究では,Stanley and Doucouliagos[2012]の指針に従い,推定結果を文献毎にクラスター化した上で,標準誤差を頑健推定する最小二乗法推定量(Cluster-robust OLS),同様のクラスター法を採用し,かつ上述した20段階の研究水準,観測数(\(N\))または標準誤差の逆数(\(1/SE\,\))を分析的重みとする加重最小二乗法推定量(Cluster-robust WLS),多段混合効果制限付最尤法推定量(Multi-level mixed effects RLM),クラスター法変量効果パネル一般最小二乗法推定量(Cluster-robust random-effects panel GLS)及びクラスター法固定変量効果パネル最小二乗ダミー推定量(Cluster-robust fixed-effects panel LSDV)から成る計7種類の推定量を用いて(8)式を推定し,メタ回帰係数 \(\beta_n\) の統計的頑健性を点検する。

B.3  公表バイアスの検証

推定結果のメタ統合や推定結果間の相違性の要因解析に比肩するメタ分析の重要課題は,公表バイアスの検証である。本稿では,漏斗プロット,ガルブレイズ・プロット,並びに,この目的のために特別に開発されたメタ回帰モデルの推定をもって,この問題の有無及び程度を分析する。

漏斗プロットは,効果サイズ(本稿では偏相関係数)を横軸,推定精度(同様に標準誤差の逆数)を縦軸に置いた分布図である。仮に公表バイアスが存在しないなら,複数の独立した研究が報告する効果サイズは,真の値の周りをランダムかつ対称的に分布するはずである。また,統計理論の教えるところでは,効果サイズの分散と推定精度は負に相関する。従って,その様は伏せた漏斗の姿に似ることが知られている。故に,抽出した推定結果を用いて描いた漏斗プロットが,左右対称ではなく,いずれか一方に偏った形状を示すなら,問題となる研究領域において,特定の結論(符号関係)を支持する推定結果が,より高い頻度で公表されるという意味での恣意的操作(公表バイアスⅠ型)を疑うことになる。

一方,推定精度(本稿では標準誤差の逆数)を横軸,統計的有意性(同様に \(t\) 値)を縦軸とするガルブレイズ・プロットは,符号関係にかかわりなく,統計的に有意な推定結果であればあるほど公表頻度が高いという意味での恣意的操作(公表バイアスⅡ型)の検出に用いる。一般に,統計量\(|\)(第 \(k\) 推定結果-真の効果)\(\,/\,SE_k|\))が,閾値1.96を超過する推定結果は,全体の5パーセント前後に止まるはずである。いま,仮に真の効果が存在せず,なおかつ推定結果の公表になんら作為がなされていないのであれば,報告された \(t\) 値は,ゼロの周りをランダムに分布し,なおかつその95パーセントが±1.96の範囲内に収まるであろう。ガルブレイズ・プロットは,抽出された推定結果の統計的有意性に,このような関係が観察されるか否かを検証することにより,公表バイアスⅡ型の有無を判定する。また,以上の理由から,ガルブレイズ・プロットは,非ゼロ効果の存在を検証するツールとしても用いられる(注20)

これら2つの散布図に加えて,本稿では,上記2種類の公表バイアス及び真の効果の有無をより厳密に検証するために開発されたメタ回帰モデルの推定結果も報告する。

公表バイアスⅠ型の検出は,第 \(k\) 推定結果の \(t\) 値を,標準誤差の逆数に回帰する次式   

\[t_k = \gamma_0+\gamma_1(1/SE_k)+\epsilon_k \qquad\qquad\qquad\qquad\qquad\qquad\qquad\qquad\qquad\,(9)\]
を推定し,同式の切片 \(\gamma_0\) がゼロであるという帰無仮説の検定によって行う(注21)。\(\epsilon_k\) は残差項である。切片 \(\gamma_0\) が有意にゼロでなければ,効果サイズの分布は,左右対称形ではないと判断できる。このため同検定は,「漏斗非対称性検定」(funnel-asymmetry test: FAT)と呼ばれる。一方,公表バイアスⅡ型は,(9)式の左辺を \(t\) 値の絶対値に置き換えた下記(10)式を推定し,FATと同様に帰無仮説: \(\gamma_0=0\) を検定することで,その有無を判定することができる。

  
\[|t_k| = \gamma_0+\gamma_1(1/SE_k)+\epsilon_k \qquad\qquad\qquad\qquad\qquad\qquad\qquad\qquad\quad\;(10)\]

仮に公表バイアスが生じているとしても,入手可能な研究成果の中に,効果サイズに関する正真正銘(genuine)の証拠が存在することはあり得る。Stanley and Doucouliagos[2012]によれば,上記(9)式の係数\(\gamma_1\)がゼロであるという帰無仮説の検定によって,その可能性を検証することができる。帰無仮説: \(\gamma_1=0\)の棄却は,正真正銘の証拠の存在を示唆する。この\(\gamma_1\)が推定精度の係数であることから,彼らは,この検定を「精度=効果検定」(precision-effect test: PET)と名付けている。さらに,彼らは,定数項を持たない下記(11)式を推定し,係数\(\gamma_1\)を得ることで,公表バイアスを修正した効果サイズの推定値を得ることができると述べている。すなわち,帰無仮説: \(\gamma_1=0\)が棄却されるなら,問題となる研究領域には非ゼロの効果が実際に存在し,係数\(\gamma_1\)をその推定値と見なし得るのである。

  
\[t_k = \gamma_0 SE_k+\gamma_1(1/SE_k)+\epsilon_k \qquad\qquad\qquad\qquad\qquad\qquad\qquad\quad\;\,(11)\]

Stanley and Doucouliagos[2012]は,この(11)式を用いた正真正銘の効果サイズの推定方法に,「標準誤差を用いた精度=効果推定法」(precision-effect estimate with standard error: PEESE)という名称を与えている(注22)。なお,上記(9)式から(11)式の推定に際しては,最小二乗法の他,研究間の異質性に対処したCluster-robust OLS推定量,多段混合効果制限付最尤法推定量及びアンバランスド・パネル推定量(注23)を用いた推定結果も報告し,回帰係数の頑健性を点検する。

メタ回帰モデルを用いた公表バイアスと真の効果の有無に関する以上の検証手順を要約すれば,次の通りとなる。初めに(9)式を推定してFATで公表バイアスⅠ型の,(10)式を推定して公表バイアスⅡ型の有無をそれぞれ検証し(第1段階),次にPETを実行して,仮に公表バイアスが存在する上でも,抽出した推定結果の中に効果サイズに関する正真正銘の証拠があるか否かを検定し(第2段階),帰無仮説が棄却された場合は,最後に,(11)式を用いる PEESE法によって,公表バイアスを修正した効果サイズの推定値を報告する(第3段階),という3つの段階を踏む。仮に,PETが帰無仮説を受容する場合は,問題となる研究領域は,総体としてゼロではない効果サイズに関する十分な証拠を提出していないと判断することになる。

以上の通り,本研究は,基本的にStanley and Doucouliagos[2012]が提唱する公表バイアス検証手続(FAT-PET-PEESE接近法)を継承するものであるが,移行経済研究における公表バイアスⅡ型の可能性の高さに配慮して,(9)式を用いた公表バイアスⅠ型の検証に加えて,(10)式による公表バイアスⅡ型の検証をも加味した点が異なっている[岩﨑 2018]

[付記]

本稿は,平成 30年度一橋大学経済研究所共同利用・共同研究拠点プロジェクト研究「先端メタ分析理論の移行経済研究への応用」(研究代表者:溝端佐登史・京都大学教授),平成30年度一橋大学経済研究所所内戦略推進経費,並びに平成28~30年度日本学術振興会科学研究費補助金基盤研究C(課題番号:16K03611,研究代表者:馬欣欣)の研究成果である。本誌2名の査読審査員からは,本稿の研究内容に対して,貴重な示唆やコメントを多数頂いた。また,文献調査と収集に際しては,一橋大学経済研究所の吉田恵理子研究支援推進員及び同資料室から多大な助力を得た。ここに記して謝意を表したい。

(馬・富山大学極東地域研究センター准教授,岩﨑・一橋大学経済研究所教授,2018年8月23日受領,2019年2月8日レフェリーの審査を経て掲載決定)

(注1)  ただし,中国経済に関する研究成果を分析対象の一部とするメタ分析は少なくない。また,本稿と同様に,賃金水準の決定要因をテーマとするメタ分析もいくつか発表されている。その代表例として,Stanley and Jarrell[1998]Jarrell and Stanley[2004]Weichselbaumer and Winter-Ebmer[2005]Longhi,Nijkamp andPoot [2005; 2010],Rodriguez and Muro [2015]を参照のこと。

(注2)  人的資本の賃金効果に関する中国研究の代表的な業績として,李・丁[2003]Heckman and Li [2004]Chen and Hamori[2009]Fang et al. [2012]及びGao and Smyth[2015]を参照されたい。

(注3)  例えば,労働組合が,企業経営者側と定期的に集団交渉を行うことが,賃金水準に重大な影響を与えることは,その典型的な事例である。事実,Mulvey[1986]Crockett and Hall[1987]Christie[1992]Miller and Mulvey[1996]Nahm, Dobbie and MacMillan[2017]の研究成果によれば,組合員の賃金水準は,非組合員よりも7~18パーセント高いのである。

(注4)  中国で展開されている腐敗撲滅キャンペーンは,中国語では「反腐倡廉」と表現されるが,これは,腐敗撲滅と廉政(クリーンな政治)建設の全国運動を意味する。歴史的な視点から見ると,同国では,1949年の建国以来,1950年代初頭の「三反五反運動」等,様々な反腐敗運動が試みられた。しかし,その本格化は,改革開放政策による中国経済の急成長を背景に,党員や官僚の腐敗・不正問題が頻発した1980年代に入ってからである。その後,2013年から,党総書記と国家主席を兼ねた習近平が主導する「虎もハエも同時に叩く」反腐敗運動が行われているのは,周知の通りである。

(注5)  2017年第19回中国共産党大会発表。

(注6)  重慶市共産党委員会書記であった薄熙来及びその家族が関与した英国人実業家殺害事件や不正蓄財等の一連のスキャンダルを指す。2013年9月,薄熙来は,収賄罪,横領罪及び職権濫用罪の理由で,無期懲役の判決を受け,政治的に失脚した。欧米では,この事件は,亡命した側近の名から「王立軍事件」として知られている。

(注7)  詳しくは,本稿第Ⅱ節及び補論Bで改めて論じる。なお,「正真正銘の実証的証拠」が意味するところは,Stanley and Doucouliagos[2012, chapter4]を参照されたい。

(注8)  1949年の中華人民共和国建国以降,同国では,合法的な政党として,中国共産党と民主党派に属する8つの党派が存在している。中国憲法によると,共産党と民主党派との関係は,欧米や日本などの先進国における「与党と野党」の関係ではなく,「執政党(支配政党)と参政党(連立与党や閣外協力)」の関係と見なされている。民主党派は,中国尋問政治協商会議を通じて一部の国政の事務に参与・監督を行うことで,共産党の執政に対する補佐を行う。ただし,民主党派は,国政に参与する過程で,共産党の代わりに国家を指導・支配(執政)する立場を狙うことはできず,あくまで共産党の補佐役としてのみ存在し得る。事実,民主党派各党の綱領には,中国共産党の指導を受け入れるとの文言が含まれている。

(注9)  党規約には,党員となる条件や役割及び基層党組織の設立・運営等も規定されている。なお,現行規約は,2017年に開催された中国共産党第19回全国代表大会において採決され,同年10月24日に施行された中国共産党章程修正版である。

(注10)  新華網ウエブサイト(http://www.xinhuanet.com/politics/2017-06/30/c_1121242479.htm)を参照(2018年6月10日アクセス)。

(注11)  今回文献検索に用いたウエブサイトは,次の通りである。EconLit(http://web.a.ebscohost.com/ehost/search), Web of Science(http://apps.webofknowledge.com), emeraldinsight(https://www.emeraldinsight.com), Sage Journals(http://journals.sagepub.com), ScienceDirect(http://www.sciencedirect.com), Springer Link(https://link.springer.com), Taylor & Francis Online(https://www.tandfonline.com), Wiley Online Library(https://onlinelibrary.wiley.com).

(注12)  最終文献検索作業は,2018年8月に実施した。

(注13)  なお,推定結果が,\(t\) 値ではなく,\(z\) 値を報告し,なおかつ観測値数が極めて限られている場合(本研究の場合,50を判断基準とした)は,自由度を用いて \(t\) 値への変換を行った。

(注14)  Li et al.[2007]は,個人間の異質性を取り除くため,一卵性双生児のデータを用いた実証分析を試みているが,一卵性双生児も完全に同質とは言えないだろう。

(注15)  相関係数の評価基準として広く引用されているCohen基準は,係数値0.3を“small effect”と“medium effect”とを分かつ閾値として,同様に係数値0.5を“medium effect”と“large effect”を区別する閾値に定めている[Cohen 1988]。ただ,同基準は,0次相関係数(zero-order correlation),すなわち,制御変数のない偏相関係数を念頭に設定されたものであり,通常多数の制御変数を用いる経済学分野の実証結果を評価する上ではいささか厳しい。そこで,Doucouliagos[2011]は,この Cohen基準に代わる新一般基準として,労働経済学研究では,0.048,0.112,0.234を,small,medium(moderate),large effectそれぞれの下限閾値に提案している[Doucouliagos 2011, table 3, p.11]

(注16)  標本サイズは,推定結果の統計的有意性に大きく影響する。そこで,多くのメタ研究は,統計学的観点から,自由度の平方根をメタ回帰モデルのコントロール変数に用いている。

(注17)  なお,メタ回帰分析の対象を,研究水準中央値またはそれ以上の文献から抽出した推定結果に限定した場合や,各文献について,党員資格変数とともに同時推定された独立変数の数が中央値またはそれ以上である推定結果に限定した場合も,本節の分析結果と顕著な異同はなかった。これら推定結果の頑健性チェックに関する本誌査読審査員の示唆に感謝する。

(注18)  つまり,メタ固定効果モデルは,\(\delta_\theta^2=0\) を仮定した特殊ケースと見なすことができる。

(注19)  フェイルセーフ数は,効果の有無を判定する標準的有意水準に,研究全体の結合確率水準を導くために追加されるべき平均効果サイズ0の研究数を意味するものであり,(7)式で求められる\(fsN\)の値が大きければ大きい程,結合 \(t\) 値の推定結果はより信頼に値すると評価できる。

(注20)  詳しくは,Stanley[2005]及びStanley and Doucouliagos[2009]を参照のこと。

(注21)  (9)式は,効果サイズを従属変数,標準誤差を独立変数とするメタ回帰モデル   
\[\textrm{effect size}_k=\gamma_0 SE_k+\gamma_1+\varphi_k \qquad\qquad\qquad\qquad\qquad\qquad\qquad\quad\,(\rm{9b})\]
の代替モデルであり,この式の両辺を標準誤差で除したものである。(9b)式の誤差項\(\varphi_k\)は,多くの場合,\(i.i.d.\)(independent and identically distributed)の仮定を満たさないが,(9)式の誤差項\(\epsilon_k=\varphi_k / SE_k\)の分散は均一であるから,最小二乗法で推定することが可能である。なお,(9b)式を,標準誤差の二乗の逆数(\(1/SE_k^2\))を分析的重みとする加重最小二乗法で推定し,帰無仮説: \(\gamma_0=0\)を検定することによっても,公表バイアスⅠ型の検出は可能である [Stanley 2008; Stanley and Doucouliagos 2012]。

(注22)  (11)式の係数\(\gamma_1\)が,公表バイアスを修正した効果サイズの推定値となり得ることは,(11)式の両辺に標準誤差を乗じた式が,   
\[\textrm{effect size}_k=\gamma_0 SE_k^2+\gamma_1+\varphi_k \qquad\qquad\qquad\qquad\qquad\qquad\qquad\;\;\,(\rm{11b})\]
となることから分かる。この(11b)式を直接推定する場合は,\(1/SE_k^2\)を分析的重みとする加重最小二乗法を用いる[Stanley and Doucouliagos 2012]

(注23)  (9)式及び(10)式の推定に当たっては,クラスター法変量効果推定量及びクラスター法固定効果推定量を用いる。他方,定数項を持たない(11)式は,最尤法変量効果モデル及びpopulation-averagedパネルGEEモデルで推定した結果を報告する。

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© 2019 日本貿易振興機構アジア経済研究所
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