アジア経済
Online ISSN : 2434-0537
Print ISSN : 0002-2942
紹介
紹介:末廣昭・田島俊雄・丸川知雄編『中国・新興国ネクサス――新たな世界経済循環――』
東京大学出版会 2018年 v + 369ページ
上垣 彰
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2019 年 60 巻 4 号 p. 81

詳細

本書は,「中国と新興国の経済関係の現状を現場に近い視点から明らかにするとともに,今後の課題を明らかにすること」(10ページ)を目的として書かれた著作である。以下,1章ごとに紹介していくことにしよう。

第1章(伊藤亜聖)は,「一帯一路」構想の概要を時系列的に整理し,さらに,やや詳しい研究サーヴェイを行った後,2013年以降の同構想の動きを,新興国・途上国全般を範囲としてとらえるという視点から検討している。著者は,「一帯一路」が「濃淡ある進展」と「インフラ一辺倒からの多角化の模索」とでもいうべき変貌をみせつつあると結論づける(68ページ)。第2章(丸川知雄)は,「中国との貿易関係が相手国のGDPと製造業にどのような影響を与えているかを統計データをもとに明らかに」(75ページ)したものである。その結論は,新興国の中国向け輸出の伸び率がその国のGDP成長率に小さいながらも有意な正の影響を与えているが,中国の輸出増大は輸入先国の製造業の衰退を招く可能性があるというものである。第3章(末廣昭)は,「中国化」をキーワードに,そのプロセスを,東南アジア地域で検証することを目的としている(100ページ)。全体を総括して著者は「2015年以降になると,中国とASEAN諸国の経済関係は次第に『WIN = WIN』の関係ではなくなりつつある」と主張する(130ページ)。第4章(宮島良明・大泉啓一郎)は,第3章とほぼ同じ題材を扱いながら,より詳細な統計分析に主眼をおいている。興味深いのは,中国からの工業製品の流入がASEAN諸国の工業化におよぼす負の影響を表す指標を計算し,それによってASEAN諸国を3つのグループに分類している点である(157~158ページ)。

第5章から第9章までは,商品・産業部門別の分析がなされている。第5章(李海訓)は,中国の農産物需要の増加が輸入先国(新興国)にどのような影響を与えているかを検討している。第6章(堀井伸浩)は,中国の石炭輸入国としての台頭が国際石炭市場の秩序にもたらしたインパクトを分析している。第7章(丸川知雄)は,中国の鉄鋼超大国化と輸出競争力の強化が,「果たして中国政府の支援策の結果なのか,それとも中国の鉄鋼メーカーの生産性上昇を反映しているのか」(275ページ)という問題に答えようとするものである。著者によれば,後者の可能性を否定できないという(277ページ)。第8章(田島俊雄)は他の章とは異なり,長期的な視野から,中国におけるセメント産業の発展を包括的に描いたものである。本書全体の問題意識との関連では,2012年以降,セメント業界においても「走出法」戦略,すなわちプラント受注や労働輸出を含む国際的展開を提唱する意見が強くなっている状況を紹介している(319ページ)。第9章(丁可・日置史郎)は,生産・流通面での産業高度化の動きは,「中国の産業集積による新興国市場開拓に,どのような影響を与えている」のかという問題に,義烏の雑貨集積と深圳の携帯電話集積とを事例にして,答えようとするものである(326ページ)。終章(丸川知雄)は,直近の米中対立を念頭に,トランプの保護主義への急旋回は,中国・新興国ネクサスを強め,中国の台頭をかえって速めると予想している。

本書は,「一帯一路」戦略を,それ自体としては(第1章を除いて)詳しく論じずに,中国・新興国ネクサスというより広い文脈の中において分析し,そうすることによって中国と世界経済との関係の今後を占おうとするものである。個別産業分野の詳細な分析を含んでいる点が類書にない特質をなしている。なお,「ネクサス」という語は,広汎な研究課題を想起させるうまいネーミングだとは思うが,執筆者全体に浸透しておらず,せっかくの言葉が宙に浮いているきらいがある。

 
© 2019 日本貿易振興機構アジア経済研究所
feedback
Top