アジア経済
Online ISSN : 2434-0537
Print ISSN : 0002-2942
研究ノート
共産党一党独裁体制と大衆組織――ドイモイ期ベトナムにおける女性連合の政治的機能――
石塚 二葉
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2021 年 62 巻 4 号 p. 25-48

詳細
《要 約》

大衆組織は,ベトナムの独立達成の過程において重要な役割を果たし,以後,情勢の変化に応じてさまざまに異なる任務を与えられてきた。しかしながら,いずれの時期においても,大衆組織が社会主義政治システムの基本的な構成要素であり,そのさまざまな活動を通じて共産党一党独裁体制を支えていることに変わりはない。革命や戦争,生産活動などのための大衆動員の必要性が低下したドイモイ期においては,大衆組織は,その構成員の利益を代表したり,構成員の間の相互扶助を促進するなど,一定の民主的ないし開発上の役割を果たすようになっている。このように構成員にとって有用な活動を行うことにより大衆組織は彼らの忠誠心を確保し,党の路線の伝達や当局への情報提供などの伝統的な役割を効果的に果たすことで,政治体制の安定性向上に貢献することが期待されているのである。本稿は,ベトナムで最多の構成員を擁し,最も活動的な大衆組織であるといわれる女性連合に焦点を当てる。その草の根レベルの組織・活動の実態調査を手掛かりとして,女性連合が日常的に多様な任務を遂行していることを示し,ベトナムの社会主義政治体制の安定性に貢献するその能力や直面する課題についての若干の評価を行う。

Abstract

Mass organizations in Vietnam played a key role in the country’s achievement of independence from France, and since then, they have been assigned various tasks in different periods. However, the underlying rationale for their activities has remained essentially unchanged: to support the Communist one-party regime as an integral component of its political system. In the Doi Moi era, when there was decreasing need for mass mobilization for revolution, war, or collective production, mass organizations acquired some seemingly democratic or developmental functions, including representing their members’ interests or promoting mutual help activities among their members. In this way, these organizations are expected to remain relevant to their members and earn their loyalty as well as to continue to play their more traditional roles such as disseminating the Party line and informing the authorities about local situations, thus promoting the stability of the political regime. This paper focuses on the case of Vietnam’s largest and arguably the most active mass organization, the Vietnam Women’s Union. Based on a survey of its grassroots-level units, we attempt to show how it carries out its multiple tasks on a day-to-day basis and what challenges it faces, and provide a preliminary assessment of its ability to contribute to the stability of Vietnam’s socialist political regime.

 はじめに

Ⅰ 共産党一党独裁体制と大衆組織

Ⅱ ベトナムの大衆組織,特に女性連合の役割

Ⅲ ドイモイ期における女性連合の活動の評価

Ⅳ 女性連合の組織・活動の実態――2つの省における調査の結果を中心に

 おわりに――ドイモイ期における女性連合の政治的機能

 はじめに

ベトナムには公式・非公式のさまざまなアソシエーションが存在し,多くの人が参加している。18歳から70歳までの約1万4000人を対象とした2013年のある調査によると,回答者のほぼ半数が少なくともひとつの公式な組織・団体に所属していると回答している[Wells-Dang, Le and Nguyen 2015, 11]。ここで公式な組織・団体とは,共産党,大衆組織,およびその他の公式な社会組織を含む。これらのうち最も多くの人が所属しているのが大衆組織であり,そのなかでも最大の組織が女性連合である。

大衆組織は,党・国家と社会の橋渡し的存在であり,両者の性格を併せもっている。そのことは,「政治社会組織」という大衆組織の正式名称からも窺われる(注1)。大衆組織の幹部は公務員であり,その経常的経費は国庫から支給される。大衆組織の主要な役割のひとつは,共産党および国家の路線や政策を国民各層に浸透させ,その実施のために国民を動員することである。その一方で,現行憲法の規定によれば,大衆組織は自主性を基礎として設立された組織であり,その構成員の権利と利益を代表し,擁護する使命をもつ。大衆組織は,社会各層を代表して,党・国家の路線や政策,立法に対する意見を表明し,また,その構成員の必要に応じて彼らの利益となるような活動を行う。

ドイモイ期にはこのような大衆組織の利益団体ないし自助組織的な側面が強調され,そのような面における大衆組織の有用性,有効性が研究の対象となってきた。しかし,それぞれの時代において大衆組織に与えられる具体的な任務が変化しても,社会主義政治システムの主要な構成要素のひとつとしてのその根本的な位置づけに変化はない。大衆組織は,そのさまざまな活動を通じて,共産党一党独裁体制を支えることを使命としているのである。大衆組織の互助・利益団体的活動は,党・国家の側からみれば,大衆組織が果たすことを期待されている政治的な役割のひとつの具体的な表れということができる。

近年の権威主義体制研究の成果は,権威主義体制におけるさまざまな制度,特に議会や選挙等の民主的制度が,体制の安定・維持に貢献していることを明らかにしている。しかし,このような視点から共産党一党独裁体制における大衆組織の役割を検討した研究は管見の限りでは見当たらない(注2)。そこで本稿では,ベトナム女性連合を事例として,ベトナムの大衆組織が共産党一党独裁体制の安定に貢献する機能をもつことを確認し,そのような機能が今日その日常的な活動のなかでどのように体現されているのかについて検討する。

本稿の構成は以下のとおりである。まず,第Ⅰ節では,共産党一党独裁体制の各発展段階における大衆組織の役割に関する主要な議論を概観する。第Ⅱ節では,女性連合の主要な任務と活動の変遷について,特にドイモイ期に焦点を当てて論じる。第Ⅲ節では,ドイモイ期における女性連合の活動に対する先行研究の評価を概観し,女性連合の政治社会組織としての特性に基づく再評価を試みる。第Ⅳ節では,2つの省の各級女性連合組織を対象に行った調査の結果などをふまえて,今日の女性連合の組織および日常的な活動の様相について論じ,最後に政治社会組織としての女性連合の有効性や課題について簡単な考察を行ってまとめとする。

Ⅰ 共産党一党独裁体制と大衆組織

大衆組織は,共産党一党独裁体制のみに固有のものではないが(注3),共産党一党独裁体制にとってはその政治システムの基本的な構成要素となっている。大衆の組織化と動員は共産主義イデオロギーと密接に結びついており,また,実際に社会主義国家を成立させるための有効な手段となってきた。マルクスは,現代社会の最下層であるプロレタリア階級が結集し,革命によって支配階級となり,搾取や抑圧のない真に平等で自由な社会を実現すると予言した。世界で初めての社会主義国を誕生させた十月革命では,ボリシェビキの指導のもとで労働者・兵士が武装蜂起してソヴィエト政府を樹立した。

ただし,革命が成功して社会主義国家が成立し,「前衛党」である共産党が独裁的な権力を握るようになると,大衆組織の役割や位置づけはそれまでとは変わってくる。Huntington[1970, 38]によれば,革命によって成立する一党独裁体制の制度的発展の各段階において,大衆参加の役割と形態は次のように変化する。まず,第1段階の「変革期」(既存の政治・社会制度の破壊と再建の過程)においては,党は大衆を動員して主要な役割を演じさせる。第2の「確立期」(正統性と権力の根源としての党の至高性確立の過程)に入ると,大衆動員の必要性は減退し,党エリートは大衆参加を促進することへの関心を失う。第3の「適応期」(党の権威に対する合法的・合理的挑戦への対応の過程)になると,主要な政治参加の手段は組織的動員よりも選挙という形態をとることになるという。

このことは,社会主義国家から大衆組織がなくなることを意味しない。確立した社会主義国家においては,むしろそれはルーティン化し,政治システムのひとつの構成要素として,党や国家の政策遂行を補完する準国家的役割を担うようになった。大衆組織は,原則的にそれぞれの対象分野における唯一の組織であり,その分野を独占的に代表する。大衆組織は形式的には自律性をもち,その幹部はその構成員により選ばれることになっているが,実際には国家機関と同様に,幹部候補者は党によって決定される。大衆組織の主要な役割は,党の指導のもとで,党の路線や政策をそれぞれの部門に伝達する「伝導ベルト」(注4)として機能することになる[Kornai 1992, 39-40]。

ただし,この「伝導ベルト」を単に上から下にのみ働くものとみるのは適当でない。大衆組織は,少なくとも名目的には大衆の政治参加のチャネルという性格を保ち,大衆はその活動に「自発的に」参加することを奨励される。これは全体主義的政治体制の特徴のひとつである[Linz 2000, 70]。全体主義的政治体制においては,国民の受動的な服従や無関心は望ましくないものとみなされる。大衆組織は,国民の政治的および社会的任務への参加を媒介し,奨励し,報酬を与える。ただし,参加のチャネルは限定されており,その全体的な目的や方向性は中央によって決定されている。そのような意味において,全体主義国家における大衆組織は,民主的とはいえないが,一種の疑似民主的な制度であると考えられる。

さらに進んで,市場経済化が進展した今日の社会主義諸国における大衆組織の役割については,従来からの継続性を強調する議論と変化を捉えることに力点をおいた議論がある。現代中国やベトナムの国家社会関係を論じるコーポラティズム・アプローチにおいては,伝統的な大衆組織が依然として「伝導ベルト」としての法的・政治的位置づけに規定されていることが指摘されている[石井 2012, Jeong 1997]。他方,現代の大衆組織は,限定的ながらも一定の「市民社会」的性格を有しているという見方もある。例えば,ADB[2011]は大衆組織を「市民社会組織」のひとつの類型と位置づけ,その理由として大衆組織(特に農民会,女性連合,および青年団)が草の根レベルとの強い結びつきと多くの会員をもち,ドイモイ開始以来独立性を高めていることを挙げている。

現代の社会主義国における大衆組織の役割はどのように理解すべきなのだろうか。本稿では,ベトナムの事例を踏まえ,大衆組織の役割は,表面的な活動のレベルでは時代に合わせて変遷しているが,根本的なレベルでは変わっていないと考える。大衆組織が示す「伝導ベルト」と「市民社会組織」という二面性は,市場経済化という環境のもとで共産党一党独裁体制の維持・安定に貢献するための仕組みとして基本的に整合的な理解が可能である。以下では,ベトナムの女性連合の事例から,現代の社会主義体制における疑似民主的制度としての大衆組織の政治的役割とその有効性について検討する。

Ⅱ ベトナムの大衆組織,特に女性連合の役割

1. 大衆組織の法的位置づけ

本稿でベトナムにおける大衆組織というときには,政治社会組織と呼ばれる5つの主要大衆組織にベトナム祖国戦線を加えた計6つの組織を指す。祖国戦線および政治社会組織については,2013年憲法第9条に次のように定められている。

第1項 ベトナム祖国戦線は政治連盟組織であり,政治組織,各政治社会組織,社会組織および各階級,社会階層,民族,宗教,海外在住ベトナム人を代表する個人による自発的連合組織である。

 ベトナム祖国戦線は,人民政権の政治的基礎であり,人民の合法的で正当な権利と利益を代表し,擁護する;全民族の大団結の力を集結し,発揮させ,民主を実現し,社会的合意を強化する;監視および社会的批評を行う;党,国家の建設や,祖国の建設と防衛に貢献する人民対外活動に参加する。

第2項 ベトナム労働総連合,ベトナム農民会,ホーチミン共産青年団,ベトナム女性連合会,ベトナム退役軍人会は,自発性を基礎として設立された政治社会組織であり,それぞれの構成員,会員の合法的で正当な権利と利益を代表し,擁護する;戦線の他の構成組織とともに,ベトナム祖国戦線のもとで協調して統一行動をとる。

上記の憲法の規定が示すように,政治社会組織は特別な政治的役割と位置づけを与えられた社会組織であり,党や国家と同様,その幹部は公務員であり,その給与など経常的な経費は国庫から支給される(注5)。これは,政治社会組織が他の主要な社会組織や職能団体などと区別される点である。ドイモイ期ベトナムには,他にもさまざまな公認された社会組織が存在し,2010年の政府議定45号および首相決定68号は,そのうち重要な機能を果たしている28の組織(商工会議所,作家協会,法律家協会,学生会等)を「特殊な性格をもつ組織」と認定しているが,これらの組織については国家がその経費の一部を補助することとされる(注6)

2. 女性連合の誕生と発展:ドイモイ以前

ドイモイ初期に設立された退役軍人会を除く4つの政治社会組織は,共産党が創設された1930年前後に設立されている。1945年の八月革命では,共産党が1941年に組織したベトナム独立同盟(ベトミン)が全国の主要都市で大衆蜂起を先導し,権力を奪取した。4つの政治社会組織の前身はそれぞれベトミンの主要構成団体であった。

女性連合は1930年10月20日に設立されたとされる。1930年2月に設立された共産党は,その綱領に「男女同権」を掲げ,女性の参加なしには革命闘争に勝利することはできないとして,女性の工会,農会などへの参加を促進するとともに女性自身の大衆組織を創設する方針を提起した。これを受けて誕生したのがインドシナ反帝女性会(女性連合の前身)であったとされる。その後,1936年には民主女性会,1941年には救国女性団が結成された。

女性の組織化が早くから進められたことは,第一義的には女性の解放が共産主義イデオロギーと密接に結びついていることによるが,女性の問題が階級を越えた普遍性をもつことから,女性を組織化することで民族の団結を強化し,支持基盤を急速に拡大するという現実的な目的もあったとみられる[Turley 1972, 796]。八月革命後間もない1946年には,救国女性団は100万人もの団員を擁しており,多数の女性労働者と農民,若干の中産階級の女性や学生が参加していたという[トゥエット 2010, 116]。

ベトナムの社会主義化の初期においては,女性連合は,他の大衆組織とともに土地改革の実施に積極的に参加し,合作社の生産拡大のための運動を展開した。1961年には「団結して生産と節約をよく行う。政策をよく実行する。管理によく参加する。政治と文化をよく学習する。家庭の建設と子どもの養育をよく行う」を内容とする「ナムトット(5つの「よく」)」運動が発動された。新聞は女性農民や労働者が作業の能率を上げ,生産量を増大させ,計画を超過達成したことを伝える記事を掲載した。1963年には5万人以上,64年には6万人以上の女性が「ナムトット女性」に認定されたという[トゥエット 2010, 154-156]。

また,八月革命後も,全国土の独立・統一を達成するまで,約30年にわたる抗仏,抗米戦争を戦ったベトナムでは,大衆組織は,戦闘および銃後の生産活動への大衆動員にも大きく貢献した。実際,抗仏・抗米戦争期を通じて,社会における女性の役割は格段に大きくなった。Werner[1981, 172-173]によれば,1946年時点では,女性は政治分野においては実質的に何の役割も果たしておらず,労働参加率も非常に低かったという。党は,1960年,指導的地位の30%に女性を登用するという目標を掲げた。また,1967年には,あらゆる分野における女性の参加拡大を指示する中央委員会決議を公布し,党,国家,大衆組織が女性幹部の訓練と登用の加速を最優先するよう促した[Werner 1981, 175-176]。

女性連合によるキャンペーンはこのような政策の実施を支えた。その最も有名なものが1965年に発動された「バーダムダン(3つの担当)」運動である。3つの担当とは,①戦闘に行く男性に代わって生産と活動を担当する,②家庭を担当し,夫や子どもや兄弟を戦闘に行くよう激励する,③戦闘奉仕を担当し,戦闘に備える,というものである[トゥエット 2010, 210]。このような運動は,地方レベルでより具体的なキャンペーンや競争運動(「農業競争戦士」,「片手に銃,片手に鋤」運動など)として展開され,社級や集落レベルの女性連合幹部が中心となって女性たちをそれらの運動に動員した[Werner 2009, 36]。農村管理活動に参加する女性も増加した。女性連合はまた,北ベトナムおよび南ベトナムの解放地区で女性幹部養成のための訓練を行った[Eisen 1984, 122]。

1972~75年頃には,集団農業や公衆衛生,教育の分野では労働力に占める女性の割合は約6割に達し,軽工業分野では65~66%にも達した。また,政治行政分野でも,1969~70年には全国会議員のなかで女性議員は約3割を占め,県レベルや社レベルの人民委員会では構成員の約4割が女性であったという[Werner 1981, 172-173]。

戦時中に女性が獲得した社会的地位は,しかしながら,戦争が終わると復員してきた男性によって一部は取り返された。女性の社会参加・政治参加への動員に対する党の熱意は後退し,むしろ家庭における女性の重要な役割が強調されるようになった。1976年に採用された女性連合のスローガンは,「国家の仕事をよくし,家庭の仕事を担い,男女平等の実現に努める」であった[Werner 1981, 187-188]。

3. ドイモイ期の大衆組織と女性連合

ドイモイは,政治的には共産党一党独裁体制を堅持しながらの市場経済化とも要約されるが,さまざまな面における政治改革が行われてこなかったわけではない。ドイモイ初期の党書記長グエン・ヴァン・リンは,経済の疲弊と社会の混乱によって失われた国民の信頼を回復し,ドイモイ路線を確立・推進するために,限定的ではあるが,国会やメディアの活性化など,より多様な意見を党・国家の政策や行政に反映させることを目指す一連の措置を導入した。その改革のアジェンダには大衆組織の活性化も含まれていた。

大衆組織の組織・活動の刷新には,大きく2つの方向性がみられる。第1に,民意を吸い上げ,下から上へ伝達するという大衆組織の機能が改めて強調されるようになった(注7)。それに伴い,市場経済化によって生まれる,既存のカテゴリーに収まらない社会グループを包摂すべく,一部の大衆組織のメンバーシップの拡大や目的の修正が行われた。また,限定的ながら,例えば幹部の選出をよりオープンで競争的な方法で行うなど,大衆組織自体の運営や意思決定をより民主的なものにしようという動きも現れてきた[Porter 1993. 92]。

第2に,各大衆組織がそれぞれの対象グループの必要に応じてそのメンバーを支援することが強調されるようになった。1990年3月27日付の第6期第8回中央委員会「党の大衆工作の刷新および党と人民の関係強化に関する決議」は,国民の愛国心を高め,国家に対する義務を十全に果たさせる前提として,大衆組織がその構成員の切実な物質的精神的利益への要求に応え,その正当な利益を守るべく活動内容を刷新することが必要であるとしている。

以下では,これらの2つの方向性に沿って,ドイモイ期の女性連合の主要な活動を概観する。まず,女性関連政策や立法への関与である。ドイモイ憲法と呼ばれる1992年憲法制定の翌1993年には,女性に関する政策提言,政策の普及および実施のモニタリングに携わる最高位の国家機関として,「ベトナム女性の地位向上のための国家委員会(National Committee for the Advancement of Women: NCFAW)という機関が設立されている(注8)。1985年の同委員会の前身組織(「ベトナム婦人の10年に関する国家委員会」)の設立から2008年までは,その委員長は女性連合主席が務め,事務局は女性連合に置かれていた。2008年に労働・傷病兵・社会省内にジェンダー平等局が設置されてからは,NCFAWの委員長は同省大臣が務めることとなったが,2人の副委員長を女性連合主席と同省次官が務めている。

実際に,ドイモイ期に入って,女性関連の重要な法律の制定も進んできた。2006年には「ジェンダー平等法」,2007年には「家庭内暴力防止管理法」,2011年には「人身売買防止法」が成立した。特に「ジェンダー平等法」の制定にあたっては,女性連合主席が起草委員会の委員長に任命されている。女性連合は,アジア開発銀行による同法制定および関連の法改正支援のための37万ドルの技術協力プロジェクトの実施機関ともなり,法案作成に中心的な役割を果たしたとされる[Froimovich et al. 2013(注9)

より最近では,2013年,「ベトナム祖国戦線および各政治社会団体による監視と社会的批評」に関する規定が党中央委員会217号決定により公布された。ここで監視とは,党・国家機関や党員・公務員個人による党の方針,路線や国家の政策,法律の実現・執行に対するモニタリングのことであり,社会的批評とは,党の方針,路線や国家の政策,法律の草案を検討し,意見を述べることである。党は近年,高級幹部を含む党員の腐敗が世論の批判を招き,陳情や告訴,デモなどの増加にもつながっていることを認識しており,国民の党への信頼を回復することを目指している。大衆組織による監視と社会的批評の実施は,党・国家による政策の立案および実施に国民の声をよりよく反映させるための試みであると考えられる。

217号決定に基づき,女性連合は,2013年~2018年の間に民法,刑法,婚姻家族法,児童法などの重要な法律の改正や制定にあたって意見を述べてきた(注10)。また,2017年の女性連合の活動報告書によれば,同年,女性連合は,18の法案,7つの議定,通知の草案などに対して提言を行い,その一部は実際に採用されたという[Hội Liên hiệp phụ nữ Việt Nam 2018, 5(注11)

次に,女性連合によるその会員への支援活動についてみていく。ドイモイ期に入ると,国有企業の整理によって多くの女性が職を失ったことや,農業の非集団化などを通じて家族が再び経済の基礎単位として現れてきたことなどを背景に,女性連合のキャンペーンも家族および家族経済を支える女性の役割に重点を置くようになってきた。1989年,女性連合は,「女性は助け合って家族経済活動を行う」,「子どもをよく養育し,低栄養や就学放棄を減少させる」運動を発動した。また,党は,市場経済化に伴う負の面である賭博,麻薬,売春などの社会悪の増加がもたらす文化的な衰退から社会を防衛するため,1994年,ベトナムの醇風美俗を守る「文化的家族」を促進するキャンペーンを開始した。これに呼応して,女性連合も「文明的で幸福な家族」運動を発動している(注12)

女性連合は,模範的な家族や女性を顕彰する一方,厳しい状況に置かれた女性,家族を対象に,生活費の援助や就労,起業のための支援などを行っている。コミュニティレベルの互助や慈善活動は伝統的に女性連合が行ってきた活動であるが,ドイモイ期には,女性連合は,国や外国政府・開発援助機関の貧困削減・小規模融資プログラムの実施を請け負う形で,資金を必要とするより多くの女性に対し,より体系的な形での融資活動を行うようになった[Sakata 2006, 坂田 2015]。その代表的なものは,ベトナム社会政策銀行の資金による融資プログラムである。2002年の政府議定78号は,社会政策銀行が大衆組織に対して融資の実施を委託できることを定めた。近年では,同銀行の融資の100%近くが女性連合,農民会,退役軍人会,青年団の4つの大衆組織を通じて供与されており,なかでも女性連合が4割程度を占めて最大となっているという[Minh Ngọc và Thùy Trang 2017]。

さらに近年では,女性連合は,女性指導者や管理者,知識人,経営者などの能力向上や顕彰にも力を入れ,国家の重要な人材としての女性の潜在力を高め,これを活用することを目標としている(注13)。2017年6月には,「2017年から2025年における女性の起業支援」プロジェクトが首相決定939号により公布された。同プロジェクトは,2025年までに2万人の女性起業家を支援し,女性によって新規設立された10万社の企業に対しコンサルテーションや支援を提供することなどを謳っている。女性連合はこのプロジェクトの提案者であり,その実施に責任を負うこととされている(注14)

Ⅲ ドイモイ期における女性連合の活動の評価

1. 先行研究による評価

以上のようなドイモイ期における女性連合の活動について,先行研究でどのような評価がなされてきたかを次に検討する。

まず,立法や政策提言にかかる女性連合の活動に関しては,特にジェンダー論の立場から,一定の評価と批判がなされている。女性の問題を団結と集団行動により解決するための組織としての女性連合の有効性を検討するWaibel and Gluck[2013, 358]は,1990年代以降,女性連合はベトナムのジェンダー主流化のアジェンダにおいて主要な役割を担っており,その成果は最近のジェンダー関連のさまざまな統計にも表れていると認める。他方,女性連合は歴史的に政府の政策を実施する役割をもち,政治的緊張や対立を避け,ジェンダーの不平等を権力関係として捉えることを避ける傾向がある。女性連合はむしろ国家と家族に対する女性の二重の責任を強調し,家族関係においては女性の自己犠牲と夫,父,息子に対する服従を奨励するなど,公私の領域の分断と伝統的なジェンダー規範を維持しており,ジェンダー・アドボカシーのロール・モデルとは言い難いと批判する。

Pistor and Le Thi Quy[2014, 103-105]は,法令上に規定された政府への助言を行う権限や,多くの会員を擁する全国的な組織という性格からいって,女性連合がこの分野において有する潜在的な影響力行使の可能性は高いと述べる。しかし,実際には女性連合は党や政府に対して従属的であり,政治的意思決定プロセスにおける女性連合の介入の余地は限定的であると指摘する。

Pistor and Le Thi Quy[2014, 99-100, 105-106]はまた,特に2000年半ば以降,ジェンダー分野でも非政府組織(注15)の活動が活発になり,これらの組織のネットワークも生まれてきていることに注意を喚起する。家庭内暴力や人身売買などの新しいイシューに関しては,これらを政策課題として取り上げること自体ベトナム社会においては不適切であるとして,当初は女性連合幹部やNGO関係者の間でさえ抵抗があった。しかし,一部のNGOはこれらのタブー視されたイシューを取り上げて粘り強くアドボカシー活動を行い,政府にもそれらを政策課題として認めさせることに成功した。このように重要性を増すNGOであるが,女性連合の大きなプレゼンスと比べると,その存在感は薄い。女性連合とNGOの協力関係の構築も模索されているが,そのような努力は女性連合がNGOの活動を監視する機能をも有しているところからくる躊躇と不信に妨げられているという。

次に,貧困女性・家庭に対する支援という面における女性連合の役割に関しては,さまざまな留保付きではあるが,比較的積極的な評価がなされているようである。Sakata[2006]は,女性連合というよりも大衆組織一般に対する評価ではあるが,大衆組織はそれぞれの地域に密着した草の根レベルの組織の全国ネットワークをもつ点で他に匹敵するものがなく,貧困世帯の特定やその貧困削減プログラムへの参加を促進する上で強みをもつと認める。また,大衆組織の党・政府との密接な関係は,政府の貧困削減政策に関する情報をその対象者に伝達するために有利であるともみられる。他方,大衆組織の活動はトップダウンで横のつながりが弱く,貧困層の真のニーズをくみ上げる能力には疑問があることや,「政治社会組織」である大衆組織が銀行の委託を受けて与信行為に携わることが適当かどうかといった問題も指摘する。

Waibel and Gluck[2013]も,女性連合の貧困削減その他の開発プログラムへの関与に関し,女性の実際的なニーズを満たすことのみに照準を合わせており,女性が自ら問題提起を行ったりジェンダーの不平等の問題に挑戦したりすることを支援していないなどの批判もあると指摘している。他方,このような活動は,女性の連帯と動員という目的からみれば一定程度の成功を収めており,また実際に女性の家族計画や健康教育へのアクセスを可能にしたり,その生産活動の成果の向上やリーダーとしての能力開発などにも貢献してきたと評価する。

理論的,組織的な問題や制約はあるとしても,実際に女性連合の草の根レベルの組織がそれぞれ熱心に活動し,地域の利益を実現しているという観察も少なくない[古田 2017, 222]。Pistor and Le Thi Quy[2014, 103]は,女性連合はコミュニティレベルで活発に活動しており,特に少数民族の女性や農村部の貧しい女性への支援活動に関して高く評価されていると述べている。岩井[2012, 22]は,国家主導で住民組織化が推進されている新経済村でも,集落レベルの女性連合組織は,それぞれの地域における「共通のニーズ」,すなわち生活を安定・向上させるために必要な共同行動を組織原理としていると論じる。

2. 「政治社会組織」としての女性連合

先行研究は,主として女性のための互助・利益団体としての女性連合の主要な活動に焦点を当て,その有用性,有効性を評価してきた。このような視点からは,女性連合の党・国家とのつながりは,時にその「果たすべき役割」を十全に果たす上での制約ともなっていることが示唆されている。

しかし,女性連合は女性のための組織である以前に党・国家のための組織であるとすると,その「果たすべき役割」の理解も異なってくる。女性連合は,ベトナムの政治システムの一構成要素である大衆組織のひとつとして,ベトナムの一党独裁体制の安定と持続のために一定の役割を期待されていると考えられる。それは,憲法や女性連合条例に規定されているように,党の路線や国家の政策のもとに国民(女性)を団結させ,その実現のために彼らを動員することである。言い換えれば,国土の防衛から経済発展,醇風美俗の擁護まで,党・国家のさまざまな事業への女性の参加を促進し,媒介することである。その手段は必ずしも直接的で明快なプロパガンダなどには限られない。大衆組織は,その党・国家と社会の中間的な性格から,多様な手段を通じてその目的に貢献する可能性がある。

例えば,女性連合が女性の利益代表として政策形成や立法過程にインプットを行うことは,女性に意見表明の機会を提供すると同時に,その利益や選好を一定程度国家の統治に反映させ,結果として統治の質や体制の正統性を高める効果をもつことが期待される。女性連合は,その主張の保守性や党・国家への従属が,しばしばジェンダー論の立場から指摘され,批判を受けてきた[Weibel and Gluck 2013, Pistor and Le Thi Quy 2014]。しかし,むしろそのような性格の団体であるからこそ,党・国家との間で緊張・対立関係を生じることなく,女性の権利・利益の主張を一定程度その方針や政策に反映させることが可能となってきたともいえる。また,会員に対する貧困削減政策の適用による支援は,女性の利益のための活動であるとともに,彼女らを国家の政策遂行に参加させるという意味をもち,ひいては対象女性の愛国心や党・国家への忠誠心を向上させるという効果も期待される。

また,女性連合は,女性の利益に直結するものではなく,既存研究ではあまり触れられていないが,政治的には重要性が高い任務を日々果たしている。例えば,コミュニティの安定や秩序の維持のための任務である。基礎レベルの女性会幹部のためのハンドブックによれば,女性会支部やグループ(これらの組織の名称については次節参照)の任務として,会の活動に女性を積極的に参加させることや会員の生活の質を向上させることなどとならび,第1に掲げられているのは,「女性,会員の思想状況を適時に把握し,大勢による上級への訴えが起こったり,ホットスポット(社会に緊張や不安定を生じさせる事件や現象――筆者注)が生じたりすることを防止する」ことである[BTC-TWHLHPNVN 2011, 17]。

同ハンドブックには,女性会の仕事のなかで遭遇することが想定される事例と対処法についても示されている。例えば,ある地方で,「国連が難民認定してくれれば働かなくても生活でき,アメリカに移住できる可能性もある」という理由で,少数民族の住民が土地や家を売って中部高原に移住するという現象がみられるとき,このような誤った情報に基づく移住などの行為を阻止するために,女性会主席は何をすべきか,という設問がある[BTC-TWHLHPNVN 2011, 56]。同ハンドブックによれば,このような場合,女性会主席は,他の大衆組織と協力して,住民に対して少数民族に対する党や国の路線,政策を説明し,敵対勢力の甘言に騙されないよう説得することや,扇動行為を行う者を発見して公安に報告することなどが求められる(注16)

このような情報収集や説得などの有効性は,草の根レベルの女性会幹部が日常的に会員と接触し,会員との間の信頼関係を築くことによって支えられていると考えられる。Kato[2016]は,中部ハティン省タックチャウ社のある女性会支部が,党・国家のディスコースに限定されながらも,地域の女性の精神的な「分かち合い」の場として機能している事例を紹介している。この地域では,特殊な歴史的事情から,女性会がほぼ唯一の女性のための社会組織となっていることが,同女性会が比較的有効に機能できているひとつの理由と考えられている。岩井[2012]も,開拓移民の村落という若干特殊な状況において,女性会などの大衆組織が,それぞれの地域で住民のニーズに基づく活動を行うことでその支持を得ていることを示している。

政治的観点からみた女性連合の活動の有効性は,少なからずこのような草の根レベルの組織・幹部の活動にかかっていると考えられる。すなわち,女性連合が女性の参加を促進し,媒介する役割を果たすためには,コミュニティレベルの女性連合の組織・幹部が多くの女性に支持されて活発に活動を行っていることが重要である。そこで次節では,そのような観点から女性連合の能力を評価する手掛かりとして,今日の女性連合がベトナム社会のなかでどのような存在感をもち,どのように日常的な活動を行っているのかについて検討する。

Ⅳ 女性連合の組織・活動の実態――2つの省における調査の結果を中心に

まず,女性連合の全体像について概説すると,2017年3月に開催された第12回全国女性代表者大会(以下,女性大会)の文献によれば,女性連合の会員数は約1700万人であり,これは入会資格のある18歳以上の女性の総数約2217万人の77%弱に当たる。これは,少なくとも制度上は任意加入が前提の組織としては,非常に高い組織率である。世帯数でみると,国内の全世帯のうち,少なくとも1人の女性連合会員がいる世帯はほぼ8割に達している。会員のうち,少数民族は約160万人,宗教をもつ会員も約160万人と,多様な社会グループを包含することにも成功している。年齢構成としては,31~59歳が全体の5割強,30歳以下が3割弱,60歳以上が2割強となっている(注17)

女性連合の組織(図1)は各級行政単位に置かれるほか,軍と公安にはそれぞれ別の組織が置かれている。また,女性公務員は自動的に女性連合の会員となるが,彼女らは地方レベルの女性連合組織には属さず,それぞれの職場の労働組合の女性部として活動している(注18)。省級から社級(基礎レベル)までの女性組織は「女性会」と呼ばれ,さらにその下の集落レベルに女性会支部(chi hội),そのなかに女性会グループ(tổ hội)が置かれる。

図1 女性連合の組織

(出所)HLHPN[2017]などに基づき筆者作成。

(注1)県級女性会の単位数については,2017年時点の県級行政単位の数を用いた。

女性連合の組織は基本的に共産党の組織に似ており,中央から社級までの女性連合組織は5年に1度会員の大会を開催し(中央レベルでは党大会の翌年),幹部の選出や活動の基本方針の決定を行う。下級の組織は上級の組織の方針,政策を執行し,上級の組織に報告を行い,その指導監督に服する。その意味では,まさに巨大なピラミッド型組織であるが,その実際の運営は(女性連合組織内に限れば)それほど中央集権的ではないようである。というのも,各級女性連合組織は,幹部人事に関しては同級の党委の方針に従い,幹部の給与などの財政資源に関しては同級人民委員会の予算に依存し,さまざまな活動においても上級女性連合組織に加えて同級の党委や人民委員会の指導を仰ぐべき場合が少なくないからである。別の言い方をすれば,下級女性連合組織は,上級組織が提示する全体的な方向性や基本的な枠組みのなかで,党幹部や国家機関と協力しながら,それぞれの地域の実情に応じた具体的な執行方法を模索し,工夫することが要請されているのである。

そこで,次に,筆者らがベトナムの非政府組織である環境・コミュニティ研究センターに委託して行った各級女性連合の組織・活動に関する調査の結果から,特に末端の女性会支部の活動の実態についてみていきたい。この調査では,北部バクザン省と中部ダクラク省の16の女性会支部を対象に,質問票に基づく聞き取り調査を行った。16の支部の立地は都市部と農村部を含んでおり(注19),住民の職業や民族による構成もさまざまである。

ここでは,地域の社会経済情勢および女性の状況についての質問,女性会支部の会員数についての質問,2012年以来のおもな政策,活動についての質問の3つに主として着目し,それらへの回答から看取される特徴を挙げてみる。なお,これらの質問に対する16支部の回答については付表を参照されたい。

付表1 16の女性会支部の組織と活動の概要調査結果

まず,社会経済情勢および女性の状況についての質問は,「あなたの地域の全般的な社会経済情勢および女性の状況について教えてください」というものであった。これは,それぞれの支部の活動がどのようにその地域の特性に応じたものになっているかを判断する目安になることを期待して設定された質問である。これに対する回答では,実際に大まかな所得レベルや職業構成を答えてくれたものも多かったが,それ以上に目立ったのが地域の治安の状況や麻薬,賭博などの「社会悪」の有無について言及した回答であった。これは,先にみたように,地方レベルの女性連合幹部が,地域社会における不安定要因を察知し,適宜対処や報告を行うことが求められていることを反映していると思われる。

各支部の回答内容をみると,概して社会経済状況や治安は安定ないし改善しているとしている。これは,調査への協力が得られた支部というのは基本的に「問題のない」支部であろうと思われること,また,上級への報告でなく外部者による学術的調査に対する回答であるということから,想定の範囲内の結果であるともいえる。ただし,各級女性連合組織が上級に提出した活動報告をみると,もう少し具体的に問題のある状況に触れているものもある。例えば,バクザン省バクザン市の2018年度の報告書では,老朽集合住宅からの移転の対象となった住民の間に移転先の住宅の質に関する不安があること,ダクラク省ブオンマトゥォット市の2016年の報告書では,少数民族や小商人の女性が集団で訴えを起こす動きがあることなどを報告している。

第2に,会員数および組織率についての質問では,入会資格のある18歳以上の女性の人口について回答を得られた支部はほとんどなかったが,いくつかの支部は,会員のすべてが会費を払っているわけではないことに言及している(I,M,N)。会費を払わない理由には触れられていない。なかには貧しくて会費の負担が重いという人もいるかもしれないが,女性連合の会費は月1000ドン(約5円)という名目的なものである(注20)。会費を払わない会員の多くは,むしろ形式的には会員になっても積極的に活動には参加しない会員,あるいは仕事などで忙しくて参加できない会員なのであろうと考えられる。I支部やM支部では,会費を払っているのは,会員の半数弱にすぎないという。

他の支部のなかにも,あまり活動に参加しない会員がいることを認めているものがある。活動に当たって困難なことについて尋ねた別の質問項目に対する回答のなかで,A支部は,会員の多くは高齢であったり多忙であったりして,活動のほとんどは会員数の2割程度の「中核会員(コアメンバー)」頼みであると述べている。程度の差はあれ,同様の問題を指摘している支部は少なくない。一般に参加のレベルが低いのは,高齢者と企業(工場など)に勤めている若い女性であるとみられる。この2つのグループは,そもそも女性連合の会員でないか,会員であったとしても実質的にあまり活動に参加しない(できない)傾向があるようである。

第3に,調査の結果からは,女性連合の活動は,末端レベルではさまざまに創意工夫を交えて実行されているとしても,基本的な枠組みはどの支部でもあまり変わらず,むしろ相当程度統一性が高いという印象を受ける。ほぼすべての支部が,貧しい女性や病気の女性,子どもなどに対する支援などの慈善活動,会員への経済活動資金の融資などの貧困削減活動,清掃やゴミの収集・分類,花を植えるなどのコミュニティ環境活動,バレーボールや文芸イベントの開催などの文化・交流活動などを行っている。これらの活動には,省の違いや都市部,農村部による違いというのはあまりみて取ることができない。もうひとついえることは,以上のような活動に加えて,国家の政策・法律の知識普及や,政策案に対する意見の陳述から,和解組の構成員としての活動,社級行政機関の下請けとしてのさまざまな調査の実施まで,末端の女性会支部の活動は非常に多岐にわたり,これを遂行するには相当の能力と熱意を必要とするであろうと思われることである。

そして第4に,上記のようなさまざまな活動は,相当程度,幹部および会員の「自発的」な奉仕により支えられているようにみえる。社会政策銀行やドナーの小規模融資プログラムなどを主要な例外として,女性会支部のほとんどの活動は,幹部および会員が自ら資金を拠出し,あるいは活動を通じて獲得し,あるいは政府機関や企業などと交渉して支援を引き出すことでその費用が賄われている。実際,これも活動にあたって困難なこととして多くの支部が挙げている点である。

I支部の支部長は,困難な点として端的に「おもに発動(動員)するだけで,資金がない。給付金が低すぎる。支部長のみ月額26万8000ドン。その他の幹部は何らの手当もない。」と述べている。幹部への手当に関する質問項目はなかったが,支部長のみが社級政府の予算から手当を支給されることは,他の支部も同様であると思われる。調査対象支部のなかでは唯一N支部が,支部長に社予算から月27万ドンの手当が出る以外に,副支部長(1名)には支部の基金から月10万ドン,グループ長には(これも恐らく支部で行っている)「米櫃貯蓄」基金から月5万ドンが支給されることを明らかにしているが,他の支部については同様の制度があるかどうかは不明である。また,支部長の手当の額についても,社級予算によって決まるため,一律ではない。支部長の手当について回答に記述があったなかでは,この額が最も低いのはH支部の月額18万ドン(約900円)であり,最も高いのはJ支部の同28万ドン(約1400円)であった(注21)

大衆組織の末端レベルの「実働部隊」が資金不足に悩まされていることについては,Nguyễn Đức Thành et al.[2015]も指摘している。彼らは,大衆組織(「特殊な性格をもつ組織」を含む)が,その特殊な位置づけから,国庫からの巨額の補助と多くの政策的優遇を享受していることを推計に基づき明らかにしている。他方,これらの組織の内部をみると,中央および省レベルでは財政上の困難があまりないのに対し,県レベル以下では財政的制約がその効果的な活動を妨げているとし,各級への支出の配分は効果的でも公平でもない,なぜなら,多く働く者が少ししか受け取らないのに,あまり働かない者が多く受け取っているからであると述べている[Nguyễn Đức Thành et al. 2015, 103]。

 おわりに――ドイモイ期における女性連合の政治的機能

ドイモイ期の女性連合は,女性の権利・利益を代表し,擁護する団体として,女性のためのさまざまな活動を行っている。女性連合は,党や国家の政策形成・執行に関し女性を代表して意見を述べる一方,その会員が困難を克服し,各自の能力を発揮するための支援を提供してきた。また,その草の根レベルでの熱心な活動や,女性特有のさまざまな問題への取組みは,一般に比較的高い評価を得ている。特に農村における小規模融資などを通じた貧困削減への取組みは,女性連合が主要な成果を上げてきた分野として認知度が高い。

しかしながら,党・国家の側からみれば,女性連合は「政治社会組織」のひとつであり,その根本的な目的は,女性大衆の団結と体制への忠誠を確保・強化することである。女性連合は,党・国家の政策に一定程度女性の利益を反映させる一方,党の路線や国家の政策に関する情報を会員に伝え,彼らを動員してその執行に協力する。また,末端レベルまで張り巡らされたネットワークを通じて人々の思想や生活の動向に注意を払い,社会の安定や秩序に対する脅威の兆候を把握しようと努める。そのような機能の有効性を支えているのが,女性たちの参加を媒介する基礎レベルの女性会組織の日常的な活動である。

実際,草の根レベルの女性会幹部は慈善,文化,環境保護等々,地域に密着した多様な活動を献身的にこなしている。社会経済活動の自由化が相当程度進んだ今日のベトナムにおいても,その組織力,動員力を等閑視することはできない。他方,女性連合の組織・活動の内実には課題も少なくないようである。女性連合は大衆組織のうちでも最大の会員数を誇り,18歳以上の女性の8割近くを組織しているとされるが,そのなかにはかなりの割合で形ばかりの会員が含まれているとみられる。農村部でも,工場などに働きに行く若い女性は,女性連合の活動に参加する時間も関心も失っている。末端レベルの幹部は,十分な資源を与えられないまま行政事務の補助などを含む多くの仕事を割り振られてフラストレーションを募らせている。草の根レベルの女性連合の活動の有効性や会員の忠誠心のレベルには少なからず地域差があることが推測される。女性連合の組織力を過大評価することもまた現実的ではないと思われる。

(アジア経済研究所 新領域研究センター,2019年3月14日受領,2021年10月15日レフェリーの審査を経て掲載決定)

(注1)  ただし,後述のように,本稿でいう大衆組織に含む祖国戦線は,政治社会組織にとって上部団体に当たり,政治社会組織以外に政治組織(共産党),社会組織などをもその構成員とする「政治連盟組織」とされる。

(注2)  ベトナムに関する研究では,London[2014]がさまざまな角度からベトナムの共産党体制の強靭性を検討しているが,大衆組織については「この本には大衆組織を直接分析の対象にした章はないが,その重要性は各章にみられるさまざまな言及からも理解される」[London 2014, 11]と述べている。

(注3)  大衆組織は,むしろ共産主義体制を含む全体主義体制一般に特徴的な制度であるとみられる(Linz 2000, 3)。

(注4)  「伝導ベルト」としての大衆組織の位置づけについては,スターリンが「レーニン主義の諸問題によせて」(1926年)で論じている。

(注5)  予算法第4条第6項は,「経常支出とは,国家機構や政治組織,政治社会組織の活動を保障し,その他の組織の活動を補助…することを目的とする国家予算の支出である」とする。

(注6)  28組織のリストについては,石塚[2018]参照。これらの組織も,実質的には大衆組織の性格をもつといえる。

(注7)  大衆組織が党の意向を大衆に一方的に伝達する上意下達の組織になってしまい,大衆の意見を党に伝える役割を果たしていないことが批判された[Porter 1993, 90]。

(注8)  現行規定によれば,同委員会の構成員は,関係省庁や大衆組織の副大臣級幹部20余名である。

(注9)  その他の重要な立法上の成果のひとつとして,2003年の土地法改正において,土地使用権が夫婦共有であるときは土地使用権証書に夫婦の氏名をともに記入することが明記された。Werner[2002, 36]によれば,1993年土地法より土地使用権証書の交付が始まったが,女性連合は,土地使用権証書が多くの場合世帯の長である男性の名前で発行されていることに気づき,これを両性の名前で発行させるためのキャンペーンを始めたという。2003年の土地法改正における同規定の実現には,このような運動も寄与していたかもしれない。ただし,2003年土地法改正に関する世銀の支援についての記事[Zakout 2016]では,女性連合については触れられていない。

(注10)  “Renovating the Party’s leadership, a decisive factor to the successes of the Vietnam Women’s Union in women mobilization,” Tạp chí Cộng sản誌, 2019年5月10日(http://english.tapchicongsan.org.vn/Home/Culture-Society/2019/1197/Renovating-the-Partys-leadership-a-decisive-factor-to-the-successes-of-the.aspx, 2019年8月28日アクセス)。

(注11)  女性連合の提言が実際に採用された例として,2017年法律扶助法改正で,法律扶助の対象に家庭内暴力の被害者が含まれたことが挙げられている。

(注12)  このスローガンは現在も用いられており,そのもとでさまざまな具体的なキャンペーンや競争運動が展開されている。「文明的で幸福」の基準も多岐にわたるが,Werner(2009, 59)によれば,その主たる内容は,家族計画を実行しており,家族経済が成功しており,子どもがよくしつけられていることなどである。より具体的には,世帯の生活水準が向上し,家族の構成員全員がよく働き,社会に貢献し,互いに愛し合い,夫はギャンブルや買春などの社会悪に染まらず,子どもはよく面倒をみられ,学校に通っていることなどが,キャンペーンの掲げる模範的家族像である。

(注13)  “Renovating the Party’s leadership, a decisive factor to the successes of the Vietnam Women’s Union in women mobilization,” Tạp chí Cộng sản 誌, 2019年5月10日(http://english.tapchicongsan.org.vn/Home/Culture-Society/2019/1197/Renovating-the-Partys-leadership-a-decisive-factor-to-the-successes-of-the.aspx, 2019年8月28日アクセス)。

(注14)  “Vietnamese female entrepreneurs empowered,” Mekong Woman in Business, 2017年10月12日(http://mekongwomeninbusiness.org/2017/10/vietnamese-female-entrepreneurs-empowered/, 2019年8月28日アクセス)。

(注15)  ベトナムでは完全に自律的な非政府組織は存在せず,すべての組織はいずれかの公的機関の下に登録することを義務づけられ,その活動分野も限定されている。しかしながら,このような形であっても実際には一定の独立性をもって主体的に活動する組織が次第に増えている[Wells-Dang 2012]。

(注16)  このような役割は,例えば,2017年,ゲアン省における抗議活動に対して示された大衆組織の反応に表れている。中部ハティン省では,2016年,台湾系企業フォルモサ・ハティン・スティール社による大規模な海洋環境汚染事件が発生した。隣接するゲアン省では,漁民が多数を占めるカトリックのコミュニティで,カトリック聖職者らが漁民を支援して,フォルモサ社や政府に対し正当な補償などを要求した。このような動きに対し,女性連合を含む大衆組織は,数千人を動員した集会で,これらのカトリック聖職者らは民族の団結を損なおうとする反動分子であると糾弾した(“Nghệ An: Hội phụ nữ 'phản đối linh mục Nam',” BBC ベトナム語版, 2017年5月8日)。

(注17)  ただし,資料では各年齢層の人数の合計が会員総数よりも300万人余りも少ない。

(注18)  また,女性連合には「会員組織」と呼ばれる組織が2つある。2011年設立の「ベトナム女性知識人会」と2014年設立の「ベトナム女性経営者協会」である。その会員は女性連合会員とはされていないが,女性連合と協力関係にあるものと思われる。2017年の女性大会文献によれば,会員数はそれぞれ2706人と2810人である。

(注19)  ベトナムの地方行政システムは省級,県級,社級に分かれており,それぞれ省級には省と市,県級には省直属市,郡,市社,県があり,社級には坊,市鎮,社がある。このうち,県級の県,社級の社は農村部に分類される。

(注20)  女性連合の財政に関しては情報が少ないが,女性連合中央事務局で行った聞き取りによれば,女性連合の活動の主たる財源は国家予算であり,その他,若干の手数料収入やサービス収入などがあるという。会員が支払う会費は,財源としての重要性は低い。

(注21)  この額についても,J支部長はガソリン代にも足りないと述べ,I支部長は皆を誘ってコーヒーを一度飲んだら終わりと述べている。

文献リスト
  • 石井知章 2012.「中国における労働組合の自立性をめぐる現在」『明治大学社会科学研究所紀要』 50(2) 175-186.
  • 石塚二葉 2018.「ドイモイ期ベトナムにおける大衆組織の政治的機能に関する予備的考察:女性連合を中心に」山岡加奈子・石塚二葉『ベトナムとキューバの女性大衆組織』調査研究報告書アジア経済研究所.
  • 岩井美佐紀 2012.「ベトナム農村における住民組織——メコンデルタ「新経済村」の集落に焦点を当てて——」重冨真一・岡本郁子編『アジア農村における地域社会の組織形成メカニズム』アジア経済研究所.
  • 坂田正三 2015.「中間組織としての農村大衆団体の変化」秋葉まり子編著『ベトナム農村の組織と経済』弘前大学出版会.
  • トゥエット,レ・ティ・ニャム 2010.『ベトナム女性史——フランス植民地時代からベトナム戦争まで——』(アジア現代女性史8)明石書店.
  • 古田元夫 2017.『ベトナムの基礎知識』(アジアの基礎知識4)めこん.
  • Asian Development Bank (ADB.) 2011. “Civil Society Briefs: Viet Nam.” https://www.adb.org/sites/default/files/publication/28969/csb-vie.pdf. (14 March 2019)
  • Eisen, Arlene 1984. Women and Revolution in Vietnam. Zed Books.
  • Froimovich, Stephanie, Sue-Ann Foster, Midori Nozaki, Nancy Leeds, Anna Keegan, and Neha Kaul Mehra 2013. “Women in Politics: Evidence of Legislative Change: A Case Study of Mexico, Uganda, and Viet Nam.” School of International and Public Affairs, Columbia University.
  • Huntington, Samuel 1970. “Social and Institutional Dynamics of One-Party Systems.” in Authoritarian Politics in Modern Society: The Dynamics of Established One-Party Systems. eds. Samuel P. Huntington and Clement H. Moore. Basic Books.
  • Jeong, Yeonsik 1997. “The Rise of State Corporatism in Vietnam.” Contemporary Southeast Asia 19(2): 152-171.
  • Kato, Atsufumi 2016. “The Limit of Chia Sẻ (Compassion): Interpretative Conflicts in the Collectivity of the Vietnamese Women’s Union.” in Weaving Women’s Spheres in Vietnam: The Agency of Women in Family, Religion, and Community. ed. Kato Akifumi. Koninklijke Brill NV.
  • Kornai, Janos 1992. The Socialist System: The Political Economy of Communism. Clarendon Press.
  • Linz, Juan J. 2000. Totalitarian and Authoritarian Regimes. Lynne Rienner.
  • London, D. Jonathan ed. 2014. Politics in Contemporary Vietnam: Party, State, and Authority Relations. Palgrave Macmillan.
  • Pistor, Nora, and Le Thi Quy 2014. “Enclosing Women’s Rights in the Kitchen Cabinet? Interactions between the Vietnam Women’s Union, Civil Society and State on Gender Equality.” in Southeast Asia and the Civil Society Gaze: Scoping a Contested Concept in Cambodia and Vietnam. eds. Gabi Waibel, Judith Ehlert and Hart N. Feuer. Routledge.
  • Porter, Gareth 1993. Vietnam: The Politics of Bureaucratic Socialism. Cornell University Press.
  • Sakata, Shozo 2006. “Changing Roles of Mass-organizations in Poverty Reduction in Vietnam.” in Actors for poverty Reduction in Vietnam. eds. Vu Tuan Anh and Shozo Sakata. ASEDP 73. Institute of Developing Economies.
  • Turley, William S. 1972. “Women in the Communist Revolution in Vietnam.” Asian Survey 12(9 Sep.): 793-805.
  • Waibel, Gabi and Sarah Gluck 2013. “More than 13 million: mass mobilisation and gender politics in the Vietnam Women’s Union.” Gender and Development, 21(2): 343-361.
  • Werner, Jayne 1981. “Women, Socialism, and the Economy of Wartime North Vietnam, 1960-1975.” Studies in Comparative Communism. 14(2-3 Summer–Autumn): 165-190
  • Werner, Jayne 2002. “Gender, Household and State: Renovation (Đổi Mới) as Social Process in Việt Nam.” in Gender, Household, State: Đổi Mới in Việt Nam. eds. Jayne Werner and Danièle Bélanger. SEAP Cornell University.
  • Werner, Jayne 2009. Gender, Household and State in Post-Revolutionary Vietnam. ASAA Women in Asia Series. Routledge.
  • Wells-Dang, Andrew 2012. Civil Society Networks in China and Vietnam: Informal Pathbreakers in Health and the Environment. Palgrave Macmillan.
  • Wells-Dang, Andrew, Le Kim Thai and Nguyen Tran Lam 2015. “Between Trust and Structure: Citizen Participation and Local Elections in Viet Nam.” A Joint Policy Research Paper on Governance and Participation commissioned by Oxfam in Viet Nam and the United Nations Development Programme (UNDP) in Viet Nam.
  • Zakout, Wael 2016. “How Joint Land Titles Help Women’s Economic Empowerment: The Case of Vietnam.” The World Bank. 20 January. https://blogs.worldbank.org/voices/how-joint-land-titles-help-women-s-economic-empowerment-case-vietnam. (14 March 2019)
  • BTC-TWHLHPNVN (Ban Tổ chức Trung ương Hội Liên hiệp Phụ nữ Việt Nam.) Cẩm nang Cán bộ Hội phụ nữ cơ sở[基礎女性会幹部のハンドブック]. 2011. Nhà xuất bản Chính trị quốc gia - Sự thật(政治国家事実出版社).
  • HLHPN (Hội Liên hiệp Phụ nữ Việt Nam.) 2017. Văn kiện Đại hội Đại biểu Phụ nữ toàn quốc lần thứ XII [第12回全国女性代表者大会文献]. Nhà xuất bản Phụ nữ(女性出版社).
  • Minh Ngọc và Thùy Trang 2017. “Tổ chức hội, đoàn thể - Dây dẫn chuyền từ vốn vay của NHCSXH[会・団体組織——社会政策銀行の資金をつなぐ紐帯].” Ngân hàng Chính sách xã hội[社会政策銀行]. 16 October. http://vbsp.org.vn/to-chuc-hoi-doan-the-day-dan-chuyen-tu-von-vay-cua-nhcsxh.html. (14 March 2019)
  • Nguyễn Đức Thành, Nguyễn Khắc Giang, và Vũ Sỹ Cường 2015. Ước lượng chi phí kinh tế cho các tổ chức quần chúng công ở Việt Nam[ベトナムにおける大衆機関の経済費用の概算]. Nhà xuất bản Hồng Đức[ホンドゥック出版社].
 
© 2021 日本貿易振興機構アジア経済研究所
feedback
Top