本稿は,朝鮮民主主義人民共和国の兵器工業の発展過程と武力機関および兵器工業関連部門の企業による経済活動の拡大過程を示すことを通じて,従来充分な裏付けがなされてこなかった「軍事経済」論の有効性を検証するものである。兵器工業の発展に関しては,平壌での兵器工場の建設に始まり,それが朝鮮戦争時に分散疎開していくつかの工場になったこと,1960年代から兵器の高度化が進められたことが示された。とくに電子分野での武器の高度化においては熙川の電子工業の建設などで中国の協力が大きな役割を果たしていたことを指摘した。武力機関および兵器工業関連部門の企業による経済活動については,1970年代に軍隊での自給を目指す副業生産の拡大とは別個に輸出品を生産するようになったことが示された。さらに,近年,武力機関および兵器工業関連部門の企業が,従来行わなかった国内消費者向けの製品の生産やサービスの提供を始めるようになったことも指摘された。「軍事経済」論でいわれてきた武器生産体系と武力機関による国家計画外での経済活動の存在は兵器工場の建設状況,武力機関および兵器工業関連部門の貿易会社の組織状況によって確認された。