2024 年 65 巻 2 号 p. 83-97
本稿は「台湾銀行」が1919年に作成した調査報告書『新嘉坡ニ於ケル當舗』を読み解きながら,20世紀初頭のシンガポールにおける華僑社会で,庶民の日常・社会生活を支えた当舗(質屋)による小口金融の態様を明らかにする。従来,シンガポールの華僑社会における小口金融の実態については,ほとんどが未解明であった。これはシンガポール経済の根幹を成した各種の商業取引と比較して,庶民間における小口金融の社会経済的な価値が顧みられなかったこと,また,その詳細を記した史料が確認されてこなかったという事情によるものであった。この点において『新嘉坡ニ於ケル當舗』は,当舗がどのような社会的,法的,資金的な背景を以て成立して運営されていたかを詳細に記した貴重な史料である。それは同時に,当時の華僑社会における小口金融の態様を甦らせ,シンガポールの華僑社会や金融経済の一端を明らかにするものである。