2024 年 65 巻 3 号 p. 97-125
今日世界各国で蔓延する政治不信のなかで,不信の対象たる政党と結びついてきた中間団体の弱体化が指摘されている。本稿では政治不信が広がるチリを事例として,今なお重要な中間団体であり続けている学生運動を分析対象とし,政治不信は学生運動の不信に結びついているのか否かを検証する。学生運動は,歴史的には政党青年部を通じて政党政治と結びつく政治エリートの一部という側面を持つ。他方で,今日では既成政党と距離を置き政権に対して抗議行動を行う政治エリートへの抗議者の側面も持つ。分析の結果,政党政治への不信は一貫して学生運動への不信と結びつく一方で,学生運動が政権と激しく対立するときには,政権不支持が学生運動への信頼と結びつくことが明らかとなった。この結果は,学生運動もまた他の中間団体と同様に政治不信とともに弱体化する一方で,抗議行動を通じて政治不信を自らの信頼につなげ弱体化を止めうることも示唆している。