アジア経済
Online ISSN : 2434-0537
Print ISSN : 0002-2942
研究ノート
比較政治学は習近平一強体制の登場を説明できるか――権威主義体制における権力の個人化の条件とメカニズム――
林 載桓
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2025 年 66 巻 1 号 p. 29-51

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抄録

権威主義体制のなかでリーダー個人に権力が集中する事例が増加している。このような個人化の進展は,社会への抑圧強化や国家間紛争につながりやすいとされ,権威主義国家の国内だけでなく,国際的にも懸念の声が高まっている。しかし,個人化の様相は非常に多様であり,その実態をどのように捉え,説明するかについては,さまざまな議論が行われている。本論文では,比較政治学における近年の研究を取り上げ,権力の個人化の概念と測り方,そして権力の個人化が生じる条件とメカニズムについてどのような知見が蓄積されてきたかを考察する。さらに,本論文は,これらの知見の妥当性と適用可能性について,リーダーへの急速な権力集中が注目を集めている中国の習近平政権を事例として検証する。本論文を通じて,①個人独裁の傾向を権威主義政治に共通する一つの特徴と見做し,その動態を定量的に測ろうとする試みがなされていること,②権力の個人化は,エリート間の権力分有の構造と性質を決める特定の制度や状況のもとで発生しやすくなること,③習近平政権における個人独裁の強化は,制度的,構造的,状況的要因が複合的に作用した結果である,という点を明らかにしたい。

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© 2025 日本貿易振興機構アジア経済研究所
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