アジア経済
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書評
書評:Joshua Oyeniyi Aransiola, Funmi Togonu-Bickersteth and Akanni Ibukun Akinyemi eds., Skipped Generation Households in Nigeria.
Cham, Switzerland: Palgrave Macmillan, 2024, xvii+182pp.
玉井 隆
著者情報
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2026 年 67 巻 2 号 p. 142-145

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はじめに

本書は,ナイジェリアにおける世代スキップ世帯(Skipped Generation Households)を対象とした研究成果をまとめた編著である。世代スキップ世帯とは,祖父母,両親,子(孫)のうち,真ん中の世代である両親が不在で,祖父母が孫の世話をする世帯を指す。本書の目的は,(1)世代スキップ世帯における祖父母と孫の幸福に関連する要因,(2)世代スキップ世帯が子どもに与える影響,(3)世代スキップ世帯が直面する課題の3つを明らかにすることである(p.39)。

本書の著者は全員,ナイジェリア南西部にあるオバフェミ・アウォロウォ大学(Obafemi Awolowo University: OAU)に所属している。著者陣はそれぞれ文化人類学,社会学,人口統計学,心理学,ジェンダー,社会政策,教育などの異なる専門を有し,名誉教授から博士課程の学生を含む。OAUの異なる学問分野と世代の研究者が,世代スキップ世帯という1つの対象を設定し,共同で研究を行い,その成果を発表した作品である。

本書の構成はわかりやすい。第1章で問題背景,第2章で理論の紹介,第3章で方法論を提示し,第4章から第10章でテーマ別の検討を行った上で,第11章でまとめを行っている。どの章も冒頭において,世代スキップ世帯をめぐる基礎的な背景や調査方法などが簡潔に説明されているため,関心のある章だけを読んでも問題なく内容を理解できる。世代スキップ世帯に関連する先行研究も,各章で丁寧に整理されている。

以下,第Ⅰ節では,本書の議論の枠組みについて,その問題点も含めて示す。その上で2つの論点を提示する。1点目は,世代スキップ世帯は問題なのか(第Ⅱ節),2点目は,世代スキップ世帯の抱える問題とは何か(第Ⅲ節)についてである。

Ⅰ 議論の枠組み

1.目的・対象

本書は先行研究にもとづき,3つの前提から議論を始める(第1章)。すなわち,(1)世代スキップ世帯は世界的に増加傾向にあること,(2)増加の背景事情は地域(欧米,アジア,ラテンアメリカ)により異なること,(3)世代スキップ世帯にはポジティブな側面(たとえば祖父母が孫から精神的な安定を得られること,孤児が祖父母によって救われること)がある一方で,ネガティブな側面(たとえば虐待や経済的負担)もあるという点である。これらの前提をふまえ本書は,ナイジェリアにおける世代スキップ世帯のポジティブな側面と問題の双方を,全国調査にもとづくデータから明らかにした上で,世代スキップ世帯を政策的な対象として設定し,問題に対応する必要があると主張(第11章)する。なお本書は,世代スキップ世帯の個別具体的なケースを検討していない。本書は個々の世代スキップ世帯の内実に迫るのではなく,ナイジェリア全体の世代スキップ世帯の理解をめざしたものである。

2.方 法

ナイジェリア全体を対象とする場合,調査設計上,国内の多様性をどのように考慮するかをめぐる問題が付きまとう。ナイジェリアは人口が2億人を超え,また36の州と連邦首都准州を抱える連邦制の国家である。ナイジェリアには300以上の民族がおり,北部はムスリム,南部はクリスチャンが多いとされる。

本書の著者が2018年に共同で行った調査は,ナイジェリアにある3つの州を選び,都市部,都市周辺部,農村部のバランスを考慮しつつ,各州から1200世帯・2400人,つまり合計3600世帯・7200人を対象として行われた。有効な回答を得られたのは,祖父母2144人・孫2144人の計4288人であった。調査方法は,対象となった祖父母・孫双方を含む全員に対する質問票調査と,その一部に対する半構造化インタビューおよびフォーカスグループディスカッションである(p.40-42)。

調査は3つの州を対象としている。その選択は,北部・南西部・南東部という3つの大きな地理的区分に従っている。民族的には,北部はハウサ・フラニ人,南西部はヨルバ人,南東部はイボ人が多い。これらハウサ・フラニ,ヨルバ,イボはナイジェリアの三大民族として知られている。本書はこの三区分に従い,北部のカノ(Kano)州,南西部のラゴス(Lagos)州,南東部のイモ(Imo)州の3州を調査対象に選んでいる(p.40)。ナイジェリアにおける世代スキップ世帯の全体像を把握するならば,やや大雑把な印象ではあるものの,この3州を選ぶことに重大な問題はないと思われる。

ただしここで指摘しておきたいのは,調査データの基礎的情報が十分提示されていない点である。たとえば半構造化インタビューの対象人数,質問票調査における具体的な質問事項,回答者の年齢や性別,職業,所得などの基礎的情報はどこにも記されていない。そのため,たとえば世代スキップ世帯における「祖父母の抱える病気」が列挙されているのだが(p.90),そうした病気を抱える人々の年齢層や所得,生活状況等はまったくわからない。

3.分 析

本書は第4章以降でテーマ別の各論に入る。具体的には,世代スキップ世帯の構成と動態(第4章),世代スキップ世帯が受ける支援(第5章),世代スキップ世帯に対する期待と現実(第6章),保健医療(第7章),虐待(第8章),教育(第9章),セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス(第10章)である。ただし多くの章では,上述した全国調査にもとづくデータは多少示されているものの,議論の大半は先行研究にもとづいていた。全国調査のデータが比較的多く提示されていたのは,教育(第9章)とセクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス(第10章)であった。

さらに本書では,たとえば健康状態と経済的状況の関連の有無や程度といった,個々のデータどうしの関連も十分に示されていないように思われた。上述のとおり,本書は世代スキップ世帯というテーマのもと共同で行われた研究成果を発表したものだが,各章の議論は比較的独立していた。また本文中の分析において,質的データがどのように使われたのかもわからなかった。

Ⅱ 世代スキップ世帯は問題か

本節および次節では,本書が十分に議論すべきであったと思われる点を2つ挙げたい。まず本節で議論するのは,世代スキップ世帯は問題なのかという点である。前節で述べたとおり,本書全体の目的のひとつが,世代スキップ世帯の課題を明らかにすることにある以上,本書は世代スキップ世帯を問題とする視点は強い。確かに本書は世代スキップ世帯のポジティブな側面も検討しているが,全体をとおしてみれば,世代スキップ世帯であるがゆえの問題が何かを探求することに重きがおかれていた。また本書の随所に,さまざまな問題に対する政府への提言が示されている。

このとき,アフリカにおける高齢化について検討した増田[2016]の指摘は示唆に富む。増田は,世代スキップ世帯について,手厚い保護が検討されることには同意するとした上で,「世代スキップ世帯を問題視する思考のなかに『本来あるべき家庭』,すなわち,平均的な世帯構造への幻想が前提とされているとしたら,その点については留保が必要だろう」と述べている[増田 2016, 42]。この指摘は,アフリカ社会において,文化的な要因により出現する,多様な世帯構造を説明するアプローチとプロセスなしに,世代スキップ世帯を安易に問題化することに注意を促したものである。たとえばアフリカ社会では,親子間での「忌避関係(avoidance relationship)」や,祖父母と孫の間の「冗談関係(joking relationship)」がさまざまな形でみられる[e.g. 阿部 2016]。ナイジェリア北部のハウサ社会では,とくに第一子と生みの親との間の忌避関係がある。さらに近年では既婚女性が,教育を受けたいために,子を実家に預けて学校や大学に通うケースも増えているという[梅津 2021, 76-77, 88-89]。

では本書はナイジェリア社会における世代スキップ世帯をどのように位置づけているのか。それは理想とされる家族形態からの逸脱なのだろうか。それとも,多様な家族形態のひとつにすぎないのだろうか。本書の研究背景を示した第1章の冒頭において,著者は,世界全体の家族構造に関する説明として,文化人類学者のマードックの論文を参照しながら,「伝統的な社会」においては,「核家族と拡大家族という2つの一般的な家族構造がある」が,近代においては,それ以外のさまざまな家族構造(たとえばひとり親家族や混合家族)が増えてきたと記述している(p.1-2)。他方でアフリカ社会における家族構造の説明においては,「伝統的慣行」としての拡大家族が,過去数十年の「経済的苦境に加え,グローバル化,近代化,産業化によって」失われてきていると指摘する(p.6)。また別の章では,「伝統的なアフリカのコミュニティ」では,コミュニティ単位での子どもの養育が行われること,あるいは子どもが老人の世話をすることが期待されているとも述べている(p.50-52)。

ではなぜ世代スキップ世帯が現代社会において増加したのか。その理由として,著者は先行研究にもとづいて以下を挙げている。すなわち両親の刑務所への収監,兵役,薬物乱用・依存症,精神疾患,経済状況の悪化,出稼ぎ,HIV等の感染症による死別,孫に祖父母の家事手伝いをさせることなどである(p.35-36)。またナイジェリア固有の課題として,国内のさまざまな紛争,ジャパ(Japa)現象と呼ばれる国外への出稼ぎの急増が,世代スキップ世帯の増加に影響している可能性があるとも指摘している(p.50)。

このように著者らは世代スキップ世帯を,「アフリカ的伝統」とは異なる,現代の社会変化により増加した家族形態のひとつとして位置づけているようである。もちろん本書の著者は「アフリカ的伝統」にもとづく世帯の在り方を理想としてはいない。しかし本書は,さまざまな世帯の在り方について丁寧に議論せず,それを「伝統的」か「現代的」かに二分しているように思われる。しかしながら,著者のいう「伝統的」と「現代的」な世帯が混在する今日にあって,上述したような,文化により異なる多様な家族形態を理解することなしに,世代スキップ世帯を一緒くたに問題化できるとは思えない。たとえばHIVにより両親を失い,引き取り手がなく仕方なく孫が祖父母に養われている世帯と,両親が出稼ぎで国外にいるために孫が祖父母に養われている世帯とでは,同じ世代スキップ世帯でも,それが当該社会においてあり得る家族形態からどれほど逸脱していると捉えられるかどうかは異なるだろう。「伝統的」か「現代的」かに安易に二分することなく,さまざまな家族の在り方,世帯の構成を追い,そこに世代スキップ世帯を位置づけることで,何がどのように問題となるのかをより明確に示すことができたのではないか。その過程がなければ,「なぜ世代スキップ世帯は「『問題』」なのか」という疑問は依然として拭えないだろう。

Ⅲ 世代スキップ世帯の抱える問題

世代スキップ世帯はいかなる具体的な問題を抱えているのか。この疑問に対して本書の最終章である第11章では,(1)虐待,(2)資金面の制約,(3)社会的孤立・孤独・スティグマ,(4)身体的負担と健康課題,(5)感情的ストレスと適応を列挙している(p.169-173)。しかしながら,これらは世代スキップ世帯ではなくともナイジェリアの多くの人々が抱えている問題であるようにみえる。確かに本書は政策提言を含むことからも,よりわかりやすく問題を提示することを企図していたのだと思われる。しかし評者としては,本書を読むかぎり,世代スキップ世帯の生活事情の複雑さをみないかぎり,世代スキップ世帯が抱える固有の問題を明らかにするのは困難だと思われた。このことを第9章の教育に関する議論を例として,以下で検討する。

第9章では全国調査のデータをふまえて,世代スキップ世帯であることによる具体的な問題を示している。そのなかには,たとえば世代スキップ世帯であることが「学校の宿題等の課題に取り組むこと」に否定的な影響を与えていると指摘している。そしてこの分析結果に至るまでの議論において,「放課後の学習時間が十分にとれていないと孫が考えている」というデータが示される。そしてこの主たる要因は,「孫が家事に参加している」からだという。

データの提示はここまでだが,ここから先を問うことが重要であると評者は考えた。たとえば「なぜ放課後の学習時間が十分にとれていないのか」「なぜ祖父母の家事を手伝わなければならないのか」といった疑問である。これらの疑問は,他の章も参照しながら検討する必要がある。

たとえば,虐待を扱った第8章である。著者によれば,祖父母が孫に対して身体的虐待を行う背景には,祖父母世代が現代の子育ての経験が不足しているがゆえに,孫を叱るために体罰を伴う「時代遅れ」の方法をとってしまうのだと指摘する(p.110)。もしこうした子育てに関する世代間の認識のギャップがあるならば,たとえば学校教育をどれほど重視するかどうかをめぐってもまた,祖父母と孫の間で認識のギャップがある可能性がある。

祖父母の健康状態も重要であろう。孫が祖父母のケアを担うことについては,第7章の健康に関する議論のなかで指摘されている。祖父母の心身に何らかの問題がある場合,孫はより多くの家事負担を強いられることは十分に考えられる。

さらに,経済状況も重要である。もし両親が生きている場合は,両親の経済状況や仕事内容,両親から祖父母への仕送りの有無や金額,亡くなっている場合は祖父母の仕事の有無や貯蓄などから経済状況を考える必要がある。それによって,祖父母が日中どれほど家事・育児に時間をかけることができるのかも変わってくるだろう。

このように,孫が学習時間を十分確保できず,また家事手伝いをしなければならない背景には,上述しただけでも,祖父母と孫世代の間にある教育に関する認識や価値観の違い,祖父母の健康状態,祖父母や両親の経済状況が関係する可能性が十分にある。第Ⅰ節で示したように,各章の議論が比較的独立しており,また基礎的なデータが示されていないため,ここではあくまで可能性の議論にはなってしまう。しかし,世代スキップ世帯の問題の解明は,世代スキップ世帯の抱えるこうした複雑な生活事情の絡み合いをいかに解きほぐすかにかかっているのではないだろうか。既存の政策フレームに当てはめてデータを示し,その数値の高低を評価するだけでは,世代スキップ世帯固有の問題が浮かび上がりにくく,結果として世代スキップ世帯に焦点を当てた検討を行う意義が薄れてしまうように思われた。

おわりに

本論は,ナイジェリアのOAUの研究者らが,世代スキップ世帯の現状を把握するという野心的な問題意識のもとで編み出した著作を検討した。批判的な議論を行ったつもりだが,それは「ないものねだり」であったのかもしれない。本書は世代スキップ世帯という概念をきちんと提示し,これまでの研究を整理し,今後検討すべき課題を丁寧に提示したという意味で意義があると思われる。本書をベースとして,ナイジェリア,あるいはアフリカ各地における世代スキップ世帯がどのように・なぜ問題なのか,そうした世帯はいかなる固有の問題を抱えているのかといった疑問を丁寧に検討していく必要があるだろう。

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